霊感強めな高校生が生霊さんと
~霊感強めな高校生が生霊さんと~
屋上に幽霊が出るといううわさが立ち始めたのは、とある女子生徒が自動車事故で入院したという大事件と同時期のことだった。
一説によると、その女子生徒は実は自殺でこの学校への恨みから悪霊となって住み着いたのだという―――
「―――なんて、バカみたい。生きてるっての」
「まあ噂ってそういうものだからねえ」
ふわふわと漂う生霊なユラギの隣で、ユミカはいつものように愚痴を聞いていた。
まったく自殺などではなくシンプルなわき見運転による事故の純然たる被害者であるユラギは、どうにも意識を取り戻せないので学校で暇つぶしなんぞしているのだ。
ひとつ年下の彼女とユミカが出会ったのはちょうど一か月前のことであり、今ではこうしておしゃべり友達になっている。
「ユラギはさ、目覚めたいとか思わない?」
「……別に。もともとほぼ引きこもりだったし。学校だって保健室登校だったから」
「そっか」
澄み渡る青空の向こうを見上げるユラギ。
ユミカと一緒にいるときも、彼女はよくそうしてどこかを見つめている。
霊感があるくらいしか取り柄のないユミカには、霊体であるユラギと同じものは見えない。
「……ねえユラギ。今日って何の日か知ってる?」
「は?知らない。そもそも今日って何日だっけ」
「今日はねー。11月11日」
「ふぅん……もうそんな経ってるんだ」
どこか他人事のようにつぶやいたユラギは、それから納得したように瞬く。
「ああ。ポッキーとプリッツの日」
「そそ。だから買ってきてみたんだよね」
がさごそと取り出すポッキーの箱に、季節感を大事にしないタイプの生霊さんは呆れたように溜息を吐く。
ユミカは苦笑しながらポッキーをかじり、一本食べ終わったところで二本目をユラギに差し出した。
「食べる?」
「ケンカ売ってる?」
「ほら、私の手渡しならいけるかも」
「……」
生霊な彼女は、今のところユミカ以外のなににも触れられない。
それでもと差し出されるポッキーの先端を一応かじろうとしてみるものの、やはり彼女の歯は透き通ってしまう。
「だめかぁ。残念」
「だからムダだって」
「お菓子食べれたら、自分でもっと食べたいって起きたりしないかなって」
「子供じゃん。……別に、起きなくたっておまえとは喋れるし」
言ってからユラギはハッとする。
同じように目を見開いていたユミカは、それからにやにやと笑った。
「ふぅん。へぇーえ」
「あーもう……うっざい」
頬を染める機能もないらしく、青白い顔でそっぽを向くユラギ。
そんな横顔を見つめていたユミカは、ふと思いついたようにポッキーを咥えた。
「ポッキーゲームしよ?」
「はぁ?」
なに言ってるんだと向けられる怪訝な顔に、いいからいいからと反対側を咥えさせる。
もちろん触れられず透き通るだけだが、ユミカは気にせずポッキーを手で支えながらサクサクと食べ進んでいく。
「おい、ちょっと、っ」
―――ぽと。
支えを失った先端が屋上に落ちる。
重なった唇に目を見開くユラギに、ユミカは笑って言った。
「ユラギのほうが落ちたから私の勝ちね」
「はぁ?……なにそれ」
その日一日はもう顔を見せてくれなかった生霊は、そしてその日を最後に消えてしまった。
幽霊のうわさも一緒に消え去って、しばらくしたところでちょっとしたニュースが広まる。
「―――蘇ったーとか。だから死んでないって」
「ふふ。噂なんてそんなものだよ」
今日も今日とて、ユミカは屋上で愚痴を聞いていた。
ふたりが友達でなくなるのは、まだ少し先のこと。
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