十二月三日   おはなし 下

空木先生へ


 おすすめのお菓子はいっぱいあります。父ちゃんの作ったおまんじゅうは、おいしいあんこがたっぷりです。

 どれが一番売れるの、と聞いたらやぶれまんじゅうと言っていました。毎日、父ちゃんが一生けんめいに焼いています。

 私のお気に入りは、杏の白あんの入った最中です。とてもおいしいので、食べてほしいです。


✎﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏


鈴宮さんへ


 おすすめを教えてくれてありがとうございます。やぶれまんじゅうも、杏の最中も、どれもおいしそうですね。

 鈴宮さんのお父さんは仕事熱心ですね。鈴宮さんがお父さんを大好きなことが知れて、先生はうれしいです。どんなお父さんか教えてくれませんか。


✎﹏﹏﹏﹏﹏﹏﹏


「なぁ、本条様って誰だよ?」


 家に帰るまで待てずに放課後の教室で読んでいた杏に降ってきた言葉は刺を含んでいた。


本条様とは三歳の時に会いました・・・・・・・・・・・・・・・って、本当なのか?」


 答えない杏に苛立ったのか、さらに言葉が被せられる。

 頭のつむじで受けていた杏は、そっと顔を上げた。

 隣の席の辰次たつじだ。父親がお巡りさんのせいか、いつもぴりっとした雰囲気を持つ。今も難しい顔をして杏を見下ろしていた。

 辰次は杏が何か言うまで、うんともすんとも言わない。口をへの字にして肩をいからせている。

 幼い頃から、何かと突っかかってくる辰次が杏は苦手だった。妙な正義感が怖くて仕方ない。


「か、か……」

「か?」

「か、勝手に、よよよ、読まないで!」


 か細い声で叫んだ杏は逃げ出した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る