俺の妻になった義妹は学校では深窓の令嬢だけど家ではグイグイくる ~ブラコン妻との新婚生活は甘々です!~
虹元喜多朗
第一章
プロローグ
『二年
学期のはじめに行われる実力テストは、五教科五〇〇点満点。仮に一問の配点を二点~五点とすると、
ちなみに二位の生徒との点数差は二〇点以上。ぶっちぎりの一位。
それらを踏まえたうえで、俺の感想は――
「やっぱりな」
だった。
むしろ一位じゃなかったほうが驚く。目玉が飛び出るくらい驚く。きっとそれは、天変地異の
掲示板の前には生徒たちが集まり、ある者はガッツポーズをとり、ある者は頭を抱え、ある者は隣の友人を
飛び交う言葉の数々。
そのなかでもっとも多いのは、玲那を賞賛するものだ。
「
「もはや敗北感すら湧きません……次元が違いすぎる」
「ああ……お
待て。最後おかしなやつがいなかったか?
俺が「うん?」と首を
「ありがとうございます、みなさん。これからも
花咲く桜のような微笑みと、
これ以上ないほど
高二女子の平均を上回る
黒いニーソックスに包まれた脚は長く、カモシカのようにしなやか。
腰まで届く黒髪は、星空を写したかの
肌は純白で、さながら
告白されたことは数知れず。同じ回数、
紺色ブレザーと深緑のチェック柄スカートに青いネクタイ――南陵高校二年女子の制服を、ファッションモデルよりも
「相変わらず人気者だね、相原さんは」
アルカイックスマイルを浮かべる玲那を眺めていると、俺のクラスメイトにして友人でもある、
「
「お前がそれを言うか? 翔だって相当なものだろ」
そこにいたのは、一八〇以上の長身を持つ、甘い顔立ちのイケメンだった。
「張り紙にはお前の名前も入ってるし、バスケ部ではエースを務めてる。文武両道ってやつだ。しかも顔がいい」
「気をつけろよ、翔。いまの発言、遠回しな自慢に
「ありがとう、気をつけるよ」
翔は苦笑して肩をすくめた。その
「それにしても、涼太は鼻が高いんじゃないかい?」
「なにしろ涼太は、我が校が誇る『
『深窓の令嬢』とは、
そして翔の言うとおり、俺――
ニコニコと人好きのする顔をしている翔に、俺は答える。
「別に鼻が高いなんてないぞ?」
「あれ? 意外にあっさりしてるね。自慢の妹さんだと思うけど」
「玲那以上に素晴らしいやつなんてこの世界にいない。わかりきったことなんだから、いまさら自慢するようなものじゃないだろ?」
「
翔が「あはは……」と乾いた笑いを漏らす。
シスコンか……たしかにシスコンなんだろうなあ、俺は。
翔の発言に苦笑交じりの溜息をついたとき、玲那がこちらを向いた。
俺と玲那の視線が交差する。
変わらないアルカイックスマイルでペコリと
教室に戻るのか玲那が
玲那の背中を見送っていると、翔が
「涼太と相原さんのやり取りって
「いや、むしろ真逆――」
「真逆?」
翔が頭の上に『?』を浮かべ、俺はハッとする。
ヤバっ! 翔の尋ね方がさりげなすぎて、うっかり口を滑らせてしまった!
視線を泳がせながら、俺は必死に言葉を探す。
しどろもどろになりながらも、俺は話を取り
「い、いや、その……アレだ! 俺と玲那は義兄妹だし、親しくしてたら変な
「たしかに、もともと他人なわけだしね。仲良くしてたら、兄妹以上の関係なんじゃないかって
「だろ? だから、学校ではあまり関わらないようにしてるんだ! 家では普通に仲いいよ。真逆ってのはそんな意味だ!」
「ああ、なるほど!」
翔がポンッと手を打って納得する。
危ない危ない。なんとか
俺が、ふぅ、と
「真逆って聞いて、つい、家ではベタベタしてるのかなって勘違いしちゃったよ」
口から心臓が飛び出るかと思った。
幸い翔は、俺の肩が跳ねたことに気づかなかったらしい。
「流石にそんなことないよね。マンガやラノベじゃあるまいし」
「あっはっはっ」と
「も、もちろんだろ? マンガやラノベじゃあるまいし」
完全に
× × ×
夕方。電車に乗って三駅移動し、
ツヤツヤした黒い毛はシルクのように
「ふにゅぅ~」
優しく頭を撫でていると、甘えるような鳴き声がした。
俺の手のひらに頭が擦りつけられる。「もっと撫でて」との意思表示だろう。
「はいはい」と苦笑して頭をポンポンすると、黒い瞳が心地よさそうに細められた。
「えへへへへー♪ やっぱりお兄ちゃんの膝枕は至福ですね!」
膝の上の生き物が、温めたバターみたいに
そう。俺が撫でている生き物は、ネコでもイヌでもウサギでもない。小動物の
半日前にたくさんの生徒から賞賛され、
ぬるま湯に浸しすぎたライスペーパーみたいにフニャフニャと頬を緩めている玲那に、『深窓の令嬢』の
「お兄ちゃんお兄ちゃん。プリンが食べたいです。あーんしてください」
「
玲那がひな鳥のように「あーん」と口を開けて、俺が手にしているプリンをねだってくる。
無防備にさらされたピンク色の
ご
「わたし、テストで一位をとったんですよ? 頑張ったんですよ? ご
「プリンが欲しいならやるけど、寝っ転がりながら食べるのは感心しない。起きて自分で食べなさい」
「お兄ちゃんのイジワル! お兄ちゃんの膝枕でお兄ちゃんにあーんしてもらうことに意味があるんです! それに、妹を甘やかすのはお兄ちゃんの義務なんですよ?」
玲那がぷくぅ、とフグみたいに頬を膨らませた。「わたしは不機嫌です!」と訴えているつもりだろうが、ただただ可愛い。
無言で首を横に振ると、玲那の目にジワッと涙が
俺は「ぐ……っ」と
「今度からちゃんとするように」
「わーい♪ お兄ちゃん、大好きです!」
さっきまで
まあ、そんなところも愛らしいんだがな? プリンも玲那に食べさせるために持ってきたんだけどな?
