第33話 大遺跡の記録
無事に今回の
職員の女性に案内され応接室に入ると、そこには既にアースさんとナイズ教官の姿があった。
てっきりアースさん一人だと思って居たがどうやら違った様だ。
「あれ、ナイズ教官もいるんですね?」
同じように不思議に思ったエルンが二人に問いかける。
「ああ、私も彼女も大遺跡を攻略した小隊のメンバーだからね。彼女にも大遺跡に関しての情報は開示されているんだ」
「アース一人では不安だからな、私も同席させて貰う。取り敢えずお前達も座ると良い」
疑問が解消した僕達はナイズ教官に促されるまま椅子に腰かける。
案内を終えた職員の人は自分の持ち場に戻ったのか、いつの間にか姿を消していた。
「さて、それじゃあまず大遺跡の内部……遺跡の構造や仕掛けに関して聞いて行こうか」
そう切り出してきたアースさんに、僕達は一人ずつ順番に自分達があの場所で体験した事を話して行く。特に話が長くなったのが一番奇妙な体験をしたリベラで、彼女が上手く纏めきれない場所を僕が補完する形で話を進めていく。
彼女の話が終わると、二人は腕を組みながら何かを考え始める。
「誰かの過去の再現……いや、追体験と言ったところかな?」
「私達の時にも似た雰囲気はあったが、記憶を垣間見る事なんぞ無かったぞ?」
どうやらリベラの身に起きた出来事は、大遺跡を攻略した二人であっても体験したことの無い事象の様だった。
そのまま二人はリベラの話の中から気に掛かる事を話し合う。
「レアン王国……それも四元騎士の事についてはお前が一番よく知って居るだろう、アース。歴代の四元騎士の中でフィリルと言う名の騎士は居なかったのか?」
「正直に言うと分からない。聞いた覚えがあるような気もするし、全く知らない気もするんだ」
「その表情からして、またアレか?」
「ああ。多分、そうだと思う」
二人の会話から完全に置き去りにされている僕達は彼らが何を言っているのか理解出来ずに首を傾げる。強いて分かった事があるとすれば、アースさんは四元騎士について何かを知っていると言うくらいか。
そんな僕達の様子を察したのか、ナイズ教官が咳払いをした後にこちらに向き直る。
「すまないな、今回お前の身に起こった事に関しては私達も経験したことが無い。私達が攻略した大遺跡と共通する点と言えば入れる人間が限られると言う事と、遺跡内の風景に一貫性が無く、転移に近しい方法で進んで行くと言う点くらいか」
「レアン王国やセレドゥに関する記憶があったと言うのは興味深い情報だった。それに、遺跡の最奥で待っていたフィリルと言う名の少女……。彼女に関しては私が独自に調べようと思って居る」
一先ず、この大陸に存在しない砂の海や荒野に関しては置いておき、セレドゥやレアン王国と言った記憶と大陸で共通する場所から調査を開始するらしい。
目の前に広げた大量の用紙にスラスラと今までの話を記録して行くアースさんの表情は真剣そのもので、しばらく声を掛けるのは躊躇われる。
それを見越していたように、ナイズ教官の方から僕達に向かって声を掛けて来た。
「……こいつが記録を取っている間、しばらく話し相手になろう。何か聞きたい事はあるか?」
「あ、それじゃあ私から。教官とアースさんはどう言う関係で?」
「お前……最初の質問がそれか……」
一番最初に彼女の言葉に反応したのはエルン。
何かを期待するような彼女の視線に呆れたように溜息を吐くナイズ教官だったが、それには構わずに質問に答える。
「さっきコイツが言った通り、元々私とコイツは同じ小隊で活動をしていた探索者だった。とは言っても、それももう五年前の話だがな」
「五年前に何かあったんですか?」
「そう言う訳じゃ無い。元々その時期から私は一線から退こうと思って居たんだ。そこに丁度大遺跡の出現が重なり、その攻略を以て私は探索者を引退したと言うだけだ」
ナイズ教官は当時の事を思い出してか満足そうに語る。
その表情から、彼女にとって満足の行く形で探索者を辞められた様だ。
「さて、他に何かあるか?」
「あ、それじゃあ僕から。教官は僕達の両親と面識がありますか? 名前はレノンとリースって言うんですけど……」
エルンに続いて今度は僕が教官に質問をする。
僕達の両親―――レノンとリースは元探索者だった。
二人は遺跡探索の話は割と詳しくしてくれたのだが、共に活動していた仲間については全くと言って良い程何も語って居なかった。
その事については今まで特に気にはならなかったのだが、先日のアースさんの口ぶりから彼が両親と共に活動をしていた可能性が浮かんで来た。
それなら、彼と共に活動していた教官も両親の事を知って居るはずだ。そう思い彼女に問いかけたのだが、果たして―――
「そうだな。レノンとリースも、私達と同じ小隊だったぞ」
「やっぱりそうだったんですね」
「へぇ~!! そうだったんだ!!」
案の定、彼女の口から両親がアースさんや教官と同じ小隊だった事が明かされる。
リベラは何も知らなかった様で素直に驚いているが、僕は何故二人が僕達にアースさんや教官の話をしなかったのかが気になる。
教官の反応からして仲が悪い、と言う訳では無さそうだが……。
「あいつらと最後に会ったのは大分前の事だが、今でも手紙でのやり取りくらいはしているぞ。だが、最初はお前達があいつらの子だとは気が付かなかったな」
「え、そうなんですか?」
「ああ。あの二人……と言っても手紙を書くのは大抵リースだったが、手紙内容の大半がレノンに対する愚痴だったり、かと思えば惚気話だったりであまりお前達の事を書いていなかったからな」
「あはは……そうだったんですね」
どうやら仲が悪かったわけでは無く、単純に自分達の事を中心に話をしていたら自然と話す機会が損なわれていただけの様だ。その事実を知った僕は納得すると同時に、それはそれでどうなのだろうと少しモヤっとした気持ちになったのだった。
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