異世界かくれんぼ

ちょこねこ

序章

邂逅と転生

「もういいかいー」

「まあだだよー」

「もういいかいー」

「まあだだよー」

「もういいかいー」

「もういいよー」


目の前の木から顔をあげ、後ろを振り向く。

いつもと変わらない公園の風景。ジメジメとした夏の暑さ。隠れた同級生を探す。


そのはずだった


突如目の前に広がったのは見慣れない森。アマゾンの密林のような青々と茂った森である。

空には木の葉が広がっていて、日が当たらないのでほんのり涼しい。

さっきまであった公園の風景がそこにはなかった────



俺の名前は成瀬祐也なるせゆうや。東京で一人暮らしをしている、なんということはない普通の大学生だ。

俺は久々に実家に帰っていた。待ちに待った夏休みが来たからである。

ただ、家に帰っても特段することはなく、せっかく実家に来たというのにアニメを見たり小説を読んだりして、ただ怠惰に時間を浪費していたのだった。

そんな時に小学校の同級生からメールが来た。……といっても俺たちの通っていた学校は小中一貫だったから実際には中学校までの同級生である。


内容は────


『成瀬くん久しぶり!元気してる?今度の日曜日に田辺くんと高橋くんと瑞稀ちゃん誘って遊ぼうってことになったんだけどどう?どうせ成瀬くん暇でしょ?笑』


送信してきたのは幼馴染の美香。一緒に来るのはいつも仲が良かった友人たちだ。高校に上がってからは一緒に遊ぶことは少なくなったが、それでもよくグループ通話で話しているからまだ仲がいい。どうせこのまま家にいるだけだし断る理由も特にないので、来週の日曜日に遊びに行くことになった。



「久しぶりー!!」  

元気に手を振ってそう言ったのは美香だ。相変わらず元気がいい。

「見ないうちに大きくなったねー」

この声は瑞稀だ。昔は内気な性格だったが、今ではその面影は全くない。

「「よお祐也!元気してたか??」」

一際大きい声で話すこいつは田辺。こいつはずっと変わらない。

「おはよ」

最後に高橋。こいつは高校が同じだったから久しぶりということもない。最後に会ったのは数ヶ月前くらいである。

高橋は小さい頃から俺の1番の親友で今でも毎日のように一緒に通話を繋いでゲームをしている。


「みんな久しぶりだな!」

俺は懐かしさを噛み締めながら言った。


駅前の小さな噴水で待ち合わせた俺たちはそのままカラオケに行った。ひとしきり歌った後にファミレスで昼食を食べ、ボーリングに行き、軽く街を歩いているうちに気づけば午後4時を回っていた。俺はすっかりとへとへとになってしまった。スマホの万歩計を見ると8000歩も歩いている。しばらく外に出ない生活が続いていたので明日は筋肉痛になりそうだ。


みんな疲れていたようだが、まだ元気なやつがいた。


「このあと公園に行かない?久しぶりにみんなで遊んだら楽しいと思うんだよねー!」

無邪気な笑顔を見せながら美香はそう言ったのである。

「「「「マジかよ!!」」」」

みんなが総ツッコミを入れたほどに美香の元気は底無しだ。


こうして俺たちは小さい頃によく遊んでいた公園に行った。脇には何本か松の木が生えている。手前にはブランコとジャングルジム、滑り台があり、奥には入り組んだ道が錯綜した迷路のような林がある。林というには大袈裟かもしれない。広さは学校の体育館の半分程度である。滑り台やジャングルジムは鬼ごっこの最強スポット、林は鬼ごっこはもちろんかくれんぼや缶蹴り、ケイドロなんかにも最適な場所だった。さらに真ん中には広場があり、ドッチボールやサッカー、野球をして遊んだものだ。今思うと懐かしくて無性にあの頃に戻りたくなる。そんな風景が目の前には広がっていた。


「なんか……懐かしいね。」

思いがけず言葉が出た。

「そうだなー。昔は学校帰りに毎日ここで遊んでたもんな」

高橋も同調するようにいう。

「ねーね!なにして遊ぶ?」

感傷に浸っている俺たちを妨げるように美香は元気な声で言った

「じゃあかくれんぼとかどう?みんな疲れてるしちょうどいいと思うんだけど……」

瑞稀が俺たちの気持ちを察するように提案した。


「「「そうしよう」」」

3人は一斉に同調した。


そして、ジャンケンをした。一人負けだ。俺は昔からジャンケンは弱い。給食の揚げパン争奪戦では大体最初のグッとっパで振るい分けられて涙を飲んだものだ。

こうして俺は鬼になり、みんなが隠れ始めた。そして俺は数え始めた。


「60 59 58 57 56 55………


……3 2 1     もういいかいー」


────


そして気がつけば、目の前から思い出の景色は消えていた。


俺は超がつくほどのオタクで、実家に帰ってきてすらもアニメや小説を見て時間を過ごしていた。だからこそ自分の身になにが起きたのかすぐに理解した。俺は来てしまったのだ。異世界に────

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