第14話、そうであったらいいなと、ついて出た言葉がほんとうに
陸橋を越えて線路を通過し、他愛もない話をしながら歩道脇を赤い集団が占拠する。
なるべく車通りの少ない道を選びながらいつもの土手道へ。
「そう言えばさー、聖火リレーのサポートランナーの通知って回った?」
「うん、うちのクラスはもう回ってますよ」
「参加に○した人いたー?」
「いなかったんじゃないかな。私は×をつけましたけど」
先頭に葵と大介、次に剛史と奏子、そしてその後ろに晃。
たった五人の一年生長距離パート。
それでも去年よりは多いというのだからこの種目のハードさが窺えるわけだが。
そんな中、剛史がふと思いついたように隣の奏子に話かける。
キロ五分ならば、のんびりと歩いていようが変わらない、そんなやりとり。
そこに慣れというもののすごさを感じずにはいられない晃であったが。
「黒彦さんは~?」
と、そこでよりにもよって剛史が葵に話題をふった。
しかも、何だか親しげに。
一瞬、大丈夫なのだろうかと晃は思ったが。
「……ええ、私も×ね。なんとなくだけど」
剛史は葵と同じ8組だし、その程度ならばよくあることなのだろう。
晃の思考が独りよがりであることを証明するかのように何事もなく葵がそれに答える。
「まぁ、ほとんど歩くくらいのスピードでちょっとの距離だしねぇ」
それに続いて大介が、賛同するような呟きを発っしているところを鑑みるに、どうやらみんな×をつけたらしい事が分かって。
「だが、全校に回って希望者がいなかったら、俺たちの所にお鉢が回ってくるんじゃないか?」
気づけば晃は、そう口を挟んでいた。
あまりに会話がスムーズであったから、ほとんど無意識に。
自分が口を挟んだらまずいんじゃなかろうかと晃が思い立ったのは、全ての言葉を吐き出してしまった後で。
「うーん、そうなったら。参加するかもです」
「そだね。そうなったらしゃーないか」
だけど、そんなことを気にしていたのは晃だけだったらしい。
すぐに奏子と大介の言葉が返ってくる。
「もしかしたら有名人と走れるかもしれないしな」
「はは、そんな都合よくいくかなー」
「流石にそれはないと思うけどね」
安堵の勢いで口からついて出た晃の言葉。
返す剛史の気の抜けた笑い声に続いて、独り言のような葵の言葉。
晃は最後尾でそんな葵の背中……昔は長かった黒髪を見ながら、驚きに目を見開いてしまった。
それはちょっと否定的なものだったけれど、晃にとってみれば大きな前進だった。
昔なじみのよしみを信じて使命のためと東雲高校へ入学して早三ヶ月。
まともな会話ができた これが初めてで。
それ以上の何があったわけでもないのに、自然と弾む晃の足取り。
それは、このやりとりがきっかけに普通の関係が築けるんじゃないかって。
そう思ったからなのかもしれない。
晃はその時確かに、使命達成への第一歩を、感じていて……。
そんなこんなで。
練習時間が半分ほど過ぎた頃。
いつもの朝コース。
いつもと違う不可思議な出来事が起こった坂道では、一人緊張していた晃だったけれど。
特に期待していたような事が起こることもなく。
朝コースを抜けてしばらくすると、茶城山へと続く山道へと入った。
茶城山は標高千メートルを超える、六加市の観光地の一つである。
六加市自体も三百メートルを超える標高があるせいか、背の高い山というイメージはないが、その敷地はなだらかでとにかく広かった。
そのうちの半分が動物園と博物館、そして恐竜公園で占められている。
恐竜公園とは、文字通り恐竜のいる公園だ。
……と言っても当然つくりものではあるが、そのほとんどが実寸大らしい大きさで座していて、中には宙に浮かぶ(吊されている)ものや、遊具のように中がくり抜かれてあって遊べるもの、電動で動くものもあった。
その公園には、他にも山の斜面を利用した長いローラーの滑り台や、アスレチックなどがあり、入園にお金がかからないこともあって、晃が小さい頃からよく遊びに来ていた場所でもある。
現在では、東雲高校から近いことと、距離を変えてぐるりと一周できる山道がいくつもある好立地のおかげで、陸上部の練習に使われることの多い場所でもある。
「小コース回ってくればちょうどいいくらいかな」
「……そうね」
公園の看板のある入り口までやって来てすぐ、大介がそう提案した。
それに葵が賛同し、とくに反論もなく進路をそちらに向ける。
(……ん?)
と、長い桜並木の続く木陰の土手道に入ったときだった。
左手下方、そこは野球グラウンドやアーチェリー部の練習場ある場所だった……から、強い光が発せられているのを感じ、晃は視線を向ける。
そして、眩むほどの目を見張った。
視力の悪い晃はそれからすぐにそれがなんなのか見極めようと眉をよせる。
実は目つきが悪かったり顔が怖い、なんて言われるのはそのせいでもあるのだが。
そこにあったのは、自らで発光し続け、宙に浮かぶ何かだった。
アーチェリーの射的の据えてある辺り……敷居の外、裏手だろうか。
宙に浮かぶその光が、普通でないのは確かだろう。
それが何であるのか。
はっきりとは見えないのがもどかしく、思わず立ち止まる晃。
「ん? 十夜河君どうかしたー?」
それに気付いた剛史がしばらく進んだ所で立ち止まり声をかけてくる。
すぐに他のメンバーもそれに習って晃を振り返る。
我に返った晃は、一瞬悩んだ。
宙に浮かぶおかしなものが光っている。
それは、確かに晃の目に見えるものであって事実のはずだから、そのことをそのまま口にすればいいだけの話であるのだが。
少し考え、晃はアーチェリー上の方へと視線を向ける。
相変わらずのまばゆい光。
それは人工的なものではなく。太陽の光とも違っていて。
「アーチェリー場に何かあるんですか?」
つられて同じ方向に視線をやった奏子が、小首を傾げて呟く。
(……おかしい)
その言葉を聞いて、すぐに晃はそう思った。
どうやら奏子にはあの光が見えていないらしい。
と言うより、光のある場所は今いる土手道より低い場所にあって見通しもきくから、晃よりも先にその光に気づいても良さそうなものだが。
剛史も大介も葵も、その光に気づいていないように見えた。
「時計止めてないんだから、何かあるなら早くして」
少しばかりむっとした様子の葵。
だが、彼女は別に間違ったことを言っているわけではない。
走っている途中で身体を止めてしまうのは、あまりいいとはいえないからだ。
「……すまない。トイレに行ってくる」
だからそれは、自然と出た嘘だった。
どうしてそう言ったたのか、晃にも分からない。
ただ、あれがなんなのかどうしても確かめたかったのは確かで。
「またかい晃君? 走る前に行っておけばいいじゃん」
「それができないから、困るんだ」
脱力したような笑顔で大介が言う。
練習限定ではあるが、走り出すとトイレに行きたくなるのは事実なので、大介は全く疑ってないようだった。
それがよくあることなのは、女子の方にも伝わっているらしく、奏子は対応に困ったような笑みを、葵は呆れたような顔をしていて。
「行ってきなよ。先に行っちゃうけどねー」
「すまない」
晃は、ちょっと冷たい気がしなくもないのんびりした剛史の言葉に、いろんな意味で詫びを入れつつ、くるっときびすを返して走り出した。
もっとマシな言い訳はなかったものか、なんて思いながら……。
(第15話につづく)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます