第26話 魔王の誇り
先程、アスタロトが自分の肉体を鋼の肉体といっていたのを聞いていたのでもしかしてと思ったが、本当に鋼と同レベル程度の強度だった。
拍子抜けにも程がある。
(最悪地面に穴を掘って埋めようと考えてたのに……。こんなに簡単に決着が付くなんて)
「お、おおおおぬ、お主は何者じゃ! アスタロトを瞬殺するなど、しかもそんな魔法聞いた事がない!」
ベルゼビュートが発狂している。
「はぁ……ええっとー、そうですね、魔法ではないです」
いい加減キャラ作りをするのも難しくなってきた。
魔王があまりにも拍子抜けすぎて肩の力が抜けてしまったのだ。
「魔法ではないじゃと……。ならばそれは何じゃというのだ!」
「……それを貴方に言う必要はありません。最期に言い残す言葉はありますか?」
「ま、待て! あれを見よ!」
翔馬が二メートルほど近付くと、ベルゼビュートは慌てて森の方向を指す。
「うん?」
翔馬がそちらを見ると、鳥型の魔物がその足に気絶した男子生徒三人を運んでいた。
「あっ……あー、うーん……」
運ばれていたのは昨日翔馬をリンチした男だった。
あの騒動に紛れてちゃっかり敷地を脱出していたらしい。
残念ながら翔馬の能力に探索能力はない。
だから、もし他に学園を脱出した生徒がいれば、普通に捜すしかない。
翔馬が言いよどんだのは、昨日名前を聞いたばかりなのに思い出せないからだ。
(確か……バロンだったかな……? 最近、初見の人が多かったからね、仕方ない! うん!)
自分自身に言い訳をして頷く翔馬の行動の意図が分からないベルゼビュートは叫ぶ。
「お主、指一本でも動かしたら奴らを殺す!」
「あ……」
「何か言っても殺す!」
ベルゼビュートは半狂乱状態だった。
人質をとられた以上、何もすることが出来ない。
日本でも人質をとられれば長期戦を覚悟しなければならない。
相手が半狂乱の場合は、時間をかけて説得し、人質が耐えられなくなるギリギリまで強硬手段は取らない。
だがそれもASUが出来るまでの話だ。
翔馬は指を一本も動かさなくても、何も言わなくても能力を使うことができる。
腕を前にしていたのは狙いが定まり易いから、口で何か言っていたのはその方がコンマ数秒だけだが能力のイメージが纏まるのが早いから。
人間ほどの大きさがあれば、また急がなくてもいいなら別に能力を口に出す必要はないのだ。
(グラビティ・ホール)
突如、三人を掴んでいた魔物が体の中心に吸い込まれていくように圧縮されていく。
落下していく三人を能力で回収し、地面にゆっくりと降ろす。
「なっ!」
ベルゼビュートが口を大きく開けて固まる。
超能力者相手に人質や立てこもりは通用しない。
特に、翔馬の能力は人には見えない重力だ。
この程度のことは造作もない。
「諦めてください。投降するのであれば命だけは助けますので」
「このワシに投降……じゃと?」
翔馬の言葉にベルゼビュートがピクリと反応する。
「はい。尋問や他の魔王についていくつかお聞きしますが、命は救ってもいただけるように私のほうからお願いします。投降してください」
「……ワシを侮るなよ、ニンゲン」
先ほどまでの慌てぶりからは想像もつかないほど、その声は落ち着いていた。
「貴様らニンゲンに投降するくらいなら死んだ方が百倍ましじゃ! 全魔物達に告げる! 我の元へ集合せよ!」
ベルゼビュートがそう叫んだ途端、辺り一面で沈黙していた魔物達が一斉に騒がしくなる。
「魔物達がデス・フィールドを避けて一箇所に集まっていく?」
次第に魔物達は積み重なっていき、足ができ、腰ができ、身体ができ、腕ができる。
そして、とうとう頭ができた時、いつの間にかそちらに移動していたベルゼビュートが、魔物の集合体の口に吸い込まれていく。
集合体の口がベルゼビュートを吸収し、閉じたとき、その中から声が響いてくる。
「見せてやろう、魔王の力を! 我らは貴様らニンゲン如きに劣りはしない事を!」
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