3章 明日を夢見て…

[3章1話-1]:難航する志望校選び

【茜音・未来 2学期 受験シーズン】




「田中はまだ志望校を決めきれないか……?」


「はい……。なかなか決められないです……」


 放課後、教室には担任の先生と未来みくの二人が机を挟んで向かい合っていた。


 中学3年の2学期に入ったことで、3年生の状況は高校受験一色になってきている。


 夏休みが終わるまでに志望校を決めてくるようにという宿題があったのだけど、未来はまだそのプリントの枠に進学先の学校名を入れることが出来なかった。



 2学期の頭に、まず本人の意思確認のための二者面談が行われて、先生は未来にまずそれを聞いた。


「まぁ、田中の場合は、なかなか相談できる相手もなかなか難しいところはあるかも知れないからな」


「すみません……」


 もちろん、担任の先生も未来の家庭や懐事情は分かっている。


 安易に私立校を勧めることは出来ないし、そうかと言って公立校では同じレベルの生徒たちが集められるから、リスクも伴う。


「でも、夏休みの宿題も最近のテストも頑張ってる。去年までと違って、かなりいいところは狙えるとは思うんだが……。とにかく、来週くらいまでには、仮でもいいから目標を設定しよう。そこでまた考えようか」


「はい。分かりました」


 先生も自分には時間がかかると分かっていたらしい。最後の時間があてがわれていたから。


「でも田中。何となく先生も分かってるぞ。あそこを狙っているんじゃないのか?」


 戸締まりをした教室から昇降口に二人で向かいながら先生は話した。


「なんで……、ですか?」


 間違いなく図星だ。でも、それは出来ないとずっと思っているのに……。


「でも、私……、あそこは……志望校に出来ません……」


 先生は分かっている。針路志望調査の用紙に何度も書いたけれど、その度に消した。


 結局、時間切れになって空白で出してしまったけれど、逆に空白だったことで、光を当ててみれば消した痕跡から読み出すことが出来たのかも知れない。


「やっぱり、私立ってのが最大の理由か?」


「そうですね……。特待生でもなれるのなら、別かも知れません。さすがに、私立高の費用負担となると……。いくらアルバイトをしても……」


 珠実園では、アルバイトも可能ではある。でも、学費を稼ぐために仕事漬けになって学業が疎かになってはいけない。その約束を守りながらはさすがに難しい。


「高校は義務教育じゃないから難しいところだよなぁ。先生もいろいろと考えてみる。また来週な」


「はい。ありがとうございます。さようなら」


 先生は真っすぐ校門を出て行く未来を見送る。


「田中には挑戦させてやりたい……。でも、入学がゴールじゃないからな……。何かうまい手があればいいんだが……」


 翌日の朝、その未来が第1志望校にチャレンジするための強行突破案を持ってくるなど、そのときはまだ知る由もなかった。

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