場違いなかわいらしさ


 やる気満々の傭兵を睥睨して、エンズは実に愉快そうにしていた。


「ははは。曲者だの賊だのと好き放題言われておるぞ、我が主よ」


 楽しそうに僕のことをからかってくる。


「しかも誰も何も疑問を感じておらん。相手がならず者とはいえ、王として顔や姿が下々しもじもに浸透しておらんのはいささかどうかと思うぞ? なあ?」

「いやまあ、僕はまだ即位したばかりだから」

「顔が平凡すぎて覚えてもらえておらんだけでは?」

「ぐっ」


 気にしていることをズケズケ言ってくれる。


「それはさておき我が主よ。ヒルグレイブ公爵などより仮面の輩の方がよほど厄介そうじゃぞ」

「うん。わかってる」

「雑魚に構っておると取り逃しかねん」


 たしかに。

 既に公爵ともども姿を消している。

 屋敷の中に逃げ込んだようだ。

 公爵の私兵を相手取っている暇はなさそうに思える。


 僕は技能目録スキルインベントリから「クラス:大召喚術師グランドサモナー」を有効化アクティベート。《魔狼召喚サモンウルブズ》を使用する。


 テラスに大きな魔法陣が展開し、発光する。傭兵たちが驚き飛びのいたそこに姿を現したのは――深き森の名持ちネームドの巨狼。“銀閃シルバーレイ”だ。その周囲には無数の狼の群れ。


「テラスと中庭――屋敷の外を制圧して」


 僕が頼むと“銀閃”はくーん、とやけに可愛らしい声で啼いて鼻先を顔にすりよせてきた。見た目より甘えん坊なんだろうか。


「そういえばあの時飼い慣らしテイムしておったな……」

「あいたっ。なんで脇腹を叩くんだよ」

「知らぬわ、馬鹿め」


 そっぽを向いて器用に僕をつついてくるエンズを片手でいなしつつ、


「なるべく殺しちゃ駄目だよ。自分たちがやられそうなとき以外は」


 狼たちに指示をした。鑑定できる目に見える範囲には高い力量レベルの相手は見当たらない。“銀閃”なら不殺の条件付きでも問題ないはず。


「エンズは公爵を抑えて。あの仮面は僕がやるよ」

「我の仕事はつまらぬ捕り物か。我が主はゆめゆめ油断せんようにな」

「わかってる」

「公爵を捕え次第そちらに急行する。危険と判断したらすぐに我を召喚せよ呼べ


 言い終わるより早くエンズは動き出した。すいすいと私兵の隙間をすり抜けて屋敷に突入していく。


「ちょっ!?」


 僕が慌てて後を追いかけようとしているところに、


「死ねおらぁ!」


 いかつい上にガラの悪い男たちが押し寄せて来るけど無視。スルーしていい。何故なら“銀閃”たちが露払いをしてくれるから。無数の牙と爪が僕の行く先をこじあけてくれる。


「じゃああとよろしく!」

「くーん」


 全部終わったらしっかり撫でてやることにしよう。うん、決定。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る