第138話 砲戦中盤②

1944年6月6日



「敵5番艦轟沈! 『比叡』は射撃目標を敵3番艦に切り替えた模様!」


「了解! こっちも敵4番艦をさっさと片付けるぞ!」


 乗鞍勇「霧島」艦長が発破をかけ、それに答えるかのように「霧島」が第4射を放ち、雨霰の如く飛翔してくる6インチ砲弾を払いのけるように飛翔していった。


「どうだ?」


 「霧島」から放たれた4発の36センチ砲弾の内、3発は至近弾で敵4番艦の周囲に水柱を奔騰させただけに終わったが、残りの1発は狙い過たず、敵4番艦の第3主砲に吸い込まれ、6インチ砲を紙細工のように押しつぶし、艦内深くで炸裂した。


 次の瞬間、敵4番艦の後部から活火山さもありなんの火柱が突き上がり、艦影が消滅した。おどろおどろしい炸裂音が、トラック沖の海域の轟き、敵4番艦の最後を報せているかのようであった。


 「霧島」は新たな射弾を放つ。


 今度は敵軽巡2番艦が標的だ。敵2番艦自体は「霧島」ではなく、違う艦に砲門を開いているようであったが、そんなことはお構いなしであった。


 敵2番艦の左舷に水柱が奔騰し、「霧島」に36センチ砲弾を撃ち込まれた事に気づいた敵2番艦の動きが明らかに乱れた。5戦隊との砲戦を打ち切って最高速力35ノットの快速を生かして離脱しようとしていた。


「逃がさぬ!」


 乗鞍が闘志を剥き出しにして叫び、敵2番艦に向かって新たな36センチ砲弾が飛んだ。


 敵2番艦の中央部から爆発光が閃き、敵2番艦の艦首と艦尾が僅かに持ち上がった。


「いいぞ! 砲術!」


 乗鞍は内山海翔砲術長を始めとする射撃指揮所に賛辞の言葉を送った。たった今、敵2番艦に命中した36センチ砲弾は艦内深くで炸裂し、艦の命とも言うべき竜骨をへし折ったのだった。


「敵3番艦、航行停止!」


 「比叡」と砲火を交わした敵3番艦も力尽きる。威勢良く「比叡」に挑んだまでは良かったものの、やはり戦艦と軽巡の差を覆すことは出来ず、トラック沖の海底に没する運命となったのだ。


「敵1番艦、遁走!」


「司令官、敵軽巡部隊撃破しました」


 乗鞍は3戦隊司令長官神崎龍虎少将に敵軽巡部隊を撃破したことを報せ、次の命令を待った。


「よし、5戦隊と合流して・・・」


 神崎は「5戦隊と合流して、敵空母部隊へと突撃を敢行する」と言おうとしたのだが、その命令は見張り員の絶叫によって遮られた。


「本艦右舷に敵駆逐艦部隊 30隻以上!」



 この時、「霧島」「比叡」に接近しつつあったフレッチャー級駆逐艦は全32隻だった。


「敵戦艦、視界内に2隻! コンゴウ・タイプと思われる!」


「ヤマト・タイプじゃないのが不満だが、今、必死に逃げ回っている空母部隊にとっては脚の速いコンゴウ・タイプを叩いた方が感謝されるだろうな」


 32隻中、前から9隻目に位置しているフレッチャー級駆逐艦「シャバリア」の艦橋でロバート・クレメンス少佐は呟いた。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――アメリカ海軍 フレッチャー級駆逐艦「シャバリア」


全長 114.7メートル

全幅 12.1メートル

基準排水量 2100トン

速力 36ノット

兵装 5インチ単装砲 5基

   40ミリ機関砲 2基

   20ミリ単装機関砲 6基

   21インチ五連装魚雷発射管 2基10射線

同型艦 計175隻

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「20隻くらいは投雷できるでしょうか?」


「まあ、そんなところだろうな。逆に言えば何隻かは確実に轟沈してしまうという事だが、空母部隊を逃がすためには数が多い俺たちが働かなければなるまい」


 副長がクレメンスに対して話しかけ、クレメンスは頷いた。


「第66駆逐艦戦隊、突撃開始します!」


「『ソーフリー』より命令電! 『突撃開始』!」


 前方の66駆戦が突撃を開始し、「シャバリア」が所属する第67駆逐艦戦隊にも突撃命令が下される。


「目標、敵戦艦1番艦。どうせ効かないだろうが撃ちまくれ! 目くらましくらいにはなる!」


 クレメンスが射撃開始を命じ、一拍置いて「シャバリア」の艦上に火焔が湧きだし、砲声が轟いた。砲撃目標が戦艦と的が大きいため、1射目から斉射で砲撃を開始する。


 「シャバリア」の前方でも多数の発射炎が閃き、敵戦艦に突撃を敢行しようとする勇者達の勇姿を、夜闇に浮かび上がらせた。


 敵戦艦1番艦、2番艦の舷側に多数の発射炎が閃いた。敵戦艦2隻はクリーブランド級との砲戦によって相当数の高角砲、機銃群を破壊されているようであったが、それでも数十条の火箭がフレッチャー級駆逐艦に殺到する。


「回避運動!」


 クレメンスは航海室に小刻みの転舵を命じ、「シャバリア」が蛇行し始めた。蛇行した分、敵戦艦との距離を詰めるのに時間がかかってしまうが、少しでも被弾確率を落とすためにはこの方法しかなかった。


 駆逐艦部隊の試練はまだ始まったばかりであった・・・


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

2022年4月1日より伝説の八八艦隊を主役とする「八八艦隊奮戦記 ~大艦巨砲の彼方~」の連載が開始しました。


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2022年4月2日 霊凰より






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