[4章3話-2]:未来が抱いた疑問




「それにしてもなぁ。あれ、本当にデートなのかな……」


 未来は店から出てきた二人を物陰から見ながらつぶやく。


「どういうこと?」


 里見はなぜ未来が首をかしげているのかの意図が見えていない。


「だって、デートって言ったら、もっと違うと思うんですよ」


「そうかなぁ? 私には十分デートに見えるけどなぁ。未来ちゃんにとっては違うんだ?」


 里見は不思議そうに未来を見た。


 その問いには答えずにじっと腕組みをしている。


「ほら、そんなところに立ってると見つかるわよ」


 茜音たちの二人が動き出したので、未来も慌てて建物の影に戻る。


「さぁ、次はどこに行くのかなぁ」


 その二人の後をさりげなくついていく。


 茜音はきっと横にいる健のことに夢中だろうから、どちらかと言えば注意しなければならないのは彼の方だ。


 直接二人に何かをしているわけではないが、やはりつけ回しているというのはやっている方もされている方も気持ちいいものではない。


 二人でいるときは、無防備とも言える茜音を守っていくと自負するだけのこともあって、健はかなり敏感になっている時がある。


 全ての時間ではないにせよ、やはり茜音に間接的にでも影響を及ぼすような可能性があると感じれば、その感度はもっとも高められてしまうだろう。


 そうなれば、二人が後ろにいるということくらい簡単に見抜いてしまうのではないか。


 里見としてもせっかくの二人の時間を楽しむための日であるのに、自分たちの存在がそれを台無しにしかねないと、どうやって未来をこの状態から引き離せるかを考えていた。


「新杉田方面か。このあとシーパラじゃないんだ……」


 そんな里見の心中を知ってか知らずか、オペラグラスで二人の状況を見ている。


 改札の中に消えると、彼女は駆け寄って急いで改札口にICカードをタッチして続く。


「あのね未来ちゃん。やっぱり私はこういうの賛成できないわ」


 列車が来て、一番後ろの車両に駆け込む二人。


 健と茜音が一番前に乗っているのを確認できているから、この後二人がどこに向かうのか確認しなければならない。


 未来は、里見には答えず、さっきから難しい顔をして腕組みをしている。


 京浜東北線に乗り込み、横浜方面に向かいながら、二人の様子を視界の端でとらえ続ける。


「里見さんってデートってしたことあるんですか?」


「それは私だって、これだけ生きてればデートくらいはあるわよ。その結果がどうなったかは別としてさ」


 唐突に未来に言われ、ちょっとムッとして里見が返す。


「だったら、里見さんのデートもあんな感じだったんですか? 買ってもらったりすることもなく?」


「うーん。そうねぇ。両方だったかな。でもあんまりおごられるのは好きじゃなかったな」


「そうなんですか? 普通ってそうじゃないんですか?」


「未来ちゃんの普通って、どっから来てるの? 未来ちゃんってずっと健君一筋だったから、他の人とデートなんかしたことないでしょ?」


「そうですけど……。でも、この間だって、兄さんは全部持ってくれたし、学校の友達と話していても、割り勘って聞かないし」


「そっかぁ。でも、それはお付き合いしている二人の間のお話だし、それがすべてではないと思うけどな」


 そう話しているうちに、電車は桜木町の駅に到着した。


「あ、降りるわよ」


「え? 桜木町? うーん、この辺って兄さんたちよく来るって話だけど……」


 未来は首をかしげて、改札口への階段を下りていく。


「遊びなのか買い物なのかよく分からないね」


 見失わないギリギリのところで後を追う二人。


 土曜日のお昼頃ともなれば、デートの恋人たち、家族連れ、友達同士のグループなどがたくさん集まっているので、気を抜くと見失ってしまいそうになる。


「どうやら、モールの方に行くみたいね」


「買い物とは限らないですよ。赤レンガだってあるんだから」


 横浜港のシンボルともいえるランドマークタワーや、その横にあるちょっとした遊園地の方面ではなく、以前は古びた赤レンガ倉庫くらいしかなかった周辺に出来たショッピングモールの方へ進んでいるようだ。そのモールの完成に続き、今では赤レンガ倉庫もきれいに改修され新しいスポットとして生まれ変わっている。


 茜音と健の二人は、特に迷うことなくショッピングモールの中に消えた。


「いろいろお買い物も大変だなぁ。未来ちゃん、私たちもお昼にしようか」


「そうですね」


 二人も急いで食べられるようにファストフードのお店に入って休憩することになった。




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