贈り物
小さな少年が家に来てからは彼の世界は一変した。今まで孤独と寂しさに包まれた屋敷にも、久しぶりに笑い声が響いた。ローゼフは自分の部屋でピノに歩く練習を教えていた――。
「さあ、ピノ。ここまで歩いておいで」
ローゼフは目の前で優しく微笑むと、大きな手を差しのべた。
「待ってよローゼフ、ボク上手く歩けない!」
ピノはカーペットの上にペタンと座り込むと、突然ぐずりながら言い返した。ローゼフは機嫌をとる為、あることを話した。
「ピノ、ここまで歩いたらご褒美をあげる」
「ほっ、本当……? うん、わかった! じゃあもう一度、歩いてみる!」
ピノはそう言って明るく返事をすると、座り込んだカーペットの上を立ち上がった。ピノは生まれて間もない様子だった。どこか見ていてあぶなっかしくて、まるで赤ちゃんのような不安定な歩き方だった。ピノは両手を差し出すと彼のもとにふらつきながらも一生懸命に歩いた。
「よし、いい子だ。そのまま真っ直ぐこっちに歩いてごらん」
ローゼフはそう言って目の前で誘導した。
「うん……!」
ピノは一生懸命歩きながら、彼に手を伸ばしながら歩いた。あと少しと言うところでカーペットに躓くとそのまま倒れそうになった。
「キャッ!」
「ピノ…――!」
その瞬間、ローゼフは咄嗟にピノを両手で受け止めた。
「大丈夫か……!?」
ローゼフはそう言ってとっさに庇うと、心配そうな表情で覗き込んだ。
「うん、ちょっと驚いただけ。でも大丈夫だよ?」
ピノは何ともないと話すと、目の前で明るく無邪気に笑った。
「そうか、ならいい……。それよりよくやったピノ、前より歩くのが上手になったな?」
彼はそう話すと優しく微笑んだ。ピノは褒められると嬉しそうに喜んだ。
「ほ、本当に……!?」
「ああ、本当だとも――。お前は人形だから歩くのをもっと練習しないとな?」
「うん、ボクもっと歩くの上手くなるね!」
ローゼフはそう言ってピノを褒めると、小さな頭に手を乗せて優しく撫でた。彼に頭を撫でられるとピノは照れながら笑い返した。
「ピノ、プレゼントがあるんだ。さあ、この大きな箱を開けてごらんなさい」
彼はそう言ってピノの目の前に、大きな箱を二つ並べて置いた。
「わーい、ありがとう!!」
ピノはカーペットの上に座り込むと、大きな箱に巻かれた包装紙を両手でビリビリに破いて中を開けた。
「わあ、ステキ! このお洋服、カワイイ! 本当にこれをボクにくれるの?」
ピノは可愛い洋服を手に取ると、はしゃぎながら聞き返した。
「ああ、お前にピッタリな服だろ? 青いレースの服は嫌いかい?」
「そんな事ないよ、青は好きだよ! 凄く嬉しい! ありがとうローゼフ! ボクこのお洋服、大事に着るね!?」
少年は生まれて初めてのプレゼントに、とても幸せそうな笑みを溢すと、思わず洋服をぎゅっと抱き締めた。その仕草に彼は同じく幸せな気持ちになった。
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