救世の神と天使の悪趣味冗談

三国洋田

第1話 やはり顔だ

 地球とよく似た惑星コーンカツ。

 人間も住んでいて、文明のレベルもだいたい同じくらいの世界。

 ここでは、ある問題が発生していた。




 私は神。

 ……の見習いの、絶世の美女女神ミャリュエル。

 後の最高神よ。


 今は正式な神になるための、研修を受けている真っ最中。

 コーンカツという名前の星を管理している。


 もっとも管理といっても、そのほとんどは神の作りだした機械や天使たちが行ってくれている。

 よって私の仕事は、問題が起きた時に対処するだけ。

 こんなもの未来の最高神(予定)である、私にとっては楽勝ね。

 簡単なお仕事よ。


 しかも、職場はアットホームな雰囲気で、天使たちとも仲が良いのよ。

 残業もないし、とってもホワイトね。



「神様ー!ミャリュエル様ー!大変ッスよー!」


 天使のマイケルが、やって来たみたい。

 ちょっと口調が変だけど、優秀な天使よ。


 とても慌てている様子ね。


 あ、なんだろう、この感じは?

 とてつもなく嫌な予感がしてきた。

 長い戦いの始まりだって感じがするわ。


 まあ、とりあえず、マイケルに事情を聴いてみましょうか。


「そんなに慌てて、どうしたの?何かあったの?」


「そ、それがその、人間が……」


「人間が?」


「絶滅しそうッス!!」


「な、なんだってーー!?」


 嫌な予感的中!?

 あまりの事態に、つい変なツッコミをしてしまった!

 これは神らしくない失態だ。


 落ち着かなくては。

 深呼吸して、腹式呼吸して、素数を数えて、冷たい水を飲めば良いんだっけ?

 冷たい水はどこに?


 ……くだらないことを考えていたら、落ち着いたわ。


 とりあえず、原因を突き止めましょう。


「なぜそんなことになっているの?」


「それが子供の数が、急激に減少しています!!」


「はぁ!?なんでそんなことになってんのよ!?」


 あ、また神っぽくないツッコミを入れてしまった。


 いや、でも、ここまでの事態になると、仕方のないことだろう。

 うん、これは人間が悪い。

 そういうことにしよう。


「それで原因の調査はしたの?」


「もちろんしましたよ!!」


 マイケルが胸を張って、自慢げな表情をしている。

 仕事が早くて、素晴らしい。

 こういう時は、褒めてあげるのが良い上司なのよ。


「素晴らしい。おかげで仕事がスムーズに進むわ。それでは結果を報告してもらえる?」


「はいッス!どうやら人間が、昔よりも傲慢で強欲になっているみたいッスね」


 傲慢で強欲!?

 破滅しそうな言葉が並んでいるわ。


「そのせいで、みんなが高望みをして、恋愛や結婚の相手を見つけられなくなっています。その結果ッスね。こちらの報告書に詳しく記載されています」


 高望みって……

 そんなので恋愛をしなくなるものなの?

 結婚に憧れないの?

 子供が欲しくないの?


