第一三話「女友達と横浜みなとみらいでデートする」

ひらめと真央は、横浜みなとみらいを微妙な距離感で歩く。


「真央さん、観覧車乗る?」

「うん。乗ってみる?」


「若い男女が密室で一五分、あんなことやこんなことしちゃうかもね」

「少しでもエッチなことしたら真央、飛び降りるから」

「・・・」


長蛇の列の観覧車に乗る。


普段は女子と話すことを苦にしないひらめだけど、ゴンドラという密室で真央と二人きりになり、緊張していた。


緊張した姿を悟られたくないので、いつも以上に饒舌じょうぜつになる。


「ベイブリッジ、すごくない?」

「・・・」


「豪華客船じゃん? あんな船で世界一周とか楽しそうだよね?」

「・・・」


真央が、ひらめの話に乗ってこない。


「真央さん、どうした?」


「今日、真央の誕生日で、お祝いしてもらう予定だったんだ・・・」

「知らなかった・・・。おめでとう」


「大学の時の先輩。最近、頻繁ひんぱんに連絡をくれるようになったんだけど、その人がお祝いしてくれるって・・・」

「男?」

「うん・・・」


ひらめは、うつむく真央の隣に席を移動して話を聞く。


「ドタキャンされたの?」

「うんうん。真央がドタキャンした・・・」


「えっ?」

「本当に悪いことをしたと思う。なんか怖くなって・・・」


(その男、凹んでるだろうな・・・)


「すごくいい人なんだよ。学生時代も、真央のこと可愛がってくれたし・・・」

「うん」


「でも『結婚を前提に付き合って』とか言われると・・・」

「そうか・・・」


「嬉しかったんだよ。本当に・・・。真剣に真央のことを考えてくれているのが分かったから。でも・・・」


「いいんじゃねーの?」

「・・・」


「大丈夫だよ。真央さんが気にすることじゃない」

「でも先輩に悪い気がして・・・」


「そんなもんだよ。きっと、その先輩だって『次、行くぞ』って切り替えてるよ」


「ひらめのように軽い男ではない・・・と思う・・・」


「俺だって、フラれたら凹むよ。でも吹っ切らないとやってられないじゃん?」

「・・・」


「深く考えすぎだって」

「・・・」


「よしよし。俺が抱きしめてあげよう」

「うん」


(えっ? いつものように拒否をしてくるんじゃ・・・)


ひらめの予定とは違い、真央は身体を預けてくる。

そのまま、そっと肩を抱く。


真央の誕生日だったけど、特別なことは何もしなかった。ただただ、くだらない話をしながらブラブラと歩く。


悩んでいるときに一緒に悩んでくれる友達より、いつも通りに接してくれる仲間の方が嬉しいとひらめは思っている。だから、真央が嫌なことを忘れるように、いつも通り、バカをして真央にツッコまられ、イジられ、笑われる。


「家まで送るよ」

「いや、無理。こんな派手なクルマで乗りつけられたら家族がビビる」


「そんなことないでしょ?」

「ひらめ、自覚しなよ。派手なクルマに、軽そうな男・・・。どう見たって真央がだまされているように見える」


「そんなことはない・・・と思う・・・」

「・・・」


調布駅の近くでクルマを止める。


「ありがと。今日は楽しかった」

「うん。またね」


「またクルマに乗せてね」

「うん。いつでも」


ひらめは、真央が駅に向かう後ろ姿をミラー越しで小さくなるまで見送った。


家につき、ベランダでビールを片手にタバコを吸っていると真央からの着信があった。


「はい、ひらめ」

「今日はありがと。最高の誕生日だった・・・」


「うん・・・。何もできなくてごめんね」

「・・・」

「・・・」


「・・・この前の話。ひらめと一緒に行こうかな」

「えっ? 箱根への一泊旅行?」


「そんな話はしたことないでしょ?! ディズニーランドっ!」

「ああ、そっちか・・・」


「どっちだよ。それしかないでしょっ!」

「うん。行こう」

「うん・・・」


「大丈夫? 元気になった?」

「うん・・・」


「良かった。元気な真央さんじゃないと、こっちのリズムが狂う」

「・・・」


「マジで観覧車の中で抱きしめたとき、キスしちゃえば良かったなあ」

「そんなこと考えてたの? 他人の弱みにつけ込んで」


「でも、しなかったじゃん?」

「お前の頭の中は、それしかないのか?」

「あはははは」


「ありがと・・・」

「うん」


「おやすみ・・・」

「うん。おやすみ」

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