02 魔王戦と宣言。
「手強いね!」
魔王の城の扉の前で立ちはだかる幹部らしい魔物と戦っている最中。
第一印象は、人外イケメン。人の形に近い長身で、青黒い鱗のような鎧を纏う。
黒い長髪で青黒い羊のような角を生やしている。
青白い肌の顔が少々不気味だけれど、それを差し引いてもイケメンだと思う顔立ちをしていた。
先に行きたいが、そのイケメン魔物が行く手を茨のような青黒いトゲで遮ってしまい、戦うしかない。
扉さえもトゲに覆われてしまった。戦いながら、火の玉をぶつけてみたが、変わった様子はない。頑丈なトゲだ。
「かってぇーし! やっぱり倒すっきゃないか!」
作り出した魔物を倒せば、大抵は異物は消える。これまでの戦いで学んだことだ。
素通りせず、倒す。とは言え、勇者である光太郎くんの剣も弾かれる防御の高さ。
手強いが、このあとにラスボス戦があるのだ。サクッと倒してやろう。
三人で目配せして、再び挑む。
光太郎くんが、長剣を振り下ろす。
イケメン魔物は鎧に包まれた腕で防ぎ、振り払った。それと同時に複数のトゲを放つ。
反射的に剣を盾にした光太郎くんだったが、腕をかすめて血が出た。
「治癒するよ!」
「ありがと!」
すぐに短い杖を光太郎くんに向けた神奈ちゃんが治癒を施す。
触れることなく、治癒は完了。
それを見ていたイケメン魔物が、標的を神奈ちゃんに定めた。
一際大きなトゲが放たれる。
私は間に移動した。ただそれだけ。
常に張っていた魔法のバリアと一緒に、トゲが粉々に砕け散った。
ふむ、なるほど。強度は私のバリアと同じくらいか。中々だ。
なんて思っていれば、ずっと同じ場所に立っていたイケメン魔物が、地面を蹴って文字通り飛んできた。
そして、再びトゲを作り出して、至近距離でぶつけてきたのだ。
でも残念。
魔法のバリアは、一枚ではない。
「魔法壁は三枚張るのが定石でしょう」
私は目の前のイケメン魔物に、ベーっと舌を出して笑ってやった。
「”――トォノド――”」
鼻先に杖の先を突き付けてやって、雷属性の魔法を唱える。
カッと電光石火のような光が弾けた。
艶やかだった髪はぼっさぼさに膨れ上がり、イケメン魔物はよろける。
おやおや。雷属性は、効果的だったみたいだ。
「”――トォノド・ショック――”」
雷属性の衝撃波を放つ。
バチンッと感電しては、後ろに飛ぶ。
そんなイケメン魔物を追いかけて、私はくるりっと回って、杖を突きつけてもう一度唱えた。
「”――トォノド・ショック――”」
「うぐあっ!」
「あら。声も素敵ね」
ようやく、痛みで声を上げるイケメン魔物は、声までイケメン。
普通に喋ってほしいけれど、敵なのでそうは頼めない。
「”――トォノド・ショック――”」
踊るようにもう一度、ターンをして突き付けた。
少し力んで込めたから、吹っ飛んだ。
「っあ!!」
ギロリ、と睨みつけてきたイケメン魔物。
そんな顔も素敵と笑う。
「こっちだ!!」
光太郎くんが、気を引く。反応したイケメン魔物に、剣を振り下ろす。
すでに雷属性を纏っていたため、受け止めたイケメン魔物は感電する。
膝をついた彼を、蹴り飛ばす。
イケメン魔物は、倒れた。
「さっすが、勇者様」
グッと親指を立てて向ける。
「いや、ほぼりりっちがダメージを与えたっしょ。それに神奈ちゃんのバフのおかげもあるしさ」
「それほどでも」
治癒魔法だけではなく、神奈ちゃんの能力の強化であるバフ魔法も優れていた。
かなり、助けられているのだ。
「”――ショックザノド――”」
倒れたイケメン魔物に、私はまた杖の先を突き付けて、感電させた。
ビリビリッと震えると、周囲のトゲまで影響を与える。トゲは発光すると、灰のように散った。
大きくそびえるように立つ扉が露になる。
「それって確か、雷属性のデバフだったよね。動けなくするっていう魔法」
「そうだよ。私が死なない限り、解けませーん」
「ほんと鬼畜」
「え? 光太郎くんも食らいたいって?」
「言ってません! すんません!」
