第30話 金花の在処
「よし、これで全部かな」
「手伝ってくれてありがとう。君ももう休むと良い」
「はい、分かりました」
遺跡群の中央にある仮設本部を中心として設営された野営用テント。
いま建てたばかりの物を除いても十張り程はあるテントの中では、遺跡の探索を終えて戻って来た探索者達が身を寄せ合っていた。
既に日は落ちており、遺跡から帰還して居ない小隊もまだ幾つかある。
先程未帰還者の救出に向かったアースさんも、無事に帰って来て貰いたいが……。
そんな不安を抱えつつも割り当てられたテントの中へと入る。
「あ、お兄ちゃんお帰り!!」
「ただいま、リベラ。みんなもお疲れ様」
「お疲れ~。リオン君も直ぐにご飯食べるよね?」
「これがリオン君の分です、どうぞ」
「ありがとう、レナ」
その中では既にそれぞれの仕事が終わった三人が夕飯を口にしつつ出迎えてくれた。
救護班に合流していたレナは怪我人の手当てが落ち着いた頃合いを見計らってこちらに戻されたらしく、エルンも空が暗くなった辺りで職員の人に帰らされたそうだ。
未帰還者のいる遺跡入口で待機していたリベラも、無事に小隊が戻って来た所でその人達と共に帰って来たらしい。
ギルドから配給された食事をレナから受け取り、その中のパンを早速一口齧る。
少し固い食感のそれをしっかりと咀嚼して呑みこみ、乾いた喉を潤そうと水筒を取り出していると、そっとエルンが口を開いた。
「にしても、今回の遺跡は本当に今までで一番よく分からない性質だったよね……」
「そうだねー。大遺跡ってみんなあんな感じだったのかな?」
今回の″
「……そう言えばリベラ、フィリルから貰ったあの花はどうしたの?」
それと同時にリベラがあの遺跡から持ち帰った物について思い出した僕は、彼女にあの花の盾をどこにしまったかを確認する。
「あ、そう言えばどこに行ったんだろう? 確か急に眩しくなった時に無くさない様にぎゅーって持ってたのは覚えてるんだけど……」
「もしかして遺跡から持ち出せなかったとかかなぁ?」
リベラは両手で拳を作り、必死に思い出そうと頭をぐりぐりする。
光に包まれている際に抱きかかえていた事は覚えているが、その後は何処に行ってしまったか分からない様だ。
「一応、僕があの遺跡で採取した砂と植物は残ってたんだけど……」
「あの花だけは特別……という事でしょうか?」
「う~ん、わっかんない……」
こんな事ならあの花畑の中から一輪くらい採取しておくべきだったかも知れない。そんな事を考えながら未だに唸りながら思い出そうとしているリベラを見ると、彼女の胸元から金色の光が漏れている事に気が付いた。
「……リベラ。なんか、胸元が光ってない?」
「え? いきなりどうしたのお兄ちゃ―――えぇ!? な、なにこれ!?」
「これって、あの花と同じ光……!?」
彼女の胸元から漏れ出ていたのは、あの花が放っていた光と同じ様な黄金の輝き。それは次第に光度を増して行き、視界が覆われた後、彼女の手元にはあの金花の束が姿を現していた。
「ど、どどっ、どう言う事ですか!?」
「私おかしくなっちゃった!?」
余りにも現実離れした光景を見た僕達は困惑し、正常な判断が出来なくなっていた。
だがそれも仕方の無い事だろう。姿を消したと思って居た物がいきなりリベラの身体から出て来たのだ。正直言って訳が分からない。
そんな風に混乱して大騒ぎしていると、僕達のテントに職員の人が入って来た。
「君達。悪いけど、大声や強い光を放つ光源の使用は控えてくれるかな? 他の小隊の迷惑になるからね」
「「すいませんでした」」
どうやら騒いでいた事を注意しに来たらしく、既に夜中だと言うのに騒いでしまった事に気が付いた僕達は素直に謝罪する。それを見た職員さんは直ぐにテントから出て行き、僕達は注意される元凶となった物をまじまじと観察する。
「……やっぱりこれ、花束じゃ無くて盾なんだね」
「本当だ。しっかり茎みたいな持ち手があるね」
リベラがフィリルに手渡された花束の正体は、想定していた通り盾だった。
彼女から許可を得て触れてみると、非常に軽い手ごたえが伝わって来る。それでいて感触自体はしっかりとしており、盾としての機能は十分に有して居そうな気配だ。
「これ、どうやって造られたのかな?」
「……分かりません。けど、私達が触りすぎるのはあまり良くないかも知れないですね」
「そうだね。アースさんに渡さなきゃいけないし……。リベラ、これをもう一回しまえる?」
「や、やってみる……」
一通り全員で触れてみた後、先程と同じようにリベラの体内にしまえるかを試す。
リベラが持つと盾は彼女の身体の中にスッとすり抜けていくように透け始め、出て来た時とは一転して光を放つ事も無くその姿を消して行った。
「やっぱり訳が分からないね……」
「まぁ、その辺りも含めて本部に戻ったらアースさんに聞いてみよう」
何度見ても理解出来ないその光景から意識を逸らす様に僕達は話題を変える。
みんなでゆったりと話し込んでいる内に一人、また一人と自然と眠りに付き、気が付けば僕達は次の日の朝を迎えていた。
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