ブランドもののバッグ

平中なごん

一 お得な買い物

 皆さんはネットのフリーマーケットで買い物するなんてこと、ありますかねえ?


 私は使ったことないんですが、若い人達の間では最近流行りみたいですよね。


 これは、そんなネットのフリーマーケットで掘り出し物のブランド品を購入した女性の、ちょっと不思議な体験談です。


 その女性というのは一緒に仕事をしているスタッフのカノジョさんなんですけどね、まあ、仮にA子さんとでもしときましょう。


 まあ、多くの女性がそうだと思うんですがね、彼女もご多分に漏れず高級ブランド品というものに憧れを持っていましてね、ある時、いつものように仕事の休み時間を使って某フリーマーケットサイトをスマホで見ていたら、思いがけずいい掘り出し物を見つけたそうなんです。


 名前出すと差し障りがあるでしょうから、どこのブランドとは言いませんがね。まあ、あの〝C〟の文字を二つ背中合わせに重ねたような、あの誰もが知る有名ブランドですよ。


 そこの期間限定で発売されていた本革製のショルダーバッグが、なぜか驚くほどの破格の値段で出品されていたんです。


 正規の値段なら数十万、下手すりゃあ百万近くするバッグですよ。それが数万で売りに出されてるんだ。しかも、状態は1度か2度使っただけのほぼ未使用品です。


 もちろん、A子さん、最初は偽物じゃないかと疑ったそうです。でも、このサイトは運営側がちゃんとチェックしていて、ブランドものの偽造品を売るのはものすごく難しいんですよね。


 それじゃあ、どこかに傷や縫合ミスなんかのある〝わけあり商品〟なのかとも思ったんですが、説明書や紹介写真を見てもそんな感じじゃないんです。


 まあ、内緒にしてるだけで目立たない小さな傷とかがあるのかもしれないですけどね、それにしたって安い買い物なんだ。


 当然、このサイトを使ってる他の人達もそう思うはずです。これは迷ってなんかいるとすぐ先を越されてしまう……。


 A子さん、値段が値段だし、最悪、偽物をつかまされてもここまで本物そっくりならいいか…と思い切り、即決で購入したそうです。


 その思い切りがよかったんでしょうね。なんとか先を越されることもなく、そうして無事にそのバッグを手に入れたA子さんでしたが、いざ家に届いてしっかり細部まで確かめてみると、タグを本物の画像と見比べても違いはないし、どこかに傷や縫合ミスがあるって感じでもないんです。


 じゃあ、なんでこんな安い値段で出品してたんだろう? もしかして値段設定を一桁間違えてるとか?


 そんな疑念を抱きつつも、もう支払いも済んだ後ですからね。今さら間違いだったなんて向こうが言って来ても後の祭りですよ。いい買い物ができたと素直に喜ぶことにすると、さっそくA子さんはそのバッグを使い始めました。


 こういう高価な商品って、痛まないよう箪笥の奥深くに仕舞い込んで、滅多に使わないって人もけっこう多いと思いますけどね、まあ、実際支払った金額は大したもんじゃなかったし、逆にせっかく手に入れたものを使わないのはもったいないってA子さんは思ったんですね。


 みんなに見せびらかしてチヤホヤされたい……そんな気持ちもちょっとはあったんでしょうね。


 翌日、そのバッグを下げて会社へ出勤すると、案の定、目敏めざとい女子社員達が、「ああ! それ、◯◯のバッグじゃない?」、「ええ! どうしたのそれ?」、「いいなあ、わたしもほしいなあ」って食いついてくるわけですね。


 きゃあきゃあとみんなにもて囃されて、羨望の眼差しで見つめられ、そりゃあ悪い気はしませんよ、普通ならね。


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