第7話 公園の独り占め問題解決!

 学校が終わって下校の帰り道。Q太郎は早く帰って町内の監視カメラをチェックしようと急ぎ足です。

 すると、おやおや? 帰り道の途中のらんらん公園から何やら騒々しい声が聞こえてきます。ピーンと来ました! きっと問題が起きているのです。Q太郎はちょっと寄り道していくことにしました。

 らんらん公園の真ん中には広場があり、その中央にはドーム型のコンクリート製の遊具がありました。その上に誰かが座っていて、遊具の周りに何人かの子供がいます。

「僕たちにも公園を使わせてくれよう!」

「そうだよ! 独り占めなんてずるい!」

 周りにいる子供たちが口々に言います。知っている子供はいませんでしたが、恐らく同じ小学校の生徒です。

「へん! どうせ何やったって俺が一番なんだ! へたっぴでノロマのお前らなんかに、公園は使わせてやらないよ! 河原にでも行けばいいんだ!」

 遊具の上の少年は傲岸不遜な様子で言い、ゲラゲラと笑いました。

 河原とはドミノ町の北側を流れる八又川の河原の事です。そこには最近不審者が出没し、何人かの大人や子供が行方不明になっているのです。そのため子供は立入禁止なのですが、ドミノ町は子供の遊べるスペースが少ないため、あぶれた子供たちはやむなく河原で遊んでいるのです。

「河原なんかちっとも面白くない! 僕らはブランコがやりたいんだ!」

「滑り台で遊ばせろ!」

 周りの子供は口々に言いますが、遊具の上の少年は一向に譲る様子がありませんでした。

「なんだか揉めてるなあ。まさに問題って感じだ! ぜひとも解決せねば!」

 Q太郎は走りました。そして遊具に集まっている子供たちに大きな声で話しかけます。

「おいら、バベルのQ太郎! 問題解決の専門家なんだ! 困っていることがあるなら僕に任せて!」

 Q太郎は活舌よく喋りました。

「あぁん? なんだおめー!」

「だから、バベルのQ太郎! 問題解決の――」

「うるせー! そんなこと聞いちゃいねーんだよ!」

 偉そうな少年は遊具から飛び降り、立てかけてあったバットを手に取りました。

「痛い目にあいたくなかったらさっさと消えな! この公園は俺のもんだ! 文句あるのかてめー!」

 その少年はバットの先端をQ太郎の顔に押し付けました。

「この公園は町の財産だよ。登記簿上もそうなってる。君の持ち物ではないよ?」

 Q太郎は町内の土地利用の状況を過去三十年間にわたり調べてあるため、この公園の事もよく知っています。この公園は三十年ほど前に都市計画法に基づいて計画され設置された公園なのです。個人の所有物ではありません。

「うるせー! どいつもこいつも出ていけー!」

 少年は癇癪を起し、バットを振り回しました。Q太郎も頭をガツンとやられます。周囲の子供たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていきました。

 みんながいなくなっては問題解決のための調査もできません。それにもう殴られるのは勘弁です。Q太郎も踵を返し走って逃げました。


 後日調査したところによると、あの公園を私物化していたのは小学六年生の能山英雄であることが分かりました。体格がよく気のいい少年だったそうなのですが、小学五年生の頃からクラス替えで変な連中と一緒になり、そこで段々問題を起こすようになっていったそうです。不良の中学生とも仲がいいそうです。英雄の名前からヒーローと呼ばれていましたが、今ではすっかり悪の魔王です。

 らんらん公園は皆の憩いの場だったのですが、いつからかあの能山が入りびたるようになり、遊具を独り占めするようになりました。別に遊ぶわけではないのですが、他の子供たちが困っている様子を見るのが好きなのだそうです。

「ううん。こりゃあ一大事だ! 公園を自由に使えないなんて大問題だよ!」

 Q太郎は頭をひねって考え始めました。

 能山が言うには、自分が勉強も駆けっこも鬼ごっこも一番強い、だから自分に使う権利がある、という事でした。実際能山は学校の成績もよくスポーツも得意です。性格は悪いですが、意外と女子からの人気も高いようです。

