第3話 徘徊する魔物
無事に解除訓練を終えた僕達は、次の日から早速探索者としての活動を開始する事にした。依頼書が貼り出されているボードの中から、自分達の等級に向けて依頼されている物を探す。
探索者には七段階の等級分けがあり、それぞれの等級にあった探索依頼のみ受注が出来る。新人の僕達は一番下の七等級で、受けられる依頼は常在遺跡の定期探索依頼くらいだ。
遺跡は基本、最奥に眠る宝を取得し、無事に持ち帰ると跡形も無く消えてしまうのだが、中には例外も存在する。
宝を取得しても消えず、定期的に内部の罠や構造が再構築され、宝箱やその中身も再発生する。これらの特徴を持ったものが常在遺跡と呼ばれる。
この形態の遺跡は難易度が低い傾向にあり、宝箱の中身も武具の類が多く、似たような物が流通している事も多いので新人研修兼遺跡管理の名目で定期的に探索依頼が寄越されるのだ。
「初めての依頼はどれにする?」
「う~ん……これが良い!!」
リベラが指差したのは先日の訓練で踏破したのと同じ、洞窟型の常在遺跡の探索依頼。場所はこのギルドから西側に少し歩いた所にあるようだ。
依頼情報や達成報酬に不可解な点が無いかを確認し、依頼書をボードから外して受付まで持って行く。だが、初めての事で勝手が分からず、受付前で思わず立ち止まって周囲を見回す。
「……お兄ちゃん何やってるの? 早く持って行きなよ」
「……依頼の受注って、この受付に依頼書を持って来れば良いだけだったよね?」
「そうだよ。だから早く行こう」
謎に立ち止まって挙動不審になった僕に痺れを切らしたリベラに押され、戸惑いながらも受付前へと辿り着く。
「こんにちは。本日は依頼の受注でよろしいですか?」
「はい……。この依頼を受注したいんですけど……」
「かしこまりました。少々お待ちください」
恐る恐る受付嬢に依頼書を渡すと瞬く間に手続きが行われ、茫然としている間に依頼の受注は完了した様だ。
「探索を終えて入手した魔道具や武具、聖遺物の類は一度ギルドが鑑定・管理致しますので、提出をお願いしますね」
「分かりました。ありがとうございます」
無事依頼の受注を終えた僕達は、そのまま目的の遺跡へと向かって行った。
「おぉー……。何か訓練で入った遺跡よりも汚い?」
「まぁ、遺跡って本来こう言う物だしね」
遺跡に辿り着き、中へと入ってしばらくしてリベラがそう呟く。
実際、石材で構築され道も綺麗に舗装されていた訓練用の遺跡に比べると、この遺跡は土製であり、道の至る所に小さな石だったり窪みがあって歩き辛い。
だが明かりが設置されている分、照明類を持つ必要が無いのは楽で良い。
同じ洞窟型でも内部は大分違う様だ。
「でも全然罠は無いっぽい? これなら楽勝、楽勝!!」
「そうだと良いけど……」
罠が無くても怪我しそうな人物が言っても説得力がない。
せめて転んだら支えてあげよう、とそんな事を考えつつ内部を進んで行く。
道が一本しか無いのは分かりやすいが、何度も右へ、左へと角を曲がる必要があったのが少し気にかかる。一応、曲がり角の先を魔術を使って確認しているが、罠が仕掛けられていた事は無いので特に問題も無く進んでいる。
「また曲がり角……今度は左か」
どうやらこの遺跡は曲がり角の多い構造らしい。先を確認するべく、本日何度目かの魔術を使おうとした所でリベラに手で制される。
「……ちょっと待って、この先から魔物の居る音が聴こえる」
「種類は分かるか?」
「多分、犬とか狼みたいな獣型の魔物。数は三……いや、四かな?」
幼い頃から目や耳が利くリベラは、兄である僕以上に些細な物音や遠くの魔物の姿に敏感だった。そんな彼女の耳が魔物の息遣いや足音を捉えた様だ。
それにしても犬か狼型の魔物が四体程か。
正面から相手するのは、二人では少し厳しい。
「僕が魔術で奇襲する。リベラは……」
