球技大会――3

 一回戦、二回戦と勝ち進み、俺たちは決勝まで進出した。


 コートでは一組と二組が準決勝を行っている。どちらもスポーツ科なので、いずれが勝利しても俺たちの決勝の相手はスポーツ科だ。


 当然ながら、スポーツ科の生徒は普通科の生徒より運動が得意。そのうえ一組のチームも二組のチームも全員がバスケ部員なので、決勝は一筋縄ひとすじなわではいかないだろう。


「お疲れ、涼太」


 体育館のはしで準決勝の様子を眺めていると、翔が俺をねぎらいながら隣に座った。


「……調子はどう?」

「悪くない」


 真剣な顔で尋ねてくる翔に、俺は率直そっちょくな答えを返す。


「ドリブルもパスもシュートもできるし頭も回る。正直、思った以上に動けてる。はじめは緊張が強かったが落ち着いてきた。徐々じょじょに慣れてきてるのかもしれないな」

「そう。それならよかった」


 安堵あんどの笑みを浮かべる翔に、俺も口端を上げた。


「翔が気遣ってくれたおかげだ」

「僕の?」

「お前が必要以上にダンクしまくったのは、自分が活躍することで俺を目立たせないようにするためだろ?」

「いいや? ただ張り切っていただけだよ」

「しらばくれるなよ。こっちは感謝してるんだから、礼くらい素直に受けとっとけばいいんだ」

「それは光栄の極みだね」

茶化ちゃかすなよ」


 おどけるように肩をすくめる翔の肩を小突きながら、俺は苦笑した。


 大ジャンプする仕様上しようじょう、ダンクは脚への負担が大きい。連発するのは相当しんどいんだ。


 いくら翔の身体能力がバケモノ級と言えど、キツいものはキツい。実際、翔が公式試合に参加したときは、ここぞという場面でしかダンクは繰り出さないしな。


 翔が俺に配慮はいりょしてくれたのは明白。それでも素知そしらぬふりをしているのは、俺にい目を感じさせないためだろう。自分のせいで負担の大きいプレイをしていると、俺に思ってほしくないんだ。


 ありがたいけど、そんな迂遠うえんな心遣いはしなくていいんだぞ、翔? 俺は負い目なんて感じてない。負い目を感じるほど浅い関係じゃないからな。俺はお前を信頼してるんだよ、親友としてな。


 まあ、翔は根っからの紳士だから、俺の気持ちすらわかったうえで気遣ってくれているんだろう。


 などと考えていると、翔が俺の目をジッと見た。さながら、意中いちゅうの相手に告白するような顔で。


「嬉しかったよ。涼太と一緒にプレイするのは夢だったからね」

「ありがたい話だが、頬を赤らめながらそんなこと言うな! 『プレイ』を別の『プレイ』だと勘違いされるだろ!?」

「つれないこと言わないでよ。僕たち、相性バッチリだったじゃないか」

「わざとやってんのか、翔!?」


 やめろ! うるんだ瞳で俺を見つめるな! お前は知らないだろうけど、『属性』を持ってるのは女子だけじゃない! 一部の男子も持ってんだよ! ほら! 扉の近くにいるやつらがヒソヒソ話をしてるじゃねぇか!


 BでLな誤解が広まる危険を感じ、俺はこめかみを押さえる。頭が痛い。なんでこんなアホらしいことで悩まないといけないんだ。


 ともかく、これ以上翔のそばにいるのは危ない。


 もし、俺と翔の『腐』なうわさ(という名の妄想もうそう)が玲那の耳に入ったら、俺は気まずさと恥ずかしさのあまり生きていけない。


 というか、ヤンデレのがある玲那の場合、俺を生かしておかないかもしれない。物理的に。


 想像したら寒気がしてきた。翔から離れるため、俺は立ち上がる。


「どこに行くんだい?」

「水分補給」

「了解。決勝までに戻ってきてよ」


 翔がこぶしを俺に向けた。


 噂が加速するだろうが……まあ、仕方ないか。親友を無下むげにはできないしな。


 苦笑して、俺は自分の拳を差し出す。


 コツン、と俺と翔の拳が音を立てた。


 青春してるなあ、俺。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る