 言っていることはめちゃくちゃですが、そんな能山から公園を取り戻す方法があるのでしょうか? そう、あるのです! Q太郎は独自の解釈に基づき、今回の問題を解決することにしました。


 土曜日の午前十時。朝ごはんを食べた子供たちは家を飛び出し遊び始める頃です。

 らんらん公園には今日も能山とその取り巻きがいて、公園で遊ぼうとする子供たちを追い出したりいじめていました。

「ぎゃははは! あーおもしれー!なんでこんなにどいつもこいつも弱くて馬鹿なんだろう!」

 ドーム型の遊具の上で能山は大笑いをしていました。

 そこに、Q太郎が現れました。

「おい、能山! 今日は公園を取り返しに来たぞ!」

 Q太郎の後ろには三人の小学生がいます。みんな小学六年生で、普段から能山にやり込められている三人、津山君、戸川君、荒木君です。

「あぁん? なんだてめー! この間の妙な奴か?」

 能山は遊具から飛び降り、バットを手に取りました。

「まだ殴られ足りねえのか? 脳みそ腐ってんのか?」

 顔に向かって突き出されたバットをどかし、Q太郎は言いました

「今日は勝負しに来たんだ。おまえ、駆けっこでもなんでも自分が一番だって言ってたな?」

「おう、そのとおりだ。俺に勝てる奴なんかいねえよ!」

「だったら勝負だ! この三人が勝ったら、お前の方が公園から出ていけ!」

「何、勝負だと?」

 能山はQ太郎の後ろで不安げに俯いている三人を見ました。

「いいぜ、やってやろうじゃないか! こてんぱんにしてやる!」

「よし。じゃあ、駆けっこ、垂直跳び、重量挙げで勝負だ!」

「望むところだ!」


 まずは駆けっこです。らんらん公園は結構広いため、直線で五十メートル確保できる場所があります。そこで徒競走です。

 一コースに能山、二コースに津山君です。能山は立ったまま、津山君はクラウチングスタートの姿勢でした。

「へっ! 陸上選手の真似なんかしやがって。そんなことしなくても、俺の方が速いって見せてやるよ。終わったらぶん殴ってやるからな、津山!」

 能山は隣の津山君に暴言を浴びせます。しかし津山君は臆することなく神経を集中し、ただ前だけを見ていました。普段の気弱な彼を知る人が見れば、きっと驚くことでしょう。薬の影響です。

「用意、ドン!」

 戸川君が旗を振り降ろします。それに合わせ、二人は一斉にスタートしました。

 まず出だしは津山君がリードしていました。そこから能山が追い上げていきますが、差を詰め切れないままゴールしました!

「津山君の勝ち! ええと、一応写真判定するよ」

 Q太郎がパソコンに画像を出します。約一メートルの差で明らかに津山君の勝ちです!

「あなたの勝ちだよ、津山君。良かったね!」

「うん……うぅ……」

 津山君は白い顔をして震えていました。薬の副作用です。数日もあれば元に戻るので安心です。

「うぅ……くそ! こんなはずがあるか! す、スタートの合図がおかしかったんだ!」

「何言ってんだい。そう言うだろうと思ってちゃんと映像は残してある。何の問題もないよ」

「おのれ……!」

 能山は歯噛みをしてQ太郎を睨みます。いつものように殴ってうやむやにしたいところですが、ここでそれをやれば負けを認める様なものです。

「おい能山。次は垂直跳びで勝負だぞ! 相手は戸川君だ」

 Q太郎に呼ばれ、戸川君が前に出ます。薬のせいで顔が紅潮していますが、準備はばっちりです。

「この照明のポールの横で飛んで、どこまで手でマーキングできるかの勝負だ! 能山、お前からだ!」

「ちっ、さっさと終わらせてやるぜ!」

 能山は手にチョークをつけ、ポールの横に立ちます。そして深くしゃがみ込み、一気に飛び上がりました。

「記録、五十一センチ!」

 荒木君が記録を叫びます。小学六年生の平均は四十センチであることを考えると、中々の記録です。

「次は戸川君だ。頑張ってね」

「うん……」

 戸川君は鼻息も荒く用意をします。震える手にチョークをつけ、そしてポールの横に立ちます。そして跳躍! 高い!