ぼそっと鬼畜と言う光太郎くんに、にっこりと笑いかけたが、彼はぶんぶんと青ざめた顔を振った。
「よし、いよいよラスボス戦だな」
城に乗り込めば、中に待ち構えている敵は、ラスボスのみらしい。
回復の必要はないと判断して、そのまま謁見の間に入った。
大きな扉をくぐれば、大きな玉座に座った魔王と、対峙することとなる。
「デブドラゴンだ」
「デブドラゴン……」
「デブドラ……」
三人で魔王の第一印象を口にした。
仁王立ちをした魔王の身体は、でっぷりと膨らんだお腹と蜥蜴のような顔とコウモリの翼を持っていた。
まさにデブなドラゴン。
「え!? 嘘でしょう!? 魔王だよ!? デブドラゴンってあり!? さっきのイケメン幹部の方が魔王っぽくない!?」
神奈ちゃんは耐えきれなかったようで叫んだ。
「なんで敵にイケメンを求めるの!?」
信じられないと光太郎くんは、ギョッとする。
「イケメン魔王は定石じゃん!!! 幹部がイケメンだったら、当然じゃん!?」
「落ち着け、神奈ちゃん。これが現実だ……これで容赦なく倒せるじゃないか」
「凜々花ちゃんは悔しくないの!? 超絶イケメン魔王に会えなくて!!」
「ごめん、オーガの王にプロポーズされたからちょっと満足している部分あるわ。さっきのイケメン幹部で眼福したでしょう」
「イケメン魔王と聖女の恋物語を期待した私が悪いの!?」
「やめようよ! 敵だよ!? ラスボス戦だよ!!?」
涙ぐむ神奈ちゃんを宥める私。
いつも通りすぎる私達に、光太郎くんは真面目にやってと言わんばかりに叫んだ。
「死ぬがいい!! 勇者ども!!!」
「声すら醜い!!」
「さっきからやかましいわ!!! 黙っていろクソアマ!!」
デブドラゴン魔王の声は、イガイガしているような声だったから、神奈ちゃんは嘆いてしまった。
そして、ついに魔王からのツッコミがされる。
「あ? 誰に向かって言った?」
お。勇者光太郎くんの地雷を踏んだ。
「聖女様に向かってその言い草はなんだ!! 魔王! 許さん!!」
カッと光太郎くんの握った剣に、光が集まる。
神奈ちゃんはそこまで怒る理由が、わらかなそうに私に視線を送る。
私は戦いを始めようと、キリッとした目を向けた。
神奈ちゃんもキリッとさせて、身体強化のバフをかけ始める。
戦いは、始まった。
鎧は纏っていないけれど、光の剣を弾く。よく見れば、闇。
ぶわわっと、闇が分散する。
闇属性だと一目瞭然。ま、知ってたけれど。
だから、光太郎くんは光属性を付与したのだ。
ぶわんっ。
闇に飲まれた。
「しまった、デバフかけられたか!」
剣から光が消える。
光属性の無効化だ。
流石、魔王ってところだろう。
でも私みたいに、半永久的に続くものではないはず。
「一時的だよ! 自動連射魔法いくよ!! ”――ブルチャエスプロ――”!」
一時的だと二人に教えて、私は自動連射魔法を発動させる。
杖から放った三つのブーメランが、標的の魔王を捉えた。
そして、炎の弾丸の雨を降らせる。
光太郎くんも私の魔法に当たらないように攻撃の隙を伺っては、切ろうとした。しかし、闇が阻む。
魔王は空中に設置したブーメランを、握り潰して破壊した。
やっぱりドラゴンの姿をしているのだ。炎属性には耐性があるのだろう。
「火じゃないなら、水はどう!? ”――フレドエスプロ――”!」
続いては水属性の自動連射魔法。三つのブーメランを配置して、氷の弾丸を放つ。
効果あるようで、魔王はドラゴンらしい痛みの声を上げた。映画の恐竜みたいな声。
でも勇者の剣は、受けまいと弾き返す。
それから、黒い炎の球を吐き出した。まともに食らってしまった光太郎くんが、床を転がる。
黒い炎をまた出しては、周囲のブーメランを消し飛ばす。
「いってぇ!」
「治癒魔法は使えない! こうなったら!」
神奈ちゃんは、光太郎くんを癒せない状態。だったが、神奈ちゃんは勝負に出た。
この闇のデバフと、自分の光の魔法をぶつける。
どっちが強い?
