第27話 フルディアの町



「まだまだ、遠いなー…… 」


 双六のように地図上には、丸が幾つも描かれており、町の名がその中に記されていた。

 バスの路線図宜しく、馬車が通っているルートが線で結んである。

 どの町からでも、東西南北に馬車が走る訳では無いからだ。

 そこまで交通事情が良い訳では無い。

 距離が遠いとか、川や森があるとか、障害のあるルートを無理矢理開拓する必要はない。

馬車が1日でつく距離で路線を繋げば、用は足りる。

 要所々々に要となる地方都市はあるが、それ以外の町は移動ルートは決められたものしか用意されてない。

 隣国に行くのは、もっと簡単だと思っていたけれど、とんでもなく月日がかかると思ったのは、この地図をはじめて見た時だった。

 公共なのか私営なのか知らないが、交通機関があるだけマシと、思わなければならないだろう。


 そして、今日も私たちは馬車に揺られて過ごしている。

 冒険者ギルドは、どの町にもあるわけではない。

 冒険者の仕事が、見込めない町は当然のように、ギルドはない。

 あるのは傭兵ギルドとか他のギルドだ。

 武装してるからといって、冒険者だと思うのは早とちりだ。

 傭兵かもしれないし、金持ちの私兵かもしれないのだ。


「ちょっと、あなた達 」


 呼び止められ振り向くと、それは、鎧を着た女性だった。

 鎧の胸が、膨らみまで忠実に模している。

 凝った趣向の造形は、穿った見方をすれば、官能的とさえ言える。

 上半身は真っ当な形式から外れてはいないが、下半身はスカスカでスカート状の腿当ての下は、申し訳程度の膝当てと脛当てだけで、心細い限りだ。

 身軽さが身上なのかも知れないと、思いたいが、では重そうな上半身はどう言う事だろうとなる。

 見れば見るほど、女性らしさを突き詰めたデザインの鎧ではないかと思えてくる。


「はい? 」


「子供だけで馬車に乗せるとは、親はいないのか? 」 


「いえ、子供じゃないんで…… 」


「ついて来い、 バルディス様は、特に子供にはご厚情をお示しになられる…… 」


 連れて行かれたのは、町の中央広場に面した建物だった。

 中から教会のシスターのような衣装を着た女性が、迎えてくれる。

 鎧の女性が話を聞いてくれないと、訴えたらシスターは、私の話に耳を傾けて聞いてくれた。

 私はゲレンザ族で、既に15歳で成人していると、冒険者ギルドのドッグタグを見せると、分かってくれた。

 ピコッタは、妹だと説明したら、別室でお菓子とお茶を御馳走するからと、彼女だけ、奥の部屋に連れて行った。

 今夜泊まる宿屋を早く探したいと申し出ると、同僚のシスターに声をかけて、代わりに部屋をおさえに行ってくれた。

 

「幼い妹さんを連れて、人攫いのいる宿屋に泊まったりしたら、心配でしょう? 大丈夫、私たちは、この町にいる全ての子供たちの幸せが、何よりも大事なの…… 」


 奥の部屋からは子供たちの騒ぐ声が聞こえてくる。

 しばらくして戻って来たピコッタは、美味しいお菓子を食べたと、満足げに話してくれた。

 シスターに宿屋に案内される道すがら、しつこく、本当の兄か、何処へ行くのかと聞かれたと小声で教えてくれた。

 要は人攫いでないと確認をしていたようだ。

 子供に対して異常に過保護な町、それが、 フルディアの町だ。

 この町は地方都市として大きな町で、ターミナル都市として、幾つかの町へ馬車が出ている。

 そんな理由もあってか、人攫いも多発するのだと思う。

 バルディス様とはここの領主様で、声をかけてきた騎士はこの町の騎士だそうだ。


 翌日、朝から雨だった。

 そぼ降る雨とは、何かの季語だったろうか。

 そんな風情たっぷりな宿屋の窓から景色が見える。

 そう言うと良さげに思うかもしれないけれど実際は、雨が降っただけで馬車は運休するし、ロクな雨具もないから、外を歩く人影もない。

 時おり、ぱしゃぱしゃと誰かが駆ける足音が聞こえてくる。

 やむにやまれぬ理由で使いに出された使用人でもあるだろうか。

 羨むような視線を空に向けるも、嘲笑うかのように雨は降る。

 と、そんな物思いに耽っていると、ピコッタが全てを蹴散らすように甘えてくる。


「お兄ちゃん、 雨降ってるねぇ…… 」


 なぜか、ぴったり体を寄せてくる。

 腕を首に廻してしなだれるかのように。


「ピコッタ、近過ぎるって…… 」


「だってぇ…… お兄ちゃん、この頃冷たいんだもん…… 」


 新婚さんでもあるまいに。

 2人きりだと周りの目を気にしなくていいので、ベタベタしてくるピコッタ。

 そもそも、七歳児ではないと、隠す気もなくなってきてるように思う。

 あからさまに誘ってくる事もあるし、それでいて、外では子供の振る舞いをするので、その差に戸惑うのはこちらの方ばかり。

 

ーーーコン、コン


「はぁい…… 」


 扉をノックする音にこたえるピコッタ。

 家事の手を止めて対応する主婦のよう。


「あら、ピコッタちゃん、迎えに来たわよ 」


 昨夜のシスターだった。

 雨の中来たのか、心做しか服が濡れている。


「? 」


 ピコッタは小首を傾げる。


「雨降りは、子供は遊ぶ相手もいなくて、どの家でも、暇を持て余しているのですよ 」


 シスターの説明によると、昨夜、寄った建物は孤児院兼、託児所のような施設だそう。

 随分と良い立地なのが気にかかるが。

 そこでは、子供達が仲良く遊んだり、勉強したりしているそうだ。

 で、ピコッタを誘いに来たと言う。

 2つ返事で、ピコッタは行くと決めた。

 "お菓子" と言う単語が出たのを見逃さなかったらしい。

 

「お兄ちゃん、言って来る〜! 」


 無邪気な子供の顔で手を振るピコッタ。

 シスターに手をひかれ、この世界、唯一の雨具ローブを頭から被って、宿屋から行ってしまった。

 異常なほど、子供に執着するのは、シスターなのか、孤児院なのか。

 私は部屋の窓から魔法を飛ばして、練習をして暇を潰した。

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