第29話 未帰還者の救出
無事に遺跡から脱出したアースさんと僕達。仮設本部前へ突如現れた僕達に現地の職員達は一瞬驚いたが、直ぐに事情を察して自分たちの職務に戻る。
彼らは遺跡から戻り始めて来た探索者達の確認や手当を行っており、現段階で戻って来た小隊に目立った損害は無い様だ。
とは言え、まだ戻ってきていない小隊も無事であるとは限らない。
直ぐにアースさんは彼らに状況を確認し、自らも対応に当たる。
「私はまだ仕事がある。君達はここで休んでいて構わないよ」
「僕達にも何か手伝えることはありませんか?」
力になれる事は無いかと彼に尋ねると、少しだけ考える素振りを見せた後に指示が出される。
「ではお言葉に甘えようか。治療魔術を使えるレナ君は救護班と共に負傷者の手当てを。エルン君は遺跡群周辺地域の哨戒班と合流し、魔物による襲撃の警戒を。リベラ君とリオン君は本部で書類を受け取り、未帰還の小隊が居る遺跡前で待機し、何かあれば直ぐに知らせて欲しい」
「「はい!!」」
現状、ギルド長と共にやって来た人員だけでも対応は滞りなく進んでいるが、人手は大いに越したことは無いと言う判断の様だ。
早速僕達四人は出された指示に沿って行動を開始する。
僕とリベラは仮設本部に居る職員の方から遺跡の推定難易度、その遺跡に入った小隊の等級などが記入された一覧表を受け取り、入り口付近に小隊未帰還の目印がある遺跡へと向かう。
「まだ未帰還の小隊が居るのは……ここか」
僕が向かったのは推定難易度五等級の遺跡。
ここに入った小隊は四等級の探索者達。難易度に間違いが無ければ、然程問題が起こるとは考えにくい難易度と小隊の組み合わせだ。
遺跡を取り囲むように打たれた魔物除けの杭を踏まない様に気を付け、遺跡の前で待機する。
(……そう言えば、リベラが持ってたはずのあの盾は何処に消えたんだろう?)
そこでふと、塔の頂上でアースさんと出会った時の事を思い出す。
リベラがフィリルから受け取っていたはずの花の盾。
あの場所に行った時、大事そうに抱えていたはずの彼女の手の中には盾は無かった。
もしあればアースさんがそれに気が付かない訳は無いだろう。
そうなるとリベラが転移の間際に無くさないよう、カバンにしまい込んだか……
(もしや……大遺跡から転移する際に消失してしまった?)
流石にそれは無いと思いたいが、紛失してしまった可能性も無い訳じゃ無い。
リベラと分かれる前にしっかりと聞いておくべきだったと思いつつも、聞きに行った間にこの遺跡内にいる小隊が帰還する可能性を考慮すると、今この場所を動く訳には行かない。
自分の凡ミスを反省しつつ、一応自分の持ち物も確認する。もし大遺跡で手に入れた物が消失したのなら、砂の海で僕が採取した砂や植物も消えてしまった可能性がある。
試験管に保管したそれらがちゃんと存在しているか見てみると……。
「良かった……。これは大丈夫みたいだ」
試験管には傾けるとサラサラと流れる様に動く砂、そして針を持ち表面が比較的硬質な植物が確かに存在していた。僕の持ち帰ったこの二つがあるとは言え、リベラが渡されたあの花の盾がある確証には至らないが、ある程度楽観的に考えられる余裕は出来ただろう。
手早く試験管を懐にしまい込み、アースさんに指示された仕事に集中する。
今の所特に異変は無く、相も変わらず入口周辺は静かだ。
遺跡難易度と小隊の等級、日の暮れ具合を見るにそろそろ帰還して来ても良い頃合いだが……。
「―――、――――!?」
「ッ!? 何か聞こえたような……」
そんな事を考えていると、不意に遺跡の中から僅かに声らしき物が聴こえる。
遺跡にギリギリ入らない程度まで近づき耳を澄ませると、声と同時に人の足音の様な音も聞こえて来る。次第に近付いて来る様子から、中に入った探索者達だろうか。
遺跡の罠の可能性も考慮したが、その考えは杞憂だったようでヘッドライトの明かりを目印に徐々に探索者達の姿が鮮明に見えて来た。
「大丈夫ですか!?」
「俺は大丈夫だが、怪我を負ってるコイツが不味い。それに一人だけ中に取り残されちまってる」
帰って来た小隊は四人居るメンバーの内一人が重傷を負い、もう一人も遺跡内に取り残されてしまっている様だ。その傷の具合から、罠では無く魔物との戦闘で傷を負ったのだと分かる。
「直ぐに仮設本部に向かいます。応急処置は!?」
「もう済ましてるが、回復薬じゃ効き目が薄い!!」
「分かりました、急ぎましょう」
薬草の効能を水に染み出させて作られる回復薬。ギルドから支給されるこの薬は傷の治りを速め、消毒効果もある優れ物だ。
だが、それだけでは足らない程に彼の負った傷は深い。直ぐに救護班の下へと運び、小隊のメンバーの内一人が取り残されている事を仮設本部に報告する。
「判った、私が救出に向かう。もう日没も近い……夜営の準備を進めながら他の小隊が揃うまでここで待機していてくれ」
「「分かりました!!」」
無事に戻って来た二人はアースさんの指示に従い、メンバーの無事を祈りつつ自分達に出来ることをする。
「助かったよリオン君。だが、もう暗くなって来た頃だ。君も出来るだけ本部付近にいて欲しい」
「分かりました。お気を付けて」
既に日は沈みかけている。アースさんに心配を掛けない為にも、本部付近で行われている夜営の準備を手伝う事にした。その様子を見て安心したように笑った後、彼は遺跡に取り残されている探索者を救出すべく、一人件の遺跡へと向かって行った。
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