2話 ここから非日常
「へっきし!」
自分のくしゃみの音で俺は目覚めた。めっちゃ肌寒い。
俺は体を起こし、手のひらで二の腕をシャカシャカと擦って……ってあれ? 素肌? って、えっ!? 俺、素っ裸じゃん!
思わず起き上がり、全身をくまなく眺めてみた。うん、間違いなく素っ裸だ。
なんだこれ? 追い剥ぎにでもあったのか? 今どき財布だけじゃなくて着ている服まで持っていくとか徹底しすぎだろ……。
というか、ここは一体どこなんだ……。山の中か? ギャーギャーと聞いたことのないような獣の鳴き声が聞こえる。
こんな場所にフルチンで放置するとかもう殺人未遂だろ。一体なにをされたんだ俺……。
俺は体に付着していた土を払いながら、念のため、本当に念のためだが、自分の肛門に意識を向ける。……うん、キレテナーイ。どうやら俺の貞操は無事のようだ。本当によかった。
いやしかし、ある意味肛門よりも気になることがあった。俺のかわいくぽっこりと出始めていたお腹が、マッチョというレベルではないんだが、軽く引き締まってるような気がする。
誰かが俺を拉致して素っ裸にし、脂肪吸引をして森に放置していった? どんな嗜好の変質者だよ。
変質者に体をいじられた恐怖に慄きながら、俺はもう一度辺りを見渡した。
とりあえず人の気配はない。俺を拉致した変態はこの場にはいないらしい。だが
こういう時って声を出して助けを呼んでいいのかな? しかしさっきから獣の鳴き声らしきものが聞こえるし、これだけ深い森だと熊ぐらいは普通に出てきそうではある。いや、音を鳴らしたほうが熊って寄ってこないんだっけ?
……まあいい。叫んで助けを呼ぶのはやめよう。俺をここに拉致した変質者が声に気づいて戻ってくるかもしれない。
そうなると、ここからさっさと離れるのが一番よさそうだ。遭難したら動かないのが鉄則とは言うけれど、ここで待っていたところで、来るとすれば変質者だけのような気がする。
とりあえず地面は若干斜面になっているようなので、少しずつ下に向かって移動してみることにしようか。
◇◇◇
裸足で地面を歩くという行為は、思った以上にキツい。一度、上に尖った石ころを踏んづけて悶絶することもあったが、運がいいことに裂傷までには至らなかった。それからは地面を凝視しながらゆっくりと歩いている。
そうして一時間は歩いただろうか。
喉が乾く。ギャーギャーとなにかの獣の声が怖い。そしてなにより、全裸なのがすごく心細く感じる。
服ってヤツは体だけではなく、心も温かく包んでくれていたんだなあ……。
俺が服のありがたみを一生で一番深く感じながら歩いていると、急に木々が途切れて視界が広がった。
「湖だ……」
俺の目の前にはバスケのコートほどの大きさの美しい泉があった。この泉の周りだけは大きな木が生えておらず、陽の光をキラキラと反射させた泉はなんとも神秘的だ。
だがそんなことよりも、ここに大量の水があるという事実が俺を感動させた。やった! 水が飲めるぞ!
こういう水って飲んでも腹をくださないのか? なんて些細なことは気にしてられない。俺は引き寄せられるように湖に近づくと、すぐさま手を伸ばし、泉の水をすくって口に含んだ。
うまい! うまい! うまーい! 大自然の水ってここまでうまいものなのか? それとも俺の喉が乾きすぎたせいなのか!? とにかく必死で水をすくい、そして飲みまくった。
そうして喉の乾きを潤してひと息ついた頃、水面に自分の顔が映っていることに気がついた。
ん? あれ? これはたしかに俺の顔だが……。
なんだか若返っているような気がするぞ?
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