揺れる神剣
深く
魔物に襲われかけ、武装した人間たちに追われることもあった。
差し迫る危険から自己の存在を護る為に守護者が生まれた。
脅威の姿を模した守護者はしかし、物言わず佇むのみだった。
結局、周りには誰もいない。
世界を広げても独りであるという事実は変わりはしなかった。
守護者の傍を離れて、彷徨し、そこで出会った人間は、手を取り抱きかかえてくれた。はじめて触れる存在にひどく動揺し、そして安堵した。
この人間は自分を護ってくれた。
この人間は怖くなかった。
この人間は温かかった。
だから。
だから砕かれた
新しく、最強の守護者とをその人間の姿の姿を模して構築しなおした。
最下層の階段から私たちは見ていた。
エンズが粉々にした守護者の破片が集まって人間の形を取ったことを。
その人間の姿には見覚えがあった。
「シーラ、あれってさ」
「アルベルト国王だな」
リズもフィオナも気付いていた。
あれはリーデルシュタイン王国の現国王、アルベルト陛下の姿だった。
私たちのもうひとつの目的の。
「でも、なんで守護者が国王陛下の姿になってるのかな?」
「さあなぁ」
「なんでだろうね?」
「我が主の姿を似せた程度で我が剣先が鈍るなどと思わんことじゃな」
我は剣を下段に構えた。拾い物にしてはまあまあの業物じゃったが、酷使しすぎて刀身の限界が近い。この忌々しい守護者を斬ったら寿命かもしれぬ。
守護者が我が主の姿を取っている理由はおおよそ見当がついている。
お人好しの我が主が拾ったあの幼女が、ただの幼女ではなかったのじゃろう。
「図々しいにもほどがある」
守護者の像の発する圧はこれまでのものよりも強くなっていた。全ての石くれをひとつにまとめたせいか。その分
「目障りじゃ」
一撃で斬って落とす。そう思って地面を蹴った。迎撃の振り下ろしをすり抜け間合いに入った。獲った。確信する。が、守護者の顔がこちらを見た。我が主の顔。笑っている。微かな逡巡。この我が? 必殺の間合いが、ズレた。
「チッ」
舌打ちとともに守護者の背後に着地。剣を振ることはしなかった。
我が主のニセモノに剣が鈍るなどとは。
大失態じゃな。
くそ。
守護者がこちらに振り返り、ずず、と立ち位置を変えた。
我と迷宮核が鎮座していたであろう台座の間に立った。
「はっ」
いちいち苛つかせてくれるのう。
じゃが所詮アレはニセモノの作り物。壊してしまえばよい。
良いのに。
剣を振るうことは躊躇われた。
正味、この時の我は隙だらけであったろうと思う。じゃが守護者は我に攻撃を仕掛けてくることはしなかった。
どちらも攻めることのない膠着が生まれ、無為に時が流れた。
互いに構えを取ったまま動かない。
張り詰めた沈黙を砕いたのは――
「エンズ! 無事かい!?」
――ようやく到着した我が主(本物)の声であった。
「我が主よ、遅すぎじゃ!」
「ごめんごめん!!」
眉毛をハの字にして謝る我が主は、なにやら怪しい風体の男をふたり連れておった。そしてその腕の中に、件の幼女を抱きかかえておった。
「ムカつくんじゃが!?」
「なんでっ!?」
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