第11話 雪捨て場問題解決!

 寒ーい冬。ついつい温かいお部屋でぬくぬくしていたくなりますね。でも外に出てやらなきゃいけないことがあるんです。

 そう、それは除雪!

 雪の降らない地域の方には分からないかもしれませんね? でも積雪の多い地域では毎日除雪しないと玄関から出ることもできなくなることだってあるんです。雪は人間の命を奪う恐ろしい物質なのです!

 Q太郎の住むドミノ町も雪害に悩まされています。毎年二十センチくらいは積雪があって、道路も歩道も雪だらけ。通勤通学の人で大渋滞が起こり、滑って転んで怪我をする人もたくさんいます。

 そんなこんなでQ太郎は、雪だらけの町内を滑らないように注意しながら散歩していました。ただでさえ困りごとの多いドミノ町、雪が降ったとなればさらなる大きな問題が発生している可能性があります。

 気温は氷点下ではらはらと雪が降り続いていますが、寒いなんて言ってはいられません。Q太郎の体の内側では問題解決の意思が炎のように燃えていました。

「うー寒い寒い。こう雪がひどいと参っちゃうよ」

 冷え切った風に乗って誰かの困った声が聞こえてきました。Q太郎が声の方を向くと、そこには除雪中の男の人がいます。歩道にたまった雪を一生懸命除雪しているようです。

「お困りごとですか?」

 スコップなどを持って作業している人の近くにいくと、ぶつかって怪我をする可能性があります。Q太郎は少し下がったところから声を掛けました。

「うーさむ……ん? おや、なんか言ったかい?」

 男の人が振り返ったところで、改めてQ太郎は呼びかけます。

「僕はバベルのQ太郎! 問題解決の専門家だよ! 何かお困りですか?」

「問題解決の専門家? へえ、そりゃすごいな。見ての通り雪で困ってるんだが……どうにかなるのかね?」

 男の人はスコップを杖のようにして息をつきました。はあはあと白い息が蒸気機関車のように吐き出されています。随分お疲れのようです。

「きっと何とかなります! あなたのお名前を教えてください!」

「えぇ……広岡ってもんだよ。そこの、向かいの青い屋根の家。そこに住んでる」

「広岡さんは雪が嫌いなの?」

「嫌いっていうか……まあたくさん積もるのは困るねえ。特にここは通学路だし、子供以外にもスーパーとかに結構歩いていく人がいるからさ。こうして歩道をきれいに開けとかないといけないんだよ」

「それは広岡さん一人でやってるの?」

「いや、町内の人で持ち回りでね。今週は大雪だけどよりにもよってうちで、こうして苦労して除雪してるのさ。やらないと苦情が来て怒られるんだよ。まったく、参っちゃうね。あー腰が痛い」

 広岡さんは体を反らせて腰をもみました。何だかとっても痛そうです。

「除雪しなくても済むようになればいいの?」

「除けるだけならまだいいんだけどね。捨てる場所が遠いから困ってんだよね。ほら、歩道って言ったってラインが引いてあるだけで狭いからさ、雪を脇に寄せておくと余計に狭くなって危ないんだよ。車も通るからさ、きっちり開けておかないと」

 広岡さんが指さした先には雪山がありました。そこは空き地で、雪捨て場になっているようでした。人の背丈ほどに雪がうず高く積もっています。

「ここからあそこまで持っていくんだけどね。うちの町内は除雪スコップしかないから、何度も何度も往復しなくちゃいけなくて大変なのさ」

 今立っている場所から雪捨て場まで三十メートルはあります。一度にすくえる雪はそんなに多くないですから、きっと何度もやらなければいけないのでしょう。一回の距離は大したことなくても、何十回も繰り返すのは大変そうです。

「つまり雪捨て場を何とかすればいいんだね?」

「そうだね。もっと楽にできるといいね。しかしそんなことできるのかい? 新しい場所があるわけでなし」

「そこは科学の力で何とかします! では、解決方法が見つかったらまた来ます!」

「ああ、よろしく頼むよ……と言っても、明日から晴れの日が続くからもう必要ないかも知れないけど」

 広岡さんのつぶやきを背に受けながら、Q太郎はとっとこ走って帰ります。途中で何度か転びそうになりましたが、今のQ太郎を止めることはできません。


「ふうむ、雪か。雪合戦はしたことあるけど、雪の事ってあんまり知らないや」

 一五〇〇メートル上空の気温がマイナス六度未満だと水分が凍って結晶となり、それが雪として降ってきます。地上に到達するまでに気温が上がると氷の結晶が溶け、みぞれになったり雨に変わったりします。