……つくづく、俺は玲那に甘いよなあ。
諦めが混じった苦笑を漏らし、俺は玲那の頭をポンポンする。にへらー、と玲那がしまりのない表情をした。俺に心を許しきった笑顔だ。
そんな玲那の格好は、パステルカラーのルームウェアだった。
トップスはパーカー状になっており、フードには猫耳を
ボトムスは腿の大部分をさらすほど短いパンツタイプ。しなやかだけどほどよく肉がついた、絶妙なバランスの脚線美が
上下ともに、小動物の毛並みみたいにもこもこでもふもふだ。あざとさすら感じられる。
学校のやつらは、家でも落ち着いた格好で、
まさか予想もできないだろう。『深窓の令嬢』こと相原玲那の素顔が、ブラコン全開の超絶お兄ちゃんっ子だとは。
まあ、玲那の素を明かすわけにはいかないんだけどな。そこから、俺と玲那の関係に勘づかれるかもしれないし。それだけは避けないといけないんだし。
「さて。たっぷりお兄ちゃんに甘えたことですし、夕飯の
などと考えていると、
ダイニングテーブルにかけてある薄桃色のエプロンを手にとり、
「今日の
「おっ! それは楽しみだ!」
「お兄ちゃん、麻婆豆腐が好きですもんね」
「最近は玲那の手作りじゃないと満足できないけどな」
「ふふっ、これ以上ない褒め言葉です」
俺の言葉がよほど嬉しいのだろう。材料を冷蔵庫から取り出す玲那は、ご機嫌な様子で鼻歌を
俺も鼻歌を奏でたい気分だった。玲那の麻婆豆腐は頬が落ちるほどの絶品だからな。
ルームウェアの袖をまくり、「よしっ」と玲那が両手をグーにした。
「今日も腕によりをかけて作ります!」
「おう、頼むぞ!」
「ご飯のあとは一緒にお風呂に入りましょうね!」
「はあっ!? い、いや、それは――」
「今日こそは初夜にしましょうね!」
「待て待て待て!」
話の雲行きが怪しくなってきて、俺は
「そういうのはまだ早いって言ってるだろ!?」
「むぅ……さらっと行けば
「発想が怖いな!」
言質ってなんだよ、言質って。
きまりの悪さに頭をガシガシ掻いて、俺は
「と、というか、お前は恥ずかしくないのかよ? 一緒にお風呂とか、しょ、しょ、しょ……初夜、とか」
「……恥ずかしいに決まってます」
それまで堂々としていた玲那が、頬を赤らめて視線を
「けど……大好きなひとと結ばれるために頑張っているんですよ」
「そ、そうか……」
俺もまた視線を逸らした。
急にしおらしくなった玲那が可愛すぎて、全身がかっかしている。きっと俺は、玲那に負けず劣らず真っ赤な顔をしているだろう。
――もし、俺と玲那のやり取りを誰かが見ていたら、「こいつらなに言ってんだ、夫婦じゃあるまいし」と眉をひそめることだろう。
まったくもってその通り。
だが、そうなんだ。俺と玲那は
「こほん」と気恥ずかしさを
「今日のところは諦めます。
なにしろ――
「わたしとお兄ちゃんは夫婦なんですから」
相原涼太と相原玲那は、義兄妹であり夫婦なんだ。さながら、マンガやラノベの設定のように。
ようするに、俺は翔が言ったとおり、結構なシスコンだって話。
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