新婚旅行――6
「こちらがお二方のお部屋になります」
女将が俺たちを案内したのは、一階にある『花の間』だった。
一〇畳の和室である『花の間』には
「こちらの『花の間』は当旅館の庭園の隣に設けられていまして、
「ありがとうございます。ステキな新婚旅行になりそうです」
部屋の説明をしてくれた女将に、玲那が
「いえいえ」と
「
「素晴らしいですね。夫と楽しみたいと思います」
「深い意味はないんだよな? 桧風呂を楽しむって意味なんだよな?
「あら? 変な意味とはなんでしょう?」
玲那にカウンターを決められて俺は言葉に詰まった。
いいい言えるわけないだろ! 『風呂で
日頃から玲那はグイグイ来るため、また過激なスキンシップを狙っているのかと
たまらず視線を泳がせながら、俺はガリガリと後頭部を
こいつ、わざとだな!? 俺が照れるってわかってて、わざと意味深な発言をしたな!? 過激なイチャつきを臭わせたな!?
ただ、なぜその
ブスッとした顔で睨んでみるも、玲那は相変わらず涼しい笑みを浮かべている。
犬も食わないやり取りをしていると、微笑ましいものを見たように頬を緩め、「それではごゆっくり」と女将が退室していった。
女将の足音と気配が遠ざかっていくのを確認しながら、俺は溜息をつく。
「あんまりからかうなよ、玲那」
「それは無理な相談です。『好きな子にはイタズラしたくなる』って言うじゃないですか。わたしの本能が『お兄ちゃんをからかいなさい』って訴えてくるんです。お兄ちゃんはわたしにからかわれ続ける運命なんです」
「理不尽」
『深層の令嬢』の仮面を脱ぎ捨て、玲那がいたずらっ子みたいに口端を上げる。玲那のいけしゃあしゃあとした発言に、俺は肩を落とした。
疲れたような言動をしているが、実は俺はそこまで落ち込んでいない。これはただの照れ隠しだ。
正直、玲那にからかわれても悪い気はしない。むしろ喜ばしいと感じる自分がいる。
念のため言っておくが俺は
きっと俺は一生玲那に振り回されるんだろう。惚れた弱みってやつだ。
そんな本心がバレないように赤くなった顔を隠しつつ、俺は部屋の隅までキャリーケースを運ぶ。
同じく玲那も邪魔にならない場所まで荷物を運び、備品を確かめるためか押し入れを開けた。
「
「そうだな。旅館に来たんだし、雰囲気も出るからな」
押し入れから浴衣を取り出し、玲那が俺に手渡してくる。たてかん柄の
受け取った浴衣をまじまじと観察していると、不意に玲那がカーディガンを脱ぎはじめた。
突然のことに、俺は「ぶっ!?」と噴き出す。
「ななななにしてんだ、玲那!?」
「着替えですよ?」
「そんなもん見ればわかる! 俺がここにいるのになんで着替えてるのかって訊いてるんだよ!」
「夫婦なんですから構わないじゃないですか」
「『夫婦』って言葉を持ち出せばなんでも解決すると思ってない!?」
ツッコミを入れるが、玲那はまったく
玲那のやつ、本気だ! 本気で俺の前で着替えようとしてやがる!
好きな女の子の生着替えを見て、平然としていられるほど俺の理性は強くない。
慌てて俺は
バクバクと暴れる心臓を深呼吸することで落ち着かせ、俺は室内の玲那に文句をつける。
「お前には恥じらいってもんがないのか!」
「
「いままでの玲那の言動を振り返ったら痴女としか言えないんだが!?」
「お兄ちゃん。過去は振り返るものではありません。乗り越えていくものです」
「名言っぽく言ってるけど、開き直ってるだけだよな、それ!」
玲那が室内でドヤ顔を浮かべている様子が
くはぁー、と深々と
俺が寝てるあいだに布団に潜り込んできて、起きがけにキスを迫ってきた。
洗濯担当の立場を利用して、俺の服や下着をクンカクンカしていた。
ことあるごとに俺を誘惑し、初夜を求めてきた。
一部を
いや、もしかしたら本当に痴女なんじゃないだろうか? だとしたら、お兄ちゃん、ちょっと立ち直れないんだけど。
「安心してください。わたしは痴女なんかじゃありません」
「テレパシー能力でもあるのか、お前には!?」
「知らないんですか、お兄ちゃん? 妹には、お兄ちゃんの思考を感知する器官があるんですよ」
「あってたまるか! 玲那が考えてる『妹』は異能力者過ぎるんだよ!」
ツッコんではみたが、玲那になら本当にそういう器官がありそうで怖い。思わず身震いするなか、玲那が続ける。
「わたしにだって恥じらいはありますよ」
「だったら、なんで俺の目の前で着替えようとしたんだよ」
「決まってるじゃないですか」
玲那が即答する。
「お兄ちゃんの気を引くためです」
予想外の答えに、俺の鼓動が跳ねた。
「へ? 俺の気を……?」
「ええ、そうです。好きなひとに好きになってもらいたいと思うのは、自然な気持ちではありませんか?」
「す、す、
「そのためなら、わたしはどんなに恥ずかしいことだって我慢できます」
「ま、待て、玲那! オーバーキルだから! 俺、もう、ライフ
「おやおや? 恥ずかしさを我慢した甲斐があったようですね」
玲那がクスクスと笑みを漏らす。
俺は地面を転げ回りたい気分だった。
俺の妻が
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