第2話 憤怒の誕生

 村は焼かれた、牧歌的な雰囲気のあった穏やかな光景はもうない。焼いた奴は逃げた、殺された、俺が殺した。目の前の光景を見たくない、仲のいい隣人が苦痛に悶えて死んでいく、優しかったあの人が、厳しかったあの人が、愛しいあの人が、誰かの悪意で死んでいく。


 憎い、心の底から、吐き気がするほどあいつ等が憎い。だから飲まれる。沸き上がる怒りと憎悪に飲まれていく。幸せな思い出も、心も、目の前の光景も、段々ぼやけて飲まれていく。衝動のままに、怒りのままに、憎悪のままに心が動く、体も動くだから殺した。


 目の前に現れた敵がいた。もちろん、殺そうとした。止まらなかった、止められなかった。怒りが俺を突き動かす。奴は動いた、俺より強いから圧倒された。だけど、怒りは止まらない、深々と敵を貫いた。


 気付いた時には遅かった。敵はこの世で最も愛しい人だったのに、最も厳しかった人なのに、最も優しい人だったのに、俺が殺してしまった。怒りが収まらない、村に火をつけられたことも、誰かに隣人が殺された事も俺は許す事などできはしない。

 そして、母親を殺してしまった自分自身も許さない。怒りが、憎悪が、次々に生まれてくる。それらが生まれて憤怒オレが生まれた。

 遅かった、時は元には戻せない。後悔はすべて飲むしかない。



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