十二月十一日 じょげん 上
空木先生へ
空木先生にも見つからないなんて、すごいと井の川くんに誉められました。でも、なんだか、もやもやしました。見つかるのはいやだけど、見つけてもらいたかったのかもしれません。
変なことを言ってごめんなさい。
✎﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏
鈴宮さんへ
先生もこんなはずではありませんでした。もうちょっと缶けりができるつもりでいたのですが、そういえば相手をしたのは弟たちです。皆さん方が上手なことはあたり前ですね。
次は何がなんでも、鈴宮さんを見つけようと思います。体育が得意な先生に上手なやり方を聞いてみますね。
また、先生と一緒にしてくれませんか?
✎﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏
辰次の誘いを断って帰った杏は、先生の返事が書かれた項を読んだ。もう一度読んで、どうすればいいのだろうと考える。
空木は杏の背中を押してくれた。
杏も空木の背中を押したいと思う。
「あーんちゃぁん! 本条様の所にお使い行ってくれるー?」
「はぁーい」
台所から叫ぶ母の声に返事をした杏は連絡帳をしまい、立ち上がった。
部屋を出て、缶けりをしたかった理由を思い出す。克哉がしたこともないのか、と言ったからだ。俺は負け知らずだったけどな、とも笑っていた。
もしかしたら、上手なやり方を知っているかもしれない。
杏ははやる気持ちを押さえきれずに、台所に走り込んだ。
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