第24話 被害累積


 ラバウルへの初空襲から6日後


 この日、米基地航空隊による空襲が行われ、たった今全ての米軍機が投弾を終了し戦場からの離脱を開始していた。


 離脱しようとする米軍機を執拗に追いかけ回し、更なる戦果を計上する戦闘機もいたが、空戦は収束しようとしていた。


 そして、空戦を生き残った零戦・陣風も健全な滑走路に順次着陸しつつあった。


「今日は大分やられたようだな」


 第1特別航空隊を率いている下園は空戦直後でフラフラとしながら呟いた。着陸しつつある機体には被弾痕が目立っており、下園が搭乗していた陣風も10発以上の12.7ミリ弾を撃ち込まれて、補助翼が吹き飛ばされているという有様であった。


 そして、飛行場に対する被害も甚大である。


 ラバウルにある3カ所・7本の滑走路の内、5本から火災煙が立ち上っていた。


 直撃弾14発を受けた第1滑走路と、直撃弾を9発喰らった上に被弾した爆撃機が激突した第3滑走路の被害は特に酷いものであり、この2本の滑走路は向こう1週間は使い物にならなそうだった。


「今日はどれくらいの被害が出たんだ? 戦果も出来れば教えてくれ」


「来襲した敵機は約120機。その内F4F17機、ハボック23機撃墜。迎撃に上がった戦闘機隊の損耗はまだはっきりとは分かりませんが、私の私見では25機程度だと思います」


 下園の疑問に対して、愛機が使用不能になったため非番になっていた同航空隊所属の佐々木真二郎少尉が答えた。


 佐々木は話を続ける。


「滑走路は5本使用不能です。更に掩体壕、弾火薬庫といった付帯設備の損傷も甚大であり、ラバウルの基地機能は半減したといって良いでしょう」


「ラバウルに対する空襲はまだ2回目だが、もうのっぴきならないところまで来ているのかもしれぬな。航空隊の損耗率も酷いものだ」


 下園は航空隊の損耗率は言及した。


 このラバウルには5個航空隊が展開しており、その総装備機数は200機を優に超えていたはずだったが、今では100機そこそこまで打ち減らされてしまった。2日前に内地から追加の航空隊が派遣されることが決定していたが、その航空隊の到着までには2週間以上かかってしまうため、今暫くは現地の航空隊で戦線を支えるしかないという状況であった。


「この航空隊も新しい航空隊が派遣されたときに入れ替わりで内地で戦力再建を行いたいところだが、戦況はそれを許してくれるほど甘くはないだろう」


「それと・・・」


「隊長、あっち見てください!」


「うん?」


 下園が話していたのを佐々木の叫び声が遮った。


「あれは戦艦か? 主砲が12門あることを考えると扶桑型か伊勢型だが・・・」


 下園は目を細めながらラバウルの港に入港しつつある巨艦に視線を向けた。


「時代遅れの戦艦がラバウルに何用ですかね?」


「詳しくは分からんが、今の戦況で戦艦の巨砲が役に立つ場面といったら・・・」


 この時、在ラバウルの将兵のほとんどは2隻の戦艦が入港してきた理由が分からず、ただ呆然と見つめるのみであった・・・



「いや、流石に内地からここまでは遠かったですな」


 戦艦「伊勢」艦長高柳儀八大佐は司令長官席に座っている第2戦隊司令長官の宇垣纏中将に話しかけた。宇垣は2戦隊の旗艦を「伊勢」に定めており、艦上には宇垣がその艦に座乗している事を示す中将旗が翻っていた。


「高柳大佐はこの作戦についてどう考える?」


 宇垣が高柳に問うた。宇垣は普段から「黄金仮面」と揶揄されており、その感情を表情から全く読み取る事ができなかった。


。言うほど容易くはないですが、面白い発想だと本官は愚考しています」


「山本長官は空母部隊の決戦の前に敵基地航空隊を封殺することを望んでおられる。前線部隊としては任務に全力を傾けるべきだな」


「・・・とはいっても作戦の細かい部分は全て山本長官から一任されているから、いまから作戦の詳細を詰める必要があるが」


「取りあえず『日向』艦長の松田も本艦に呼んできましょう」


「そう手配してくれ。航空機が絡む今回のような作戦で対空戦闘の権威である『日向』艦長の知見は必要だろうからな」


 高柳の提案に対して宇垣が頷いた。


 これから迅速に作戦の詳細を詰めなくてはならなかった。


第6艦隊

司令長官 宇垣纏中将

第2戦隊

司令長官 宇垣纏中将

「伊勢」「日向」

第9駆逐隊

「朝潮」「大潮」「満潮」「荒潮」

第10駆逐隊

「朝雲」「山雲」「夏雲」「峯雲」


 第2戦隊の司令長官である宇垣は第6艦隊の司令長官も兼任しており、その戦力は戦艦2隻、駆逐艦8隻で、駆逐艦は全て朝潮型で固められていた。「伊勢」「日向」は呉のドックで対空機銃の増設工事が行われ、その対空火力は3倍増しとなっており、その真価がこの作戦で早くも発揮されるはずだ。


 基地航空隊同士の攻防戦によって戦線は再び停滞するかに思われたが、この日本軍の新たなる一手によって戦局は更なる変化を見せ、それが来るべき空母決戦へと繋がっていくのだった・・・


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

第3章終了です。


もし、この作品が面白いと感じたり、「架空戦記が好き!」「この時代の小説に興味がある!」「軍艦が好き!」と感じた読者の方は作品のフォローと★をお願いします。


霊凰より





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る