その答えは、光を見て知る。
「さっすが聖女様!」
ニッと私は笑いかけた。
闇デバフを消し飛ばしたのだ。光属性の魔法が使えるようになった。
神奈ちゃんは私に頷き、そして光太郎くんの治癒魔法をかける。
私はバリアを張って、治癒が終わるまで待った。
大丈夫。神奈ちゃんの治癒はほぼ一瞬だ。
「ぐぬぬ」
悔しがる魔王だったが、すぐに異変に気付く。
影が不自然に伸びたのだ。
その影の中から、にょきっとひょろりとした人影が出てくる。
数は四つ。鋭利な爪を持っている、のっぺらぼう。
闇の分身ってところだろうか。
「先ずは、邪魔な聖女を排除してくれる!」
狙いが、また聖女の神奈ちゃんになる。
張っていたバリアは、炎の球で粉砕された。
だが、こちらも終わっている。
「うおおおっ!!」
再び光を纏った剣を振り翳して、一体の影に立ち向かう光太郎くん。
残りの影は、後ろに回った。
一体が長い爪を振り上げて、神奈ちゃんの背後を取ったが、私が杖で遮る。
ニッと笑って見せた。
そのまま、杖で叩き潰す。
「うちの可愛い聖女ちゃんにちょっかい出したいなら、私の屍を越えてからにしなさい!」
向かってくるもう一体を、側転した勢いで踵落としを決めて沈める。
砕け散って、灰と化す。
残りの一体が横をすり抜けようとした。それを、長い杖で叩きつけて阻止。
「”――リラーレ――”!」
杖の先に光を灯して、球体にして放つ。
ボォン、と影は弾け飛んだ。
「ぐぁああ!」
醜い悲鳴が響く。
見れば、でっぷりしたお腹に、傷が出来上がっていた。
私と神奈ちゃんは、援護射撃に同じ呪文を唱えて、光の球体を放つ。
「ぐわあ!」
魔王は、よろけた。
しかし、また終わりではない。
「畳みかけるぞ!! ”――ソラレエヴァ――”」
さらなる光を放って、光太郎くんは剣を振り下ろす。
光の斬撃が放たれて、魔王に当たる。右腕が切り落とされた。
「”――リラーレ――”!」
神奈ちゃんが放つ光に続き。
「”――ソラレエスプロ――”!」
私は光属性の自動連射魔法を設置。光の弾丸を連射させた。
魔王は残りの左腕で防御を張る。
影が伸びて、壁を作った。しかし、光の弾丸が削っている。長くは持たない。
「りりっち! 壁をぶっ壊してくれ!!」
「あいあいさーっ! ”――リラーレ・ショックザ・カルド――”!!」
光太郎くんの要請に応え、杖を構え、そして突き出して唱えた。
光の爆発で、影の壁は粉砕。魔王の重たい身体も吹っ飛んだ。
衝突して、大袈裟な玉座は壊れた。
「とどめだ! 魔王!!」
「おのれ! 勇者ども!!」
ぶわんっ。
また闇に飲まれた。光の無効化のデバフだ。
そして、周囲から人影が溢れる。ゾンビみたいにゾロゾロと這い出た。
「神奈ちゃん、デバフ解除して! 私は閃光を放つから!」
「了解!」
「魔王は任せた! 光太郎くん!」
「おうよ!」
光の魔法で神奈ちゃんがデバフを解除した瞬間。
私は古代文字を浮かべ、読み上げた。
「”――リラ・リラーレ・テンペスタン・エエースプロジオーネ――”!! 消し飛べ、影ども!!」
閃光を放つ。光で目が眩むほど。いや失明だってありえるほどの強さ。
影は飲み込まれ、跡形もなく消え去った。
「ぐおおっ!」
魔王の野太い悲鳴。
