第十話 「おお、国王よ。死んでしまうとはなさけない」
仮面の魔法使い
ノルクス・ヒルグレイブ公爵のもたらしたアルベルトの死の一報は、シャルロットには信じられないものであり、到底受け入れられないものでもあった。
「アル兄さまが……そんな……」
「事実です」
打ちひしがれるシャルロットに仮面の人物は冷淡に告げた。
「証拠は?」
シャルロットを支えるように寄り添ったローザの短い問いかけには、ノルクスが応じた。
「この者は高位の魔法使いなのだ。宮廷魔術師殿にも勝るとも劣らぬ腕前の持ち主でな、私が召し抱えておる。アルベルト陛下がダンジョンに赴くと耳にした際に心配だったのでな、
自慢げにペラペラと喋る姿からはアルベルトを悼む気持ちは感じ取れない。むしろ好都合、といった風情であった。
「陛下のダンジョン探索の話は、どこで聞いたんです?」
それは王宮でもごく一部の者しか知らないはずの情報だ。
「陛下から直接伺ったが? 何か?」
「……そーですか」
ローザは追及を諦めた。アルベルトが不在の今、ノルクスの言の真偽を確かめる術はない。それよりも、小さな体を震わせているシャルロットを落ち着かせる方が先決だ。
「この件は宮廷魔術師であるこの私が一旦預かります。
「宮廷魔術師殿にそのような指図をする権限があるとでも思っているのかね?」
ノルクスの態度にローザは怒ったりしない。馬鹿にするなり嘲るなり好きにしてくれればいいと思っていた。この男に何を言われても気にもならない。そんなことより今は、僅かでも時間が欲しかった。
「私のことはどーでもいいのでシャルロット様のことを
「……わかった。いいだろう。明朝だな」
意外にもノルクスはあっさりと引き下がった。仮面の人物を連れて魔導書庫から去っていく。性別不明の仮面の魔法使いは去り際、肩越しに振り返った。仮面のせいでわかりにくかったが、シャルロットを凝視しているようだった。
「何者ですかね、あの仮面は。っと、シャルロットくん、だいじょーぶですか?」
「おししょうさまぁ……」
緊張の糸が切れたシャルロットはぽろぽろと大粒の涙を零した。ローザにしがみつき、声を殺して泣いた。
宮廷魔術師の知識に泣いている少女の泣き止ませ方は無かった。ローザはどうしたものかと少し考えて、柔らかそうな金髪におそるおそる触れた。ゆっくりと撫でてみる。
「アルベルトくんなら心配いりませんよ」
あの人を殺せるダンジョンなんかそうそうあってたまるか、とローザは思っている。エンズだって一緒にいるのだ。無事に決まっている。ノルクスのもたらした悲報の根拠は仮面の魔法使いの証言だけだ。信憑性など皆無に等しい。
「何事もなかったよーな顔して帰ってきますって」
とりあえず翌朝までの時間を稼ぐことはできている。それまでに帰ってきてくれればなんとでもなる。
だが、翌朝になってもアルベルトは王宮に帰還しなかった――
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