十二月九日 かんけり 中
空木先生へ
また、来るときがあったら、教えてください。兄ちゃんにお使いをかわってもらいます。
缶けりは、うまくできませんでした。缶をけりに行くゆうきがなくて、かくれていたら見つけてもらえませんでした。
井の川くんは、かくれるのがうまい、と言ってくれました。けど、私はじっとしていただけです。上手なやり方はありますか。
✎﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏
鈴宮さんへ
では、お言葉に甘えて、来週のお休みにおじゃまします。今週に行けたらよかったのだけど、用事があるのでごめんなさい。
先生も缶をけったことがあるのは二回だけです。どうしたら、気持ちよくけれるのでしょうね。先生もふしぎです。
鈴宮さんのお話を聞いて、何だか先生も缶けりがやりたくなってきました。明日、やってみようかな。先生も仲間に入れてください。
✎﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏
今日も缶けりに誘われた杏は、外に出る前に空木の返事を読んだ。缶けりが上手になる方法は書かれていないが、それよりももっとうれしいことが書いてある。
杏がぱっと顔を上げると辰次と目があった。
「井野川くん、明日、先生も缶けりしたいって」
瞳を輝かせて言う姿に辰次は目を丸くして、少し反応するのが遅れた。期待の眼差しを向けられて、言われたことに頷きだけを返す。
花開くように表情を明るくした杏は勢いよく立ち上がった。
「缶けりの練習しよう!」
未だかつて見たことのない饒舌な杏を追うように辰次も教室を後にする。勇んで進む背中に、遊びに練習がいるのかと問うことはできなかった。
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