絵描きのおじさん
春海レイ
第1話
ケンジのお兄さんはいつも絵を描いています。
自転車で遠出をし、景色の絵を描いたり、身近な物のデッサンをしたり、
そんなお兄さんを従兄弟のシンジくんは大好きでした。
「ケンジお兄ちゃんは凄いね!こんな上手い絵を描けるなんて!」
「シンジも頑張ればこれくらい描けるようになるぞー」
「でも、お母さんに禁止にされてるから…」
「今度、内緒で描き方教えてやるよ」
「やったー!…あ、お母さんが呼んでるから行くね!」
「ああ、じゃあな」
シンジくんは嬉しそうにお母さんの元へ帰っていきました。
______
「ねぇ、おじさん、何してるの?」
4年後、いつも通り、絵を描いていたお兄さんの元へシンジくんがやってきました。
「いつも通り、景色の絵を描いているんだよ」
「そうじゃないよ、ケンジさん今年で高校3年生だろ?受験勉強はいいのかよ」
「ああ、あの専門学校に行く予定なんだ、そう言うお前こそ今年中3だろ、勉強はどうした」
「僕はただの気分転換だよ、勉強には運動も大切だからね…ねぇケンジさん、大学入った方がいいよ。もしも夢が叶わなかった時はどうするのさ」
「その時は、他に絵で稼げる職業を見つけるよ」
「それが…はぁ、いいや。じゃあねおじさん」
少年は少し不機嫌そうな顔で帰っていきました。
_________
「…ケンジさん、仕事はどうしたの」
4年後、いつも通り絵を描いてたケンジお兄さんの元へシンジくんがやってきました。
「ああ、今はこれが仕事なんだよ、俺フリーランスでな今は依頼された絵を描いているんだ」
「フリーランスって安定しないんでしょ、他の仕事探さないの?」
「どうしたシンジ、最近妙に手厳しいじゃないか、大体シンジもこんな時間にどうしたんだよ。学校はどうした?」
「あんな学校レベルが低すぎて話にならないよ。僕は仮面浪人して北海道大学に合格するんだ」
「北大かお前の夢はでかいな、頑張れよシンジ」
「そんなの言われなくても頑張るよ、ケンジさんも転職がんばってね」
「俺は転職しねぇって」
シンジくんは少し微笑んで帰っていきました。
__________
「やあケンジさん」
6年後、いつも通り絵を描いてたケンジおじさんの元へシンジさんがやってきました。
「おうおうどうした、今日も嫌味を言いにきたのか」
「違うよ、覚えてるかな。絵を教えてもらう約束、それを叶えてもらいにきた」
「ああ、覚えてるよ、お前が全然絵の話題ださないからお前の方が忘れてると思ってたぞ」
「結構前から忘れてたけどな」
ケンジさんの隣でシンジさんが絵を描き始めました。よく見るとシンジさんの顔に生気がありません。廃人のような顔になっていました。
「おいおい、顔色かなり悪いじゃないか、どうしたんだ」
「はは、実は今働いてる会社の残業が多くてね、寝る暇がないんだ」
「そんな会社辞めちまえよ、まったく」
「辞めさせてくれないんだ…」
ケンジさんは筆を置くと、シンジくんにパンを渡しました。
「これでも食って元気出せ」
「ありがとう」
シンジくんは渡されたパンを食べると、泣き出してしまいました。
「俺…どこで間違えたのかな、母さんに言われた通りに勉強頑張って、二浪したけど北海道大学に入れたのに…どこで間違えたのかな」
「間違えてねぇよ、間違えさせられたんだ」
おじさんはこういうと話を続けました
「確かに勉強を頑張ればいい大学に入れるし、みんなからも褒められる。だけどな、勉強しかしなかったら、その先の人生はつまらないものにやっちまう。
社会で成功するやつってのは、いつだって不真面目だけど勉強する努力を怠らなかった奴だ。
真面目な奴はいつだって損をするようにできてるんだよ」
「おれどうすればいいかな...」
「実はお前に馬鹿にされてからな、俺会社を立ち上げたんだよ。でもウチの会社、会計士がいなくてな困ってたところだったんだよ。シンジうち来るか?」
「でも、会社を辞めさせてくれない」
「うちの社員がお世話になった退職代行の人がいてな、そいつに頼めば大丈夫だ」
「...ありがとう。ケンジさん」
シンジは今日は帰ることなく、ゲンジさんと絵を描いています。
シンジくんは会計士として幸せに暮らしていくことでしょう。
これからの人生、自分で決めることも大事ですが、他人に頼ることも大事です。
それを忘れないように…
終
絵描きのおじさん 春海レイ @tanakazaurus
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