[エピローグ-1]:三人三様の道を歩けば

【茜音 25歳】




「ほら、茜音! 手袋忘れてるよ!」


「ふぇえ! 重いから動けなぁい。美鈴ちゃん助けてぇ」


「まったく、ウエディングドレスがこんなに重くなるなんて想定外だわな」


「はいはい。しかたないんですよ、皆さんが選んだドレスがこれだったんですからねぇ」


 沖縄本島のリゾートホテル横にあるチャペルは朝から笑い声が絶えなかった。


「男連中は楽でいいよなぁ」


「いつものスーツとあまり変わりませんしね。でも、髪型とかセットしますから」


 菜都実のぼやきも美鈴が慣れたように受け流している。


 これはなにも遊んでいるわけではない。


 今日は、あの三人が晴れ姿で集合する日だったから。





 茜音、菜都実、佳織の三人がそれぞれの人生を歩き出してから5年が過ぎようとしていた。


 一番最初に動いたのは、やはり一番先に決断をした菜都実だ。


 幼なじみで婚約者でもあった秋田保紀が修行する沖縄・宮古島に渡って半年後に、二人は結ばれていた。


 今では彼の両親とともに2世代で店を切り盛りして、菜都実も看板娘としてすっかり定着しているという。


 目下の悩みは、このまま宮古島に残るのか、地元の横須賀に戻って実家の店を継ぐのかということらしい。




 次に動いたのは茜音たち。


 ウィーンから帰国後、健と二人で相談し、先に健が苗字を変える手続きに入った。佳織の弁護士事務所の協力を得て、家庭裁判所で変更が認められた。


 これで茜音を迎え入れられる。彼の手続きが終わり、片岡の両親、そして佐々木の両親が眠る墓へ報告した。二人で選んだ苗字は、お互いから1文字ずつを取った『松木』とした。それを聞いた佳織は「二人らしい」と笑っていたけれど。


 もちろん、二人とも珠実園の仕事は続けている。健は昨年、珠実園の副園長として正式に就任。茜音は支援センター側の主任として今年から動いている。


 あのウィーンでの2カ月で吸収したものをさらに広げていた。


 茜音が思い切ったのは、あのテレビ出演で覚えてくれていた視聴者からの質問や、将来への不安を持った子たちのためにと、これまでの半生を全て公開していることだった。


 本来であれば、両親から受け継いだものを活かすこともできる家に生まれ、才能も持ちながら、それとは全く違う生き方を選んだ彼女の言葉は、周囲に本人の想像以上に響いたらしい。


 出産前から年齢別に分けている音楽セラピーの教室はキャンセル待ちが出るほどの盛況ぶりで、小峰との縁を活かした音楽活動も大人気だ。





 最後は、ひとつ下の高校時代からの後輩、原田青年と交際を続けていた佳織。


 彼女が決めた、弁護士を目指した理由は学生時代に宣言したまま、目標を変えることなく貫かれた。


 「茜音たちの役にたちたい」茜音や健のような生い立ちの子どもたちが独立や試練を乗り越えるために、時々立ちはだかってしまう様々な壁を乗り越える手伝いをしたいというもの。


 大学の法学部を首席で卒業し、弁護士事務所で修行を積んでいる。司法試験に向けた勉強や研修を早くから始め、国家試験である司法試験も一発突破して、目標に向けて一気に突き進んだ。


 その確定を持って入籍。今では珠実園の専属弁護士として、公私ともに関係は続いている。




 こんな三人だから、二十歳の春にした約束を覚えていた。


 「三人揃って結婚式を挙げたい」


 こんな無茶苦茶な野望としか言えない相談も、やはり茜音のチームに最後に加わったメンバーが叶えることになった。


 茜音の半生を振り返った中で存在を知った従姉妹。美鈴はその後、両親へ進路や恋人の存在を公表。


 最初はなかなか認めてはもらえなかったけれど、粘り強い交渉で、最後は進路も自ら選んだ男性との未来も勝ち取った。


 その後はウェディングプランナーとして活躍している。やはりベースに繊細な感性を持ち合わせているだけあり、彼女への指名は後を絶たないという。


 そんな美鈴に茜音は自分たち三人の約束の話を持ちかけた。そして、そのために誰も挙式は行っていないことも。


「それなら、皆さんの意見をまとめましょう!」


 茜音からの経緯を聞いて、すっかり乗り気になった美鈴が全員の希望などを聞いてまとめ上げてくれることになった。


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