 とりあえず、報告書を読んでみましょうか。


 人間は良い相手が見つかれば、結婚しても良いと考えているようね。

 結婚相手に望むものは以下の通りと。



 男性側の要望。

 美女。

 若い。

 愛してくれる。

 男性と交際をしたことがない。

 スタイルが自分の好みである。

 肌がきれい。

 髪がきれい。

 わがままをあまり言わない。

 金遣いが荒くない。

 ブランド品を欲しがらない。

 金目当てではない。

 寛容性が高い。

 素直。

 性格が良い。

 お礼を言える。

 自分を一生涯大切にしてくれる。

 浮気をしない、自分の浮気は許してくれる。

 料理が上手い、他の家事も完璧にこなせる。

 飲酒、喫煙、ギャンブルをしない。

 趣味に文句を言わない。

 細かいことに文句を言わない。

 家族と仲良くしてくれる。

 約束を守る。

 時間を守る。

 責任転嫁しない。

 常識がある。

 気分が簡単に変わったりしない。

 受け身の姿勢ばかり取らない。

 自己評価が高すぎない。

 気遣いができる。

 すぐに感情的にならない。

 すぐに大声を出さない。

 物を投げない。

 いちいち泣かない。

 働いたことがあり、その大変さを理解している。

 稼ぎが少ないと文句を言わない。

 悪口、陰口、愚痴を言わない。

 相手に求めてばかりではない。

 他人の影響を受けすぎない。

 プライドが高すぎない。

 他人を見下さない。

 嘘をつかない。

 自身の悪いところをいちいち探さない。

 なんでも男性のせいにしない。



 女性側の要望。

 金。

 高身長。

 金。

 高収入。

 とりあえず、金。

 高学歴。

 イケメン。

 筋肉質な体型。

 金。

 大企業勤務、公務員、医者、弁護士などの、有名で他人に自慢できる職に就いている。

 清潔感がある。

 資産家である。

 飲酒、喫煙、ギャンブルをしない。

 金、金、金。

 浮気をしない、自分の浮気は許してくれる。

 優しく温厚で性格が良い。

 財産が多い。

 専業主婦をさせてくれる。

 家事を手伝ってくれる。

 金に決まっているだろ。

 自分を一生涯大切にしてくれる。

 親とは別居。

 親の介護をしなくて良い。

 長男ではない。

 貯金の額が多い。

 デート代はすべておごってくれる。

 リードしてくれる。

 気を遣ってくれる。

 自分の気持ちを察してくれる。

 カネ。

 ハゲてない。

 デブではない。

 大金持ち。

 暴力を振るわない。

 女心が分かる。

 幸せにしてくれる。

 何を買っても文句を言わない。

 金。

 年一回以上は、旅行に行かせてくれる。

 嘘をつかない。

 恋愛感情を持てる

 尽くしてくれる。

 初婚である。

 金。

 とにかく、金。

 金よこせ。



 ……ナニコレ?


 多すぎるでしょ!?

 人間って、みんなバカなの!?


「これはひどい。ひどすぎる。この条件をすべて満たした、完璧な人間なんて、めったにいないでしょう。相手に求めすぎよ。そんなことも分からないなんて愚かすぎよ!」


「その通りッスよ!こんなんだから相手が見つからないッスよ!!」


 なんてことなの!


 私としては、こんな連中、絶滅しても自業自得でしかないと思う。

 でも、それでは管理者として、神としては、失格であると上役たちに判断されてしまうかもしれない。


 上司の神に怒られてしまうし、責任を問われて出世にも影響があるかもしれない。

 面倒だけど、なんとかする方法を考えなくてはならない。


 ただ管理者だからといって、何をやっても良いってわけでもない。


「取った行動によって評価する、万能なる神の力を、なるべく使わずにやってみろ」


 って、上司が言っていたし。

 おそらくだけど人間を全員洗脳するとか、人間を全滅させて作り直すといった、強引な方法は評価が低くなる可能性がある。

 高評価を得られる方法で、良い案を考えないといけない。


 何か……

 何かないものか?



「名案を思い付いたわ!!」


「えっ、どんなのッスか?」


「他の星に絶滅しそうな、人間のような種族がいるから、コーンカツ星に連れて来ましょう!」


「へ~、そうなんすか、なんていう種族ッスか?」


「確かエルフとかいう種族で、美形しかいないのよ。彼らならみんな気に入って、恋愛も結婚もできるでしょう!」


 しかも、この方法ならエルフも救えるし、一石二鳥というわけよ。

 これなら高評価獲得、間違いなし!

 流石私!


「すごいッス!名案ッスよ!流石神様!!」


 マイケルも絶賛してくれているわ。


 フフフッ、そうでしょうとも。

 私はすごい神(見習い)なのよ!!



 そういえば、異星人同士でも子供を生むことってできるの?

 調べてみましょうか。


 ……よし!問題なく生むことができるようね。


 後はお金の問題だけど。

 これは当人たちに、なんとかがんばって稼いでもらいましょうか。

 自分の生活費くらい、自分で稼げ。



 では、連れて来ましょうか。

 神の力で、転移開始よ。

 コーンカツ星の各地に散らばるように、配置しましょう。


 ……転移成功を確認。


 お仕事完了よ。

 これで、この問題は無事に解決。

 私の出世は確定で、めでたし、めでたしね。


 そうだ!こんな時はアレをしましょう。


「終わったわ。めでたい気分だから、今日は宴会をしましょう!」


「流石神様!みんなに声かけて来ますね~!」


 今日は楽しい宴会になりそうね。



 次の日。

 人間は全滅した。


 人間はプライドが無駄に高く、上から目線な態度をよく取る連中だった。

 エルフもまたプライドが高い種族であった。


 そんな二つの種族が出会うと、どうなるのか?

 火を見るよりも明らかである。


 人間の態度の悪さに、エルフが激怒し全面戦争に発展。

 このような結末を迎えることになった。


 ちなみにエルフも全滅している。



「な、なんじゃこりゃあーー!?なんで全滅してんの!?」


 マイケルから報告を受けた私は、あまりの事態に神っぽくない台詞を叫んでしまった。


 本当に何してんの、こいつら!?

 あんたらイケメンや美女が好きって、報告書に書いてあったでしょ!

 なんでこんなことになってんのよ!


 しかも、私たちが宴会をしている間に滅ぶなんて、いくらなんでもタイミング悪すぎでしょ!!

 ちょっと羽目を外して、一日中飲んでただけじゃない。

 その間、誰も人間を監視していなかっただけじゃないの。


 なんでこんな簡単に全滅しちゃうのよ!?


 あ、そうだ、神の力で元に戻さないと……


 そんなことを考えていると、おぞましい殺気を感じた。


 誰かが、そばに立っていた。

 私の上司に当たる神だ。

 鬼のような形相をしている。


 どうやら私はここまでのようだ。

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