[3章2話-1]:志望校は「行きたい」が一番!
決意表明をした翌日、未来は朝一番に職員室に行き、担任に受験の進路希望を伝えた。
「そうか。やっぱり櫻峰に決めたのか。昨日言っていた学費の方は目途がついたのか?」
「いえ。そこはまだ解決していません。この試験がダメだったら、その時に考えます」
「ほぅ……」
前夜に説明された、奨学生になれば学費的なものを気にしないでよくなるという、また一発試験のターゲットに合わせるという策を聞き、リスクはあるが十分狙える範囲だと答えた。
「このまま頑張ってくれれば大丈夫だろう。確かに内申点を気にしなくていいなら、そのあとのことを考えずに、全力でやってみろ」
「はい。やってみます!」
そんなやり取りがあった職員室。学校から帰るとこれまでとは違い自習室に籠もって問題集や参考書を開く日々になった。
分かっている。あと3か月で奨学生になれるほどの学力をつけるためには、もうこの2学期の間は遊ぶ暇などない。
食事も健が自習室まで運んでやったほどで、ここまで熱中したことのない彼女を見たことがない様子に、周囲も見守ることにした。
「未来ちゃん、少し休みなよ」
年少組が寝静まった頃、健が夜食を持ってやってくる。
「もう少し頑張る」
おにぎりを食べる手を見ると、鉛筆のカスで汚れている。
いつも、どちらかと言えば学習態度はよくなかった未来がここまで打ち込めるのは、やはりあの高校にはそれなりの魅力があるのだろうか。
「未来ちゃんはどうしてあの高校を知ったの?」
櫻峰高校はこの珠実園がある横浜から少し離れた逗子と横須賀の間にある。通学としては十分に圏内なのだけど、市内に多くの学校がある地元で進学する子がほとんどだ。
「あの学校には恋愛成就のジンクスがたくさんあるんだって」
「ほぉ?」
大人が聞けば笑ったり、もっと真面目に考えるよう諭す理由だとしても、初めて人生の選択に迷う15歳には十分なきっかけだ。
櫻峰高校は文字どおりに、校内に多くの桜の木が植わっている。
また、高台にあり海も見えるロケーションでもあるため、若い男女の間で自然と青春を謳歌できるような環境が揃っている。
また、校風としても比較的寛容で、恋愛についても禁止などはしていない。もちろん、その分事件などを起こせばその処分は厳しいと聞いているが……。
それだけに、毎年いろいろと話題は伝わってくる。
「なるほどねぇ」
「先輩に聞いたんだけど、今の3年生で凄い恋愛をしている先輩がいるって聞いたし。そんな環境なら、私も少しは恋愛上手になれるかなって」
「あ、そ、そうなんだ……?」
それを聞いて健は苦笑した。もちろん、その話題のネタは彼には分かっている。
「不純な動機かな?」
「いや、行きたくない学校に行っているほどつまらないものはない。それに、行きたいと目標を決めたほうが力は入るもんだよ」
未来が櫻峰を選んだなら、きちんと話しておいた方がよさそうだ。
その夜遅く、次に珠実園に来るときは制服でお願いしたいと茜音にメッセージを入れておいた健だった。
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