第一二話「オープンカーでドライブデートに誘う」

(うん。今日も、いい天気だ)


ひらめは、一人暮らしのベランダでタバコを吸いながら、休日にやらなければならないことを考えてる。と言ってもやることは多くはない。


掃除と洗濯を手早く済ませ、開店と同時にスロット屋に入る。


モーニングで、ビッグ二連チャン。このまま交換すれば、一万円の勝ち。


交換所が開くまで四〇分以上ある。続けるか悩みながらタバコに火をつけた。


(今日は誰もいないし上がるか・・・)


「ひらめ、おはよう」


肩を叩かれ振り向くと、ばっちりメイクのミサキの顔が目の前にある。


甘ったるいお酒の匂いが鼻をつく。


「ミサキさん、おはよ。朝まで?」

「うん」

「ご飯食べた? 行く? おごるよ」


「吉野家の朝定が食べたい」

「うん」


ひらめは社会人になってから、西川口に住み始めた。会社と家の往復。新しく住み始めた街に知り合いなんて、ほとんどいない。


唯一、毎日仕事帰りに顔を出すスロット屋で知り合った、本名も知らない薄っぺらい関係の人たちだけだ。


ミサキはキャバ嬢らしい。情報はそのくらい。


年齢も出身地も、彼氏の有無も、キャバ嬢をしている理由も知らない。


「ご馳走様。ありがと」

「うん。またね!」


ほぼ無言で朝定を頬張り解散する。


お互いに深く詮索せんさくをしない。会ったときだけ、楽しめれば良い。


ひらめのジーンズの中でケータイが震えている。


「はい。ひらめ」

「おはよう。起きてた?」


「うん。どうした?」

「・・・今日、ひま? いや、用事があるなら構わないんだけど・・・。真央も予定がなくなって・・・」


「いいよ。天気が良いから、どこか行こうか」

「・・・うん」


「クルマで良い? 家まで迎えに行くよ」

「調布駅まで行く」


「うん。直ぐ出るから一時前くらいかな?」


調布駅のロータリーの入り口で、クルマを止めたひらめが真央に電話をする。


「もしもし、着いてる?」

「うん」


「ロータリーで、ひろうよ」


オープンにしたクラシックレッドのユーノスロードスターは目立つ。

柿本マフラーの官能的なサウンドを響かせながら、ゆっくりとロータリーに進入する。


直ぐに真央も気づき、小走りで寄ってくる。


「真央さん! おはよう。今日もかわいいね」


「ねえ、ひらめ。早く出してよ。恥ずかしいから」

「ああ、ごめん・・・」


ゆっくりと車を出す。


「恥ずかしくない?」

「何が?」


「オープンカー。それも赤・・・。目立つじゃん?」

「最初は照れてたけど、直ぐに慣れた」


「真央は慣れてない・・・」


「どこ行く?」

「どこに向かってる?」


「横浜方面」

「行き先、決まってるじゃん・・・」


「良いよね。横浜で」

「・・・」


多摩川沿いを南下し、途中のコンビニに入った。

コンビニの前でタバコを吸いながら愛車を眺める。


「小さくて、可愛いクルマだね」

「でしょ? 目を開くと、もっと可愛い」


キーを回し、リトラクタブルヘッドライトのスイッチを押す。


「すごいっ! ホントだ。カエルみたい」

「うん」


「ちょっとうるさくて、派手で目立つけど、思ったより悪くない・・・」

「でしょ?」


「ただ日焼けする・・・」

「そうね。直射日光だからね」


「サングラス貸してよ」

「うん」


「行くか」

「うん」


川崎まで南下して第一京浜経由でみなとみらいへ向かう。


「真央さん、みなとみらい行ったことある?」

「ない。ひらめは?」


「何回きたかな?」

「ふ〜ん。女子か・・・」


「女子だ・・・ね。学生時代ね。でも何もなかったよ。マジで」

「ふ〜ん」


「なかなか上手くいかないんだよな・・・」

「・・・」


ランドマークタワーにクルマを止め、夕方まで二人で、みなとみらいを楽しむことにした。

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