第4話 ヴァスチフの咆哮
着地点は、広場の一角。
すでに大多数の露天商や行商人はその場を去っていた。ただ、例の火器商人の屋台――というか兵器展示会のような大規模な露店が、移動もできないままその場に取り残されている。
その展示台のうち、中央に位置する「島」が俺の注意を引いた。ヴァスチフの全高に匹敵する長さの、長大な火砲が陳列されているのだ。
前世に地元で自衛隊の特科連隊が演習場への往復にトラックでけん引していた、あの百五十五ミリ榴弾砲よりもさらに長い。
砲尾部分には特徴的なリボルヴァー式の弾倉があり、数発の弾薬を装填して使えるようになっていた。
(これは、見たことがある……!)
百五十メリ、重バレル・シューター。アニメ本編で
迷っている時間はない。敵のポータインは次弾を装填してこちらに狙いをつけているはずだ。ヴァスチフの腕を伸ばし、百五十メリを拾い上げる。
火器商人がおろおろして文句を言っている様子だが、避難してもらわねば彼の命も危ない。
「こいつは借り受ける! 下がっていろ、あれが着弾すると死ぬぞ!」
――ヒイッ!?
慌てふためいてその場を離れる商人たちを目で追った瞬間、俺はその近くに百五十メリの砲弾が並んでいるのを見つけた。この重バレル・シューターは中折れ式でシリンダー型弾倉を露出させ、そこに砲弾を装填するようになっている。確か、五発撃ったら開いて排莢する必要があったはず――
飛来する砲弾。俺は百五十メリを引きずり回すようにして機体を移動させ、着弾地点から退避した。
「なに、一発で十分だ」
ヴァスチフの指が砲弾を掴み、シリンダーの薬室にねじ込む。ヒンジを戻して、射撃準備状態。火器管制装置と連動させるためのケーブルを腰のラックから引き出して、撃発装置の基部にねじ込む。モニターに緑の
砲口の先には、相変わらず宙に浮いたままの迂闊なポータインがいる。
「当たれよ……!」
凄まじい轟音とともに、爆炎がヴァスチフの前方に広がった。機体がバランスを取り戻すと、すぐに俺はその場から離れた――反撃は来ない。
やがて煙が晴れあがると、敵は前方で路上に崩れ落ち、大破して細い煙を上げていた。
* * * * * * *
「若様ったら、無茶するんだから……私がどれだけ心配するか、分かってらっしゃいます?」
「すまんな。だが、クヴェリの被害は最小限に抑えられたぞ」
「もう」
不満そうに横を向いたリンの手が、俺の胸元に紙包みを押し付けてきた。内側から染み出た、香ばしい油。屋台で買ってきてくれたものらしい。
「バンモか……いただくとしよう」
紙包みを剥いて大口で頬張る。少し冷えているが、美味い。
「チーズとベーコン、それにプルカの実の酢漬けか……贅沢したな」
何年ぶりかの、都会の味だった。
俺の砲撃からしばらくして、市内の戦闘は終結した。敵味方の
ポータインの操縦者二人は生きていたが、しばらくは口が利ける状態ではなさそうだった。結局、俺たちは捕虜を監視しながら、隊商の護衛を務めてラガスコへと旅をつづけた――
※敵の山賊が使用した重戦甲『ポータイン』のラフ画像はこちらの近況ノートで掲載しています。
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