「記録、六十九センチ!」

 能山の記録を軽々と越えました。すごい記録です。薬の効果はてきめんでした!

「やった! すごいぞ戸川君!」

 これで二勝。勝ち越しです。しかし能山にぎゃふんと言わせるためには、三戦全勝が必要です。

「く、くそっ! お前、何かインチキしてるだろ! バベルビルの奴なんか信用できねえ!」

「インチキなんかしてないよ。これは津山君と戸川君の力なんだ。人に嫌がらせばっかりして体のなまったお前なんか、ちっとも一番じゃないや」

 実際には筋力を強化する薬をたくさん使っていましたが、ばれなければいいのです。Q太郎はしたたかでした。

「なにおうっ! ぐぐぐ……!」

「殴ったらお前の負けさ。さあ、次は重量挙げだ!」

 用意されたのは大きな石でした。三十キロあります。

「この石をどんだけ高く持ち上げられるか勝負だよ! さあ、能山! お前からやれ!」

「お、俺は二種目やって疲れてるんだ! こんなのフェアじゃないぞ!」

「フェア? お前の口からそんな言葉が出るとはね。じゃあ負けを認めろよ。疲れて僕の負けですってさ! それが嫌なら、お前はやるしかないんだよ!」

「このクソガキめ……分かったよ、やりゃいいんだろ! こんなもん……!」

 能山は石を持ち上げますが、三十キロというのは大した重さです。何とか地面から浮き上がりますが、二十センチが限界でした。

「うぁあー! くそぅ!」

 能山は石を落としました。

「記録、二十一センチ!」

 Q太郎が叫びます。この高さより上げることができれば荒木君の勝ちです。

「さ、荒木君! 君の番だ! 能山をぎゃふんと言わせるんだ!」

「はは、はい! わかりましたぁー!」

 荒木君は首を傾けて震えながら答えました。薬が効きすぎているようです。ぼろが出ないうちに終わらせなければいけません。

 荒木君が石を持ち上げます。膝の高さまで持ち上げ、そこから一気に頭上高くまで掲げました!

「記録! 一メートル七十センチ! 僕らの勝ちだ!」

 その言葉を聞き、荒木君は石を落とします。鼻や目から血がにじんでいました。力の入れすぎだったようです。しかし、そのおかげで勝てました!

「能山! 分かったか! お前は一番なんかじゃない! この公園から出ていけ!」

「うぅ……くそ! こんなの認めるか!」

 能山は叫び、バットを振り回しました。津川君と戸川君と荒木君が次々と殴られていきます。次はQ太郎の番のようでした。

「こんなこともあろうかと……体力測定ロボ! 行け!」

 Q太郎の呼び声に応え、ロボットが徒競走のように疾走します。凄まじい健脚で一気に加速し、能山に体当たりをしました。

「ぐあぁ! ほ、骨がぁ……!」

 能山の左腕が折れていました。しかし、体力測定ロボは容赦しません。約束を反故にする奴には体力測定をお見舞いです。

 体力測定ロボが能山を掴んで重量挙げのように頭上高く持ち上げます。そしてジャンプ! 軽々と五メートルほど飛び上がり、そして能山を投げ落とします!

「うわぁー!」

 能山は悲鳴を上げ、ドーム型の遊具の上に叩きつけられました。ひどいありさまでした。

 Q太郎は能山の最期を見届けると、公園の様子を見ました。誰もいません。つまり、自由を取り戻したのです!

 Q太郎は誰もいない公園を見ながらほくそ笑みます。

「ウッシッシ! 公園を使うみんなも喜んでるみたい! 大成功だ!」

 こうして公園の独り占め問題は解決しました。めでたしめでたし。

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