第16話、世界が変わったことを把握、理解するためのチュートリアル


―――『一緒に旅に行かない?』。


思い出すのは、柾美のそんな言葉。

本の中にある異世界への旅。

それにより導かれるのは、そんなことで。


どうしてこんな現象が起こるのか、とか、どうして他のみんなにはあの本が見えなかったのか、とか、考えなければいけないことはたくさんあるような気がしたけれど。

まずは、この世界のことを知らなくてはいけないんだろう。



「いや、すまない。……君は、誰だ?」


晃は本能的にそう思い、包み隠さず正直にそう聞いた。

すると、何故かタローに似ているフクロウは、ただでさえ大きい瞳を、飛び出さんばかりにして叫んだ。


「おいっ、本気で言ってるのか? この『時』の魔精霊(ませいれい)にして《水鏡の盾》ラキラの朋友と言えば、このボク、ジャック・リヴァ以外にないだろうよっ」


そして、心外だとばかりに羽を散らす、ジャックと名乗ったフクロウ。

色々な事を言ってはいたが、晃に分かったのは、彼がタローに似ていてもタローではない、ということと。

どうやらこの世界での自分はラキラ、というらしいことだけだった。


「ラキラ? それが俺の名前なのか?」


それは、ついさっき晃が目にしたばかりの言葉だった。

あの、光る本の一ページ目、タイトルに書かれてあった名前。

であるのならばラキラと言う人物は、十中八九あの本……この世界の中心的人物、主人公ということになるわけで。


晃は早くも興奮しだしている自分に気付いていた。

物語の主人公になること。

それは、子供の頃から夢見続け、今も尚消えることのない願いのようなものだったからだ。


「何だか分からんが嬉しそうだな。キミのそんな顔を見たのは初めてだよ。ああ、カラクリがよめたぞ。姿形だけを変えるなんて言っておきながら人格や記憶まで変えたんだろう? 流石『フェアブリッズ』、底が知れないということか……」


フクロウのジャックは、ぶつぶつ言いながら晃の周りを飛び回っている。

やっぱり、晃にはジャックが何を言っているのかまるで理解はできなかったけれど。

興奮しているせいなのかなんなのか、目の前の日本語を話すフクロウを、晃はすでに当たり前のものとして受け入れ始めていることに、晃自身驚きを隠せなかった。


いつも上辺ではいきなり異世界に放り出されても順応できる、なんて考えていたりする晃だったが。

それを証明できる日が来るとは思いも寄らなかったのは確かで。


「すまない、ジャック。良かったら俺にこの世界のことを一から教えてくれないだろうか。先程から君の言っていることが、どうにも理解できないんだ」

「見たことないくらいの笑顔でそんな事言っても説得力ないっての。いや、見たことのない笑みだからこそ信じざるを得ないってことか。ヒヒっ。全く面倒なことを。

ま、キミの話に乗ったのはボクだからな。仕方ない、付き合ってやるよ。まずは、そうだな。キミが書いたキミの日記を読め。そうすれば今後の予定とキミの人となりがわかるんじゃないのか? それでも分からないことがあったら教えてやろう」


そう言って嘴で指し示した先には、旅のためらしき道具袋があった。


「へぇ、日記か」


高校に入るまではそう言えばつけてたな、なんて思い晃は言われるまま道具袋を手に取って。


「……これは」


すぐに、さっき目にした光る本が入っていることに気付く晃。


「ヒヒ、それだな。友よ、本当にキミは記憶がないんだろうな?」


いぶかしげにそう言うジャックに、晃は曖昧な笑みを浮かべつつ、恐る恐るその本を手に取った。

今度は別に吸い込まれることもなく、晃の手に収まって淡い光を放っている。


「なぁジャック、どうしてこの本……いや、日記帳は光っているんだ?」

「そんなことまで聞くのかよ。そりゃもちろん、盗難防止の魔法がかかってるからに決まってるだろう?」

「魔法か!? はは、何でもありだな」


何だか呆れているジャックを脇目に、晃はもうわくわくを止められない様子で本を開く。


始めの1ページ。

飛び込んできたのはやはり『ラキラの懐中時計』といったタイトル。


「それじゃあ、読んでみることにするよ」

「おお、んじゃボクはちょっと辺りを見てくるな」


晃はそう言って薄青の空へと飛んでいくジャックを見送ってから、手の中にあるそれを改めて読んでみることにした。


とはいえ、正直なところ。

ジャックが日記帳だと言っていたその本は、晃には日記帳には見えなかったが……。



            (第17話につづく)






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