詰め物
じゃがバター
山の中6巻発売記念 腐れ縁はこうしてできる
ケース1
「なあ、組んでないなら紹介してくれよ」
「あんた付き合いあんだろ? 顔つなぎ頼む」
誰とも組んでいないジーンへの口利きを頼まれる。
ケース2
「おっかねぇ顔してる兄ちゃん、昨日も熊を持ち込んだとよ」
「ディーンだった気がしてたけど、そっちか。一撃らしいな?」
「あの主従、なんか薬の再現に成功したって聞いたぜ?」
誰かとジーンがよく取り違えられている。
ケース3
「おう、金魚の糞! 銀ランクのおこぼれ貰ってたかと思えば、今度は有望な新人に張り付いてんのかよ」
「あいつはアタシが目を付けたんだからちょっかいださないでちょうだい」
俺への牽制。
ケース1と3はありがちだ。2はないことじゃないが、頻度が高すぎる。ジーンが熊を納品している時に、ギルドにいた冒険者でさえ取り違えるってのは、どう考えてもおかしいだろ。
……俺も言葉を交わすまでは認識できてなかったしな。あんな誰もが振り返るような容姿をしていて、熊を担いでくるなんざ目立つはずなのに。
森の奥での調査で助けられたし、何か借りが返せればと情報を集め始めたら、どうも噛みあわねぇ。隠密とか阻害系の精霊の力が働いているのは間違いないだろう。ただ、
ジーンはディーンやクリスのような、派手で分かりやすい活躍ができる実力がある。戦いの駆け引きや、魔物の相手は慣れていないっぽかったが、それを身体能力で簡単にねじ伏せる。
何故か俺に敬意を払ってくるが、どう考えても周囲が言うように、俺が一緒に何か仕事をするのはつりあわねぇ。せいぜいが、こないだみてぇな調査や長い日数を必要とするような仕事のサポートだ。
――ちっと距離置いとくか。
特に精霊関係があるなら、勘が働くクリス辺りかディーン、精霊憑きの二人のそばにいた方がいい。俺は二人を通して付き合う辺りだな。
そう思ってたんだが。
夕飯を食いに外に出ると、人の多い通りにジーンを見つけた。仕事を終えた職人が立ち食いできる露店がある広場への道で、ギルドとも近い。また熊でも納品して出て来たところだろう。
後ろには最近城塞都市から流れて来た、他とは頭一つ抜けた新人3人。城塞都市でもまあまあな活躍だったらしいが、あっちは冒険者の人数が多い。まあまあな活躍をする冒険者も大量にいる。
城塞都市より冒険者の実力が劣ると言われるカヌムで、依頼を浚ってさっさとランクを上げるつもりなのだろう。弱いよりは強いやつに依頼を出してぇと思うのは当然だし、掲示板に貼ってある討伐系の依頼も実力があればさっさとこなせる。
ついでに将来性がありそうな冒険者をスカウトするつもりなのか、しばらくアッシュに声をかけていた記憶がある。側にノートがいてもお構いなしに絡んでいたが、ある時を境に二人がギルドに入ると逃げるように出て行くようになった。
十中八九、ノートが何かしたのだろう。あの爺さん、あれで銀ランク冒険者だ。少し調べただけで大体の経歴が出てきた。ただ、キレイすぎる経歴に、調べられることを前提に用意したものだと疑っている。
森の奥に調査に行ったりで、詳しい情報を集めるのに手をつけられてねぇが、胡散臭いことは確かだ。
まあ、その調査で一緒に行動して、とりあえずこっちが妙な真似をしなければ無害そうなことは分かったんでよしとしよう。
で、ジーンはフードをかぶり真っ直ぐ通りを歩いている。後ろにいる3人が話しかけるのを、完全スルーして真っ直ぐ通りを歩いている。無表情な顔にフードの影が落ちて、機嫌が悪く見える。
――見えるってぇか悪いんだろうな。
こちらに気づいたらしいジーンがピタリと止まる。
『あ、レッツェだ』
いきなり顔に表情が乗る。心の声が聞こえてくるようなんだが……。
アッシュやディーンたち親しい人間と一緒だと、ジーンは考えていることが顔に丸出しになる。その親しい人に俺が入っているのが謎なんだが。
後ろの3人組、俺のこと睨んでるな。ギルドに納品したばかりなら夕飯はまだのはずだ、後ろについてる3人組とどっかで食ったとも思えねぇ。人通りの多い場所でコイツらを巻く途中だった感じか。
こっちを見るジーンが考えてそうなことは、『さては、俺を置いてなにか美味いものを食いに行くつもりだな?』ってとこだろうか。コイツ、食うの好きだし。
「あー。エギ通りに煮込みが美味い店が出来たって話だが、行くか?」
「行く!」
即答だった。
「ふざけんなよ、こっちが先約だ!」
3人組の一人が怒鳴る。
「約束なんかしてないだろ。断ったのにまとわりつかれて、はっきり言えば邪魔だ」
ジーンがすげなく答える。
「そいつより絶対あたしたちのほうがいいわよ、ね? なんだったら偶に夜も付き合ってあげるし……」
「いらん。鬱陶しい」
美人というわけじゃねぇが、ぼってりとした唇の胸の丸い、男好きのしそうな女に迫られても全く心が動かないようだ。多分、ジーンは美味い飯屋に誘った方が釣れるぞ。
女の手を振り払って俺の隣に来るジーン。
「断ってるのに絡んでんなよ。見っともねぇぞ」
「お前は黙ってろ!」
面倒くせぇやつらだな。ちっと怖い通りにでも誘導してやろうか。
「大体てめぇはなんなんだよ、えぇ?」
3人目が凄んでくる。
「俺か、俺はコイツの――」
ちらりとジーンを見る。コイツ、一定ラインを超えるといきなり力に訴えるんだよな。
鬱陶しいっちゃ鬱陶しいが、コイツらが再起不能になるってのもやり過ぎだろう。
「保護者、兄貴分なんだよ。これでも数日後には銀ランクだ、これ以上コイツに絡むってんなら、お前らカヌムで仕事回らなくするぞ」
森の調査報告を検討後、ギルドが俺を昇格させるのはほぼ間違いないが、別に実力があるわけじゃねぇ。
書類仕事ができる冒険者が重宝なだけだ。俺に討伐依頼が振られることはなく、調査系や実力はあるが癖もある冒険者のサポートの依頼が回ってくる予測が立つ。
まあ、ハッタリってことなんだが効果はあったようだ。
「う……」
鼻白んだ3人組がブツブツ言いながら雑踏の中に消える。
「兄貴ー! 早く飯!」
邪魔者はいなくなったとばかりに笑顔のジーン。
「兄貴言うな」
ちょっと前まで距離を置くはずだったんだがなぁ。
これ、ジーンに絡む冒険者をやんわり遠ざける仕事が出来た気がする。――しょうがねぇか。
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