 また雪は一立米で三〇〇キロほどの重量があると言われています。ふかふかの粉雪はもっと軽いですが、湿った雪は水分を含んでもっと重くなります。除雪にかかる手間も随分変わってきます。

「ドミノ町に降る雪は大体べちゃっとした雪で湿っぽいんだね。ということは除雪しにくい重い雪ってわけだ。これを何とかするには……ううん、どうすればいいかな?」

 湿った重い雪を雪捨て場に運ぶ。これは難題でした。完全に自動化するのは簡単ですが、そうすると全部がQ太郎まかせになってしまいます。町内のことはきちんとその町内の人が管理しなければなりません。手助けはしますが、すべてを引き受けるわけにはいかないのです。

「そうか……この方法ならいいぞ! これで問題解決だ!」

 Q太郎が何かを思いついたようです! どんな解決法でしょうか? 楽しみですね!


 三日後、Q太郎は完成した発明品を持って広岡さんの所に行きました。

「へえ、これが君の発明……すごいな。いわゆるアシストスーツかい?」

 Q太郎が持ってきたのは、広岡さんが言うようにアシストスーツでした。Q太郎の隣で、スーツだけで自立して立っています。

「これは雪かきパワー君! 手足の力を強化して、何回往復しても疲れにくくなるよ!」

「そりゃあすごいな! 電池で動くのかい?」

「燃料電池が入っていて、人体の熱と手足の運動で発電するんだ。半永久的に動くよ」

「すごい技術だな……どれ、雪はないけど試しに使ってみるか。また来週降るらしいし、練習しておこう」

「一度背負って、手足を固定具の前に合わせれば自動で固定してくれるよ! 除雪が終わるまで動き続けるよ!」

「よし、じゃあ背負って……こうか。おっ、腕と足がちゃんと固定される。すごいな。外すときはどうするんだ?」

「終わったら自動で外れるよ」

「ふうん……まあちょっと試してみるよ」

「どうぞ! 除雪頑張ってください!」

 Q太郎はルンルン気分で帰っていきます。これで今度雪が降っても大丈夫でしょう。

「さて、この塀の隅に残った奴を片づけるか。スコップを持ってすくって……おお、すごい! 軽くて楽ちんだ! 歩く手間は変わらないけど、これなら全然疲れないな!」

 広岡さんは五回ほど往復して残っていた雪を雪捨て場に運び終えました。

「これならいくらでも除雪できるな! 南極大陸だって掘り起こせそうだ!」

 ぐるぐると腕を回します。まるで自分がロボットにもなったような気分でした。

「さて……どうやって外すんだ……終わったら外れるって……何で認識するんだ? 外れろ、終わったよ。おい、ロボット、外れろ!」

 広岡さんがいくら言っても雪かきパワー君は外れません。それどころか、勝手に動き出します。

「除雪を継続します。対象は、南極大陸、ですね?」

「しゃべった?! おい、南極なんてどうでもいいよ! もう終わったから外してくれよ!」

「目標、南極大陸。移動を開始します」

 雪かきパワー君の背中からジェットエンジンがせり出してきました。アシストアームの脇から翼も生え、飛行姿勢に変形します。広岡さんの体も無理やり折り畳まれます。

「あー痛い痛い! なんだこれ! おい、離せって!」

「飛行シークエンス開始。エンジン点火。出力最大……離陸します」

 雪かきパワー君と広岡さんが離陸し、急激に加速して上昇していきます。音速を超え、弾道飛行に入ります。目標は南極大陸です。

 広岡さんが南極大陸などと言ってしまったばかりに、雪かきパワー君の人工知能が目標として設定してしまったのです。ちゃんと町内の歩道の除雪と言っていればこんなことにはならなかったのに。困ったものですね。

 上空の気温は氷点下でした。広岡さんの体は冷気で凍り付いていきます。それに風圧で呼吸もままなりません。このままでは除雪できなくなってしまいます。

 けれども大丈夫。雪かきパワー君は装着者が死亡しても稼働し続けることができます。燃料電池が凍り付く数万年後まで、ずっと雪かきし放題です。

 広岡さんだったものが凍り付き肉が割れ飛び散っていきます。骨だけになった広岡さんは、いつまでもいつまでも除雪を続けることになりました。


 Q太郎が雪かきパワー君の稼働状況を確認すると、さっきからずっとフルパワーで稼働し続けています。外を見ても雪はありませんが、広岡さんはどこかの雪をせっせと除雪しているようでした。

 雪かきパワー君のデータを見て、Q太郎君はほくそえみました。

「ウッシッシ! 広岡さんも喜んでるみたい! 大成功だ!」

 こうして雪捨て場問題は解決しました。めでたしめでたし。

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