正常に戻った視界で見れたのは、デブドラゴンの首が飛んだ。
「くそっ……おのれ、勇者ども……! だが、我の後継者は必ず出てくるぞ! 全ての種族を必ず根絶やしにっ」
「安らかに眠ってください。醜い魔王よ」
頭が転がっても、魔王は話す。最後の言葉を言おうとしたが、神奈ちゃんは祈りながらも光を当てる。
それがとどめとなって「ぎあああっ」と悲鳴を上げて、魔王の頭が消え去る。
まだ最期の言葉が途中だ。ちょっとモヤモヤするけれど「根絶やしにしてくれる!」とかの捨て台詞だろうか。
「次はイケメン魔王でありますように」
「いや、そんなこと願っちゃだめじゃない?」
手を合わせて祈る神奈ちゃんに、ツッコミを入れる光太郎くん。
「ううん。残った魔物達を束ねる者が必要だね。新たな魔王。さっきの幹部がいいんじゃない?」
「凜々花ちゃん、最初からそのつもりで倒さなかったの?」
「いや、イケメンだから殺しがたかっただけだよ」
「本当に面食いだよね……」
光太郎くんは、私と神奈ちゃんのやり取りを見ては、遠い目をした。
「さっきのイケメン魔物に、敗北宣言をしてもらおう」
「戦争はおしまいだね」
「ああ、終わりだ」
念のために魔王の首なし身体を燃やし尽くした私は、安心して笑い合う神奈ちゃんと光太郎くんのあとを追う。
「よくやったね、二人とも。お疲れ様」
一番の年上として、ちゃんと褒めた。
褒めるって、大事。
「りりっちも、お疲れ!」
「お疲れ様、凜々花ちゃん!」
振り返った二人は、にっこりと笑って返した。
「超魔力回復薬、結局使わなかったな……六つも用意したのに」
「念のためだもん。ふふふっ、私達が強すぎたね!」
「最強であり、天才である私がついてたからね。楽勝にしてごめん」
「心強かったよ、りりっちも、神奈ちゃんも。俺一人だったらきっとだめだったなぁー、あの影の分身達」
「三人で最強勇者一行?」
「間違いなく、歴代最強の勇者一行だよ」
そんな会話をしながら、来た道を引き返していれば、神奈ちゃんが超魔力回復薬を一つ飲み干す。
「私のお仕事はこれからだよ! 癒さなくちゃ」
「そうだね、聖女だもん。多くが傷ついただろうね。私も微力ながらサポートするよ」
「うん!」
私だって回復魔法は使える。
聖女様に比べれば、微々たるものだけれどね。
扉をくぐって、城を出た。すぐそばで動けないでいるイケメン魔物の元まで、歩み寄る。
まぁ、動けないのは、私のせいだけれど。
「魔王は倒したわ。そちらの負け。配下に告げなさい」
「……」
頷くから私は、ポンッと肩を叩いて、麻痺を解除した。
長身で立ち上がったイケメン魔物は、声を高々に響かせる。
「魔王陛下は倒された!! 我々の負けだ!!!」
全体には届かないが、徐々に伝っていき、魔物の軍は動きを緩やかに止めた。
「りりっち」
「どうぞ、勇者様」
光太郎くんのために、声を広めるための魔法を発動させる。
「我々の勝利だ!!!」
全体の届いた勇者の勝利宣言に、仲間の軍は歓喜の声を上げた。
勇者の光太郎くんを挟んで、聖女の神奈ちゃんと、魔導師の私は肩を回す。
そして、勝利の喜びを分かち合ったのだった。
勇者一行は、異世界を救ったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます