Brave the brave
@katayaburiyuui
暗い世界
慣れた腐臭。
慣れた暗闇。
慣れた硬い床。
慣れとはなんとも恐ろしいものだ。見知った顔が苦汁の顔を浮かべながらなんとか生活しているこの不衛生極まりない環境も、何年も過ごしている俺にとっては何ともないただの平凡に変わりはなかった。勿論最初は抵抗があったが、それも日常となれば話は変わってくる。
人間何事も適応していくものだ。
この腐った食事も臭いや味がしなければ気にすることは無い。
お腹が少しでも満たされるだけマシとさえ思えてくる。
無駄なく重荷を運び、指示には従順に従い、その作業効率の良さに腹を立てられ鞭で打たれることも、一人、また一人と翌日には動かなくなる姿を見るのも日常茶飯事だ。
この日々が始まって何年経っただろうか。五年以上経っている気もするし、まだ一年も経っていない気もする。だが決して短いとは言えない時間が過ぎたのは間違いない。
陽が差さらないから時間も分からない。寝ていいと言われた時間に寝て小一時間で叩き起こされることもざらであり、日の数えようもない。
だがそれでも良い。
いやむしろ、それが良い。
腐った食事、腐臭、人よりも多い足枷と重労働、不定期で仮眠程度の睡眠。その一つでも反芻すれば激しい鞭打ちによって身体を傷つけられ、傷跡から病原菌が蝕んでいく。挙げれば挙げるほど最悪の生活環境。
だから何だというのだ。
その程度造作もない。
形容できないモノに愛玩動物にされたり、生きたまま食べられたり、仲間同士で討ち合わないといけない「闘人」をさせられたりするわけではないのだから。
逃げたいと思わないわけではない。必ず全員で逃げ出してみせる。だが今は時期じゃない。とにかく耐え忍ぶ。前は自分の身で精一杯だったが、今回は違う。
仲間を連れて逃げ出すだけの力もある。
この力は、ここにいる全員で逃げ出すためにあるのだ。
もう二度と、あのような惨劇は繰り返さない。
繰り返してはいけない。
ぼたっぼたっとぬめり気が混じった液体が手から滴り落ちる。
真っ赤に染まった床と散らばる肉片を交互に見て、嘆息した。後片づけをしなくてはいけないがのんびりしている時間もない。
瞳を閉じ、相方へと語りかける。
その語りかけに呼応するように大気が揺れた。
大気の揺れの後に訪れたのは、胸の鼓動だけが聞こえる静かな世界。
ズキッと痛む頭を抑えながらもその場を後にして、まだ少しは続く非凡な毎日へと戻っていく。
人の気配がなくなったその場には、既に赤い海も、肉片もない。
計画実行まであと少し。
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