夢とか希望とか永遠とか
@heppo
第1話
なぜ人は手に入れられないものを欲するのだろう。
時間は常に流れていて、今はすぐに過去になる。永遠というものはないし、変わらないものはすでにこの世には存在しない。変わらないものを望んでもそれは手に入れることはなく、ただ虚しくなるだけ。だから私は今のこの一瞬だけを信じる。
中3の11月、進路を決める三者面談があった。私はノックをして、蛍光灯の青白い光に照らされた教室に母と入った。教室の中は面談のために生徒用の机が2個ずつ向かい合わせに並んでいた。先生はその横に立って私たちを迎えた。
私たちが座ると、先生は私の学校での様子を話した。先生は特に心配することはないけれども、私がもう少し積極的になれば、勉強もそれ以外の学校生活ももっと充実するのではないかと言った。
「行きたい学校はあるのか?」
と先生が聞いた。
「進学しようとは思っていない」
と私は答えた。
この時期、どこどこの高校に行きたいとか、今の実力だと希望する学校に合格できないといった話を耳にすることが多くなっていた。中にはやりたいことはないけどとりあえず高校には行きたいと言っている子もいた。自分が他の人と違う選択をしているけれども、それが間違っているとは思わなかった。私は学校で勉強する意味とか価値が見出せなかったし、義務教育が終われば学校に行く必要なないと考えていた。私は今を生きたかった。
時々同じような事を言う生徒がいるのだろう。先生は特に驚くこともなく、
「将来のために、高校は行った方がいいよ」
と言った。
母は私がこんなことを言うとは想像すらしていなかったのだろう。明らかに動揺していた。それを隠しそうとしながら、震える声で言った。
「先生のおっしゃる通りよ。やりたいことがなくても、高校に行ってから見つければいいじゃない」
「学校に行く必要性を感じない」
と私が話すと先生は、就職や将来の生活のために学歴はあった方がいいとか、私の学力で進学できそうな高校とかの話をした。「そういうことじゃないんだけどな」と思ったけれど私は黙っていた。
「ご両親とよく話をして決めなさい」
と先生が言って面談は終わった。
帰り道、母は一言も喋らなかった。
その夜、父に呼び止められた。
「そこに座りなさい」
母は少し俯いて隣に座っていた。
「大学じゃなくてもいい。せめて専門学校くらいは出てほしい」
と父が言った。
両親は今まで私の意思を大切にして育ててきてくれた。理由もなく学校を休みたいと言った時には、
「たまには息抜きが必要だから」
と認してくれた。習い事も私がやりたくないと伝えれば無理強いすることはなかった。仲良しグループに入らなかったり、友だちが家遊びに来たりすることがほとんどなくても、
「無理して友だちに合わせようとしなくてもいいのよ」
と言ってくれた。両親は私のことを理解してくれていると思っていた。私の将来を心配しての言葉だとは分かっていたが、意に沿わないことをさせようとする父の言葉には驚いた。私に「普通」であって欲しいのか、両親の見栄なのか、他にどんな意図があるのか?
私も両親も、話さなくてもある程度は分かり合えていると思いんでいたのだ。私は勝手に理解してもらっていると思っていたし、両親も私がこんな風に考えているとは思っていなかった。やっぱり分かり合えることなどないのだ。自分のことも分からないことがあるのに、自分以外の人を理解するのは難しいことだと分かっていたけれど、やっぱりショックだった。
私には両親を説得できるだけの理由がなかった。自立しますとも言えなかったし、高校に行かずにやりたいことがあるとも言えない。「必要性を感じない」だけでは説得できない。それに進学すれば、とりあえずは今までのような暮らしはできる。とりあえず私は流されることにした。この話し合いがずっと続くことも嫌だった。私は折り合いをつけることにした。
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