タッカー&ノリス(3)
「おっと、そこ右だ」
「ん」
相棒のノリスの指示に従って通路脇の見えづらい脇道に踏み込む。
「ちょっと行ったところに小部屋があって宝箱があるはずだぜ」
「ん」
更に指示。足元と前方に注意して進んでいくと、
「ほーらあったあった。やっぱマップがあると効率が段違いだな!」
「ん……って、待て待てちょっと待て相棒。さっきからお前なにやってんだ」
小部屋内をざっと見回して危険がないことを確認しつつ、俺は相棒にツッコミを入れた。相棒は「はぁ?」みたいな顔をして俺を見た。ムカつくからその顔やめろノリス。
「ダンジョン探索に決まってんだろ。マップがあっても肝心のおうさ……えーと
今、王様って言い掛けたな。まあ、途中で止めたからノーカウントにしてやろう。
それにしても、
「たまーにマトモなこと言うよな相棒」
「へっへっへ」
相棒はご機嫌だった。ダンジョンマップを拾ってからこっち、開ける宝箱は全部お宝だった。いくつかの宝石、ちょっとした
「冒険者稼業も悪くねえんじゃねえか?」
「今度の仕事が無事に終わってからにしろよ、そういう話をするのは。忘れんじゃねえぞ。今回の依頼は内容も大概だが、依頼主もまともじゃないときてる。失敗しました、じゃ済まされねえ」
依頼主の仮面でも思い出したのか、相棒はぶるりと丸い体を震わせた。
「けど見つかるもんかねぇ。このダンジョン、
「そうだな」
「『失敗しました』は駄目でも『見つかりませんでした』はアリなんじゃねえか?」
「どうだろうな」
『見つかりませんでした』の場合は口封じに殺されるじゃなかろうか。内容が内容だけに、失敗したやつを生かして返してはくれまい。そう考えるとやはり真剣に依頼に取り組むべきだ。
どうにかして標的を見つけ出して、殺す。
でないと俺たちに未来は無い。
いくらダンジョンでお宝をゲットしても意味は無いわけで、どーしたもんか……。
なんというか、幸運というのは起きる時には立て続けに起きるものらしい。
マップゲット、お宝ゲット、その次は――
「見つけた!」
相棒は大声で叫んでしまっていた。
そう、見つけたのだ。標的を。
ダンジョンの迷路のような狭い通路をマップを頼りに抜けて、魔物の群れを隠し部屋でやりすごし、なんだかんだと下層階へ進み、辿り着いた広間のような大部屋にその男はいた。
王族のオーラの全く感じさせない朴訥とした容貌は、依頼人が用意した人相書きそのままだった。ダンジョンのど真ん中だというのにどういうわけか幼い子供を抱きかかえている。
「ん?」
相棒の叫び声が広間に響き渡り、標的も当然こちらに気付いた。
俺は相棒のマヌケさ加減に内心頭を抱えていた。こっそり近づいて不意打ちで仕留めれば終わりだったのに。くそ。いや、発見できただけでも十分ツイてるんだ。ここからだ。ここから上手く隙をつけばいい。落ち着け。落ち着いて仕切り直しだ。
「どうもこんにちは。冒険者の方……、ですよね?」
俺は同業者を見つけた冒険者の
「アッハイ。そうですそうです」
標的は抱えた子供を抱きなおし、軽く足を踏みかえた。逃げやすい体勢を取ったか。こちらを警戒しているのか?
「いやー、やっと
「いや、お仲間じゃなくてひょうて……モガッ」
俺は素早く相棒の口を手で塞いだ。頼むから要らんことは言わんでくれ。モガモガ言っている相棒の口を解放して掌を見る。唾液がべっちょりついていた。うわあ。
標的はというと相棒の失言に気付いた素振りもなく、
「いえいえ、大丈夫ですよ。魔物も沸いてませんし」
とお人好しな笑みを浮かべていた。それでもこちらに対する警戒は解いていないようだったが。
「そう言っていただけると助かります」
「おふたりもダンジョンから脱出できなくなってる感じですか?」
「……は?」
なんだと?
脱出できなくなっている?
何の話だ?
「このダンジョンに入った冒険者の大多数が地上に戻ってきていないんですよ。僕は救助の……そう、救助の依頼を受けて潜ってるんですけど」
「マジすか」
「マジっす」
あの仮面野郎。肝心なこと黙ってやがったな。「ダンジョン探索をしている国王の暗殺」としか聞いてねえぞ。脱出不能のダンジョンだと? 標的を殺しても外に出られないんじゃあ意味がねえ。仮面野郎は俺たちをダンジョンに殺させる肚か。くそったれ。
――だが、待て。
「先程『救助の依頼を受けて』と言ってましたけど、あなたにはダンジョンから出る方法があるんで?」
「ええ、まあ。ちょっとばかり大変ですけどね」
「お聞きしてもよければ教えていただけませんか」
「このダンジョンを踏破して
「……」
流石王族とでも言うべきだろうか。
考え方のスケールがちょっとどうかしてやがる。確かにダンジョンを制御下に置ければなんとでもなるだろうが。そのためにはできたてとは思えないこの広大なダンジョンを攻略しなければならない。その平凡な顔に、気負いは全く感じられなかった。
「……本気ですか?」
「ええまあ。他に、皆が助かる手がないので」
平然と言い切る態度には確かな自信が感じられた。
それにしても、一国の王が冒険者のために危険を顧みずダンジョンに潜るとか正気の沙汰ではない。どうかしてるんじゃないだろうか。だが、俺たちにとっては最高の状況と言えるかもしれない。
標的に同行してダンジョンを踏破し、最後の最後で暗殺。その後ダンジョン
「良かったら俺たちを同行させてください」
「え?」
「役に立ちますよ。さっきダンジョンのマップを拾いましたからね」
「ほんとですか!?」
俺はニヤリと笑い、頷いてみせた。
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