第23話 対空戦闘
敵機がF4Fと渡り合いながらポートモレスビーの飛行場目がけて接近してくる様子は地上からも十分に確認することができた。
敵爆撃機の編隊は、多数装備されている機銃座から前後左右に火箭を放っている。
その周囲を、F4F目まぐるしく飛び回り、両翼に装備されている4挺の12.7ミリブローニング機銃から機銃弾を叩き込む。
被弾した
その光景は多数の蜂が大型肉食獣に群がり、徐々に浸食していくかのようだった。
F4Fにも被弾・墜落する機体が続出する。
ジークから放たれた20ミリ弾が翼や胴体に命中し墜落する機体、燃料タンクを撃ち抜かれて火だるまになる機体もある。
「ペディ接近中。30機以上!」
滑走路の周囲に設けられている12.7ミリ機銃座の指揮を総括しているブルース・ゲイル大尉が大声で叫んだ。ゲイルが戦場で敵機の大編隊を見たのは初めての経験であり、発射柄を握る右手は汗でびっしょり濡れていた。
既に対潜哨戒や近距離偵察といった用途で運用されているカタリナやキングフィシャーは退避しており、F4F・ハボックといった機体(修理中の物を除く)は防空壕の中に避難していた。
「対空戦闘準備! 急げ!」
まだモタモタしており、機銃座に取り付いていない兵員に対してゲイルは大声で命じていた。
このポートモレスビーに配置されている人員は意外にまだ実践を経験しているものが少なく、空襲に対する対応が目に見えて遅れてしまっているのだ。
司令部壕、防空壕、掩体壕、滑走路付近に設置されている機銃座の砲身が次々に天を睨み、大仰角がかけられてゆく。
「残り15海里!」
レーダーマンから新しい報告が飛び込んでくるが、ゲイルの耳には届いていない。ゲイルの全神経は接近しつつあるペディに集中していた。
ここでゲイルは海岸線が騒がしくなっていることに気付いた。ポートモレスビーの港には現在20隻以上の輸送船と10隻程度の護衛艦が停泊しており、それらの艦が混乱状態になっているのだ。
空襲を回避するためには湾外に出るしかないが、いまから脱出を試みたとしてもエンジンが動き出す頃には空襲は終わっている。
艦の装備されている幾ばくかの機銃座を使って爆撃機に射撃を開始する勇ましい輸送船もあるが、それが命中することはない。
「全機銃座、射撃開始!」
ゲイルは命じた。
30基以上の12.7連装機銃座が一斉に火を噴き、多数の機銃弾が流星の勢いで高空へと飛翔していく。
機銃弾が早くも戦果を挙げ始める。空中の2カ所に火焔が湧き出し、赤い線を引いてペディが墜落していった。
1機は海面にそのまま激突して消えたが、もう1機は墜落中に機首を輸送船の方向に向けた。
「あっ・・・!」
ゲイルがそう叫んだとき、ペディが輸送船1隻に体当たりを敢行した。輸送船の甲板から火柱が立ち上り、おどろおどろしい音が滑走路にまで聞こえてきた。
これを皮切りに次々に戦果が報告された。
「ペディ1機撃墜! また1機撃墜!」
翼が根元から折られたペディ1機が制動を失い駒の様に回転し始め、胴体に多数の機銃弾を叩きつけられた機体は空中分解を起こす。
ばらばらになった敵機の残骸が滑走路の上から降り注ぎ、あるものは滑走路に突き刺さり、またあるものは機銃座に取り付いている兵員を容赦なく殺傷する。
次々にペディが火を噴きながら墜落していき、1機が撃墜される度に歓声が上がり、手隙兵員が拳を突き上げる。
ペディが爆弾を投下する前にジークが急降下してくる。
「仰角を修正せよ! 急げ!」
狙いをペディからジークに切り替えるべく、ゲイルは新しい命令を発したが、ジークの両翼が閃く方が早かった。
ジークから放たれた20ミリ弾、7.7ミリ弾が滑走路を抉り、一部の銃弾は修理途中で放置されていたF4F・ハボックに命中していく。
一度空中に舞い上がれば日本軍にとって重大な脅威となり得る2機種ではあったが、地上にいる間は只の鉄の置物である。機銃弾が命中し、10機以上の機体が鉄屑へと変わっていく。
機銃座にもジークは狙いを定める。
数機のジークが機銃座に向かって射弾をぶち込み、たちまち5基の機銃座が使用不能となってしまう。
ゲイルの機銃座は幸い生き残ったが、煙が晴れた後に凄惨たる光景がその目に飛び込んできた。
ついさっきまで共に対空戦闘に従事していた戦友が肉片へと変わっていた。
「ペディ投弾!」
戦友の死を悼む間もなく、上空から爆弾の投下音が聞こえてくる。
フル・スロットルの爆音が頭上を圧し、クリーム色の機体が飛行場の真上を次々に通過していく。
滑走路の3カ所で同時に爆発が起こり、大量の土砂が空中高く舞い上がる。
ペディは高高度から爆弾を投下しており、空中でF4Fに追いかけ回されているため、滑走路・付帯設備に対する命中弾は少ない。
それでもポートモレスビーの飛行場は小刻みに刻みつけられており、轟音が飛行場全体を包み込みつつあった。
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