「合図があるまで待機だよね、分かった」
魔術は行使するのに精神を集中させる必要がある。
リベラも使えない事は無いが、そそっかしい彼女より僕の方が発動は早い。
故に戦闘でも探索でも、魔術行使は僕が担当する。
今回は『水鏡』を使わずにそっと角から顔を出して、魔物の大まかな位置を確認する。リベラが言った通り犬型の魔物が四体、通路を巡回する様に歩き回っている。
「準備出来てるよ」
「分かった、行くよ……―――『雷針』!!」
魔物が奥の方を向いた瞬間、角から飛び出し魔術を放つ。
撃ち出された雷が無数の針となって魔物達を襲う。
手前に居た二体は身体を貫かれた痛みで怯んだが、奥の方に居た二体には届かず、攻撃して来た僕を食い千切ろうと牙を剥き出しにして襲い掛かる。
負けじと魔術を撃ち続けるが魔物の動きが素早く、思った以上に的に当たらない。
だが運良く針が一体の眼球を貫き、魔物は視界を奪われた驚きと痛みで地面に転げ回る。
残る一体は完全に僕を獲物として捉え、既に目前まで迫っていた。
「リベラ!!」
「任せて、えいっ!!」
魔術を放つ為に構えていた右腕に牙が食い込むその瞬間、左側へ向かって飛び、代わりに飛び出して来たリベラの振り下ろした剣によって魔物は首を叩き斬られる。
「よし、他の三体は直ぐには動けないはずだ。一気に詰めるぞ」
「りょーかい!!」
角へと誘いこんだ魔物が絶命したのを確認しつつ鞘から小剣を抜き、残る三体を確実に仕留めるべく接近する。手前でのたうち回る一体は片目の視力を奪って居る為、奥に居る二体の処理を優先する。
最初に奇襲を食らった魔物は既に立ち直り、僕達の姿を認識すると一斉に飛び掛かって来た。
「せやぁ!!」
魔物の攻撃に合わせて剣を振るうと、刃は魔物の足の付け根に傷を刻む。
足を斬られた事でバランスを崩す魔物……その隙を見逃さずに突き立てる様に剣を振り下ろし、魔物の胸部を深く貫く。
一瞬だけ魔物の身体が大きく跳ねるが、直ぐに動かなくなった。
どうやら完全に仕留めた様だ。
リベラの方を見ると、壁に魔物を叩きつけ昏倒させた所を同じ様に刺突でトドメを刺していた。
「お兄ちゃん、後ろ!!」
「―――っ!!」
戦闘を終えたリベラがこちらに振り向くと、切羽詰まった叫びをあげる。
その声を聞いて咄嗟に身を捩ると、先程まで僕の頭部があった場所に魔物の牙が食い込んだ。
どうやら視界を奪った残りの一体が、鼻を使ってこちらの位置を把握したらしい。リベラが知らせてくれなければ危うく大怪我を負う所だった。
奇襲に失敗しながらも、まだ攻撃を続けようとする魔物の腹を蹴り上げ、隙を生んだ所をリベラが追撃する。
喉元に刺し込まれた刃は確実に魔物の命を刈り取った。
「お兄ちゃんってば、いつも私に『油断はするな』って言ってた癖に……」
「ありがとう、本当に助かったよ」
戦闘を終えてリベラに小言を言われるが、事実として油断していた部分があった為に素直に受け入れる。お礼の言葉を口に出しながら、倒した魔物の牙を剥ぎ取る。
魔物にはギルドが指定した討伐部位と呼ばれる部位があり、ギルドまで持ち帰り討伐証明として提出すると相応の討伐報酬を受け取れる。今回の魔物の場合は犬歯で、貰える額は少ないが僕達の様な新人にとっては貴重な収入源だ。
一体につき一本ずつ剥ぎ取り、無くさないようにポーチへと納める。
作業を終えたら、手や剣に着いた血を魔術で洗い流す。
遺跡を探索する際に魔物の血を付着させたままにすると、思わぬ事故が起こりやすいと父さん達に教わったからだ。
「さて、じゃあ行こうか」
「はーい」
魔物との一戦を終えたと言え遺跡はまだまだ続いている。
最奥に眠る宝を求め、僕達は再び歩き出した。
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