第3話
「……この服、お気に入りだったんだよね」
立ち昇る煙の中から、地の底から響いているのではと錯覚してしまうほどの怒りを込めた声が紡がれた。
「それを……」
ブワッと煙が空に巻き上げられるようにしてかき消される。
中からは服の一部が焦げた、しかし外傷は見られない少女の姿が現れた。
両手を胸の前で叩き合わせて神に祈るかのように合掌している。
「あんなちゃっちい技で