流されがちな大学生が元担任教師と
~流されがちな大学生が元担任教師と~
「―――ん。日が変わっているな」
「……ぇ、あ、ごめ、さ、……んん゛っ。ごめんなさい、聞いてませんでした。なんですか?」
「ああいや。もう12時を回ったらしい」
「うわぁ……」
なんならもう1時のほうが近いくらいの時間帯を示すアナログ時計に、ユミカは驚くべきかあきれるべきか困ったようなかすれた声を上げる。
その後ろから元担任教師のソダチがぎゅっと抱き着いて、柔らかな胸の感触にユミカは頬を染める。
「もぅ。まだするんですか?」
「ダメか?」
普段は凛々しい彼女にしょんぼりと見つめられるとユミカはどうしても拒めない。
元担任教師であるはずの彼女との白妙の夜はすでに両手で収まるほどではないが、そのたびに思いがけない甘えたしぐさや欲求の熱烈さを向けられてユミカはますます彼女に惹かれていく。
―――けっきょくそれから、時針が二回転ほどして。
ようやく満足したらしいソダチは、腕を枕にとろけているユミカを愛おしげに撫で可愛がっていた。
「すまないな。島波の声を聴くとどうにも鳴かせたくなる」
「いえ……まあ、気持ちいのは気持ちいので……しばらく友達にからかわれるんですけどね」
気休め程度にのど飴をなめてはいるものの、なにせソダチはユミカに声を上げさせないと気が済まない
ユミカの大学のことやソダチの学校のことなんかでしばらく盛り上がったところで、ふとソダチが思い出す。
「そういえば、今度また妻が会いたがっていたぞ」
「えぁー……アスミさんって毎回先生としたことめちゃくちゃ聞いてくるからなんか申し訳ないんですよね……」
紆余曲折を経てソダチとその妻の共同所有のような形になっているユミカは、豊満な胸の中にいる心地を思い出して微妙な顔をした。
「あの癖は私にも理解できんが、お前を好いているのは間違いないから安心しろ」
「ほんとですか?めちゃくちゃにこにこ嫉妬してるとか言ってくるんですよ?先生より激しいし……」
「昔からそうなんだよ、アイツは……」
やれやれと呆れたように溜息を吐きながらも微妙に口角が上がっているあたりはまんざらでもなさそうなソダチ。
浮気や不倫どころか婦々そろって同じ女と関係している―――なんなら三人で交わる機会さえたまにある時点でまともな感性など望むべくもなく、それに比べれば嫉妬くらいは確かに可愛いものなのかもしれない。
単純に先生に憧れていた高校生の自分に今の自分を知られたら発狂しそうだなとぼんやり思って、ユミカはごろんと寝返りを打った。
特に意味もなく見つめあって、なんとなくくちづけを交わす。
「そういえば、明日はポッキーの日だとか昨日テレビでやっていたな」
「今日は11日でしたっけ。先生もそういうの気にするんですね」
「ああ。私もアスミも疎いが……今年はお前もいる。年柄もなく慣れないことをしてみようと思っていたのだが、すっかり忘れていた」
「年柄って、先生まだまだ若いじゃないですか」
くすくすと笑いながら、愛おし気に目を細めて身体をすり寄せる。
自分の大好きな人が特別なことをしてくれようと思ってくれていたのだ、うれしく思わないはずがない。こんなことなら恥ずかしがらないで用意してくればよかったなとユミカは思った。
と、そこでソダチがユミカの唇を見つめる。
キスだと思って顔を寄せると、ふにっと指先に食い止められた。
「島波、アメを出せ」
「え?ほぉれふ?」
ぇお、と舌に乗せた飴玉を見せると、ソダチは舌ごと飴玉を口に含み、舌でそれを奪い取ろうとする。
ピンときてとっさにそれを拒むと、ソダチは楽しげに笑って飴玉を求めた。
かてぇかてぇと飴玉の転がる音。
絶え間ない水音と端から漏れる嬌声がベッドの上に散乱して、最終的に馬乗りになった敗者の上でソダチが飴玉を噛み砕く。
「私の勝ちだな」
「こ、これぜんぜんポッキーゲームじゃないですよ」
「いいだろう、そんなものはしょせん口実だ。結果はそう変わらん」
「身も蓋もない……さすが数学教師」
「関係あるのか?」
苦笑しながら降りてくるはちみつ味のくちづけに、まあいいかと身体を預けた。
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