[2章2話-1]:違和感と不安と…
翌朝、茜音はバスケットを抱えて珠実園に出勤した。
「おはようございます」
「あー、茜音姉ちゃんだぁ」
「おはよぉ」
門をあけて中に入ると、子供たちが駆け寄ってきた。
「健兄ちゃん待ってるよ」
「あはは、そうなんだぁ」
彼らに手を引かれるように中に入る。
「こら、午前中は宿題の時間だろ?」
奥から聞き慣れた声がした。
「だって、健兄ちゃんの彼女連れてきたんだぜぇ」
「そっか宿題中なんだ。すぐ用意するね」
自分たちに出される夏休み必須課題は先日のフィールドワークの課題受け取りの日に提出する必要があったので、あの騒ぎのあとはウィンディで仕事が終わってから佳織と菜都実の三人で協力して片付けたものだ。
「健ちゃんも大変だねぇ」
「まぁねぇ。茜音ちゃんも手伝える? 小学校中学校の課題だから分かると思うよ」
「分かった」
集合テーブルで、門まで迎えに着てくれた小学校組の宿題を手伝うことにする。
「よぉし、さっさと宿題終わらさないと」
今度は調理場の方から女子組が帰ってくる。
珠実園ではいくつかのグループに分かれ、調理や掃除などの仕事を分担していると説明を受けていた。
「あれ、茜音さんじゃん。今日は早いね」
昨日の騒ぎで、茜音へのイメージはすっかり完成されている。
「おはようございます。お邪魔してます」
上級生になると、個室も与えられることになっていると聞いていたけれど、このときは集まって宿題を片付けることにしたようだ。
「あ、未来姉ちゃん」
茜音の目の前に座っていた子が顔を上げた。
「うん?」
部屋に入ってきたのは、中学生くらいの子だった。大きなブラウンの引き締まっている意志の強そうな目。栗色の髪型に少し特徴があった。後ろはかなり短くしているが、もみあげ近く、茜音で言えば三つ編みをしている付近だけは長めにのばしていた。ふんわりとした可愛さが特徴の茜音とはまた違い、きりりと引き締まった美少女という雰囲気を持った子だ。
「茜音ちゃん?」
「うん?」
健に呼ばれて茜音は立ち上がる。
「この子が昨日いなかった
「片岡茜音です。よろしくお願いします」
茜音が頭を下げる。
「今は中学……3年だっけ?」
「うん。そうでぇす。兄さん忘れたの?」
未来は紹介している健の腕に抱きついた。
「兄さん……?」
茜音の顔に『?』が浮かぶ。
「あぁ、別に本当のじゃなくて、ずっといるからね」
「そっか。そうだよね……」
自分は施設から引き取られたが、彼はあの事件の後はずっとここで暮らしていたのを思い出す。
「茜音ねぇちゃん元気ねぇぞ?」
「あわぁ、ごめんね」
宿題を見ていたはずの茜音だが、子供たちにつつかれてふと我に返る。
「なんか、さっきからぼーっとして。そんなに未来ねぇちゃんと会ったの嫌だった?」
「うん、そんなんじゃないよ」
挨拶の後、今日も学校の補習に行ってしまった未来の姿は消えた。それでも昼までには戻ってくると言うことだった。
その後は気を取り直して子供たちの宿題を手伝う。
そうこうしている内に、昼食を用意する時間になった。
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