ようこそ竹久探偵事務所へ
だいだらぼっち
第1話 ようこそ竹久探偵事務所へ
「よし終わった」
「お疲れっすー」
「お茶ぐらい淹れたらどうだ? 」
「あっ、さーせん(笑)」
と不毛なやり取りが続く。ここはボロボロな雑居ビルの二階にある「竹久探偵事務所」だ。
俺は大杉 肇(おおすぎ はじめ)。ここで探偵として働いている。
「肇さんって30歳過ぎでここに入ったんすよねー? 」
こいつは堂園 裕也(どうぞの ゆうや)まだ25歳の若手だ。飲食店勤務だったが近年の不況で潰れ路頭に迷っているところを所長にスカウトされた。
なぜこいつがスカウトされたのかと俺は不思議でならない。
「あぁそうだ。悪かったね30過ぎて探偵で」
「悪くないっすよ。カッコいいじゃないっすか! 」
「未解決事件とかバンバン解決して! 」
「お前、渡した書類読んだのか? 」
「なんすかそれ?ありましたっけ? 」
「はぁ。なんでお前がスカウトされたんだぁ? 」
「知らないっすよ(笑)」
「いいか、俺たちは小説のような名探偵〇〇じゃねぇんだよ」
「俺たちの仕事は、不倫調査や企業、学校または家庭等における虐待や暴力行為の実態調査や対象の素行調査とか人探しとか割と地味なもんばっかだって所長も最初に言ってたろ?」
「あー俺そういう難しい話は分かんねぇんすよ」
「そうかよ。じゃぁ余計なことすんなよ」
「まだ何にもしてないじゃないっすか(笑)」
「何もしていない方がミスるよりマシだ」
「肇さん俺にあたり強くないっすか」
「俺はお前まえみたいなやつが嫌いなんだよ」
「俺は所長とか肇さんのことリスペクトしてるっす! 」
「お前に尊敬されても30代前半のオジサンは嬉しくないよ」
「前半ってつけなくてもいいじゃないっすか?もう34歳でしょ?」
「オジサンにとって34歳と35歳は言わば19歳と20歳ぐらいの差なんだよ」
「いいか?34歳でオジサンと言ってもまだまだ若いんだからと言われる。だが35歳になってみろ、オジサンっていうと微妙な空気になる」
「中年オジサンの汚いイメージは35歳からなんだ」
「それは35歳以上の人に失礼ですよ(笑)」
「なぜ半笑いで言うかな」
「てか、意外と肇さん俺のこと好きなんじゃないっすか? 」
「お前が余計なこと言わなきゃな」
「あっ、俺お茶淹れますけど肇さん飲みます? 」
「あぁ淹れてくれ」
「てか、ここってなんか妙に喫茶店みたいじゃないっすか? 」
「あぁ、この事務所が出来る前は喫茶店だったみたいだぞ」
「そうなんすね。どおりでこの棚とかカウンターとかあるんすね」
「あぁ。処分するにも金かかるからなぁ。それに所長こういうの好きだし」
「てか似合うすっよね(笑)」
「そうだな(笑)」
「マスターとかいないんすか? 」
「このビルの管理人だよ。たまに留守をお願いすることもあったが、お前が来たからな」
「マスターのコーヒーが恋しいよ(笑)」
「俺のインスタントコーヒーが嫌なんすね」
「お前も飲めばわかるよ。まぁ飲めたらだけどな(笑笑)」
「そんなんだから肇さんはモテないんっすよ」
「お前も独り身だろうが」
「所長はどうなんすか? 」
「あー分かんねぇ」
「今度聞いてみてくださいよ(笑)」
「嫌だよ。お前が聞けよ(笑)」
「そんな勇気ないっすよ。はいお茶どうぞ」
「サンキュ。コーヒーの話の後にお茶って」
「いいじゃないですか。俺の淹れたコーヒーは不評ですから」
「あぁ。泥水みたいだよ(笑)」
「じゃぁ泥水飲んでくださいね」
「冗談だよ(笑)」
「てか今日も暇っすね」
「お前はな」
「また調査報告書ですか? 」
「そうだ」
「手伝いま――」
「手伝いはいらんぞ」
「まだ言ってないじゃないっすか」
「こないだデータ消したろ」
「あれはマジすんませんした(笑)」
「笑うな」
「いやーほんと(笑)」
「必死でしたよね(笑)」
「うるさい」
「さーせん」
カランと鈴の音が鳴る。依頼か所長かあるいは宅配か?そんなことを考えながら振り返る。
そこにいたのはきれいな綺麗な女性であった。おそらく不倫調査だろう。そう考えながら俺は言う。
「竹久探偵事務所へようこそ」
~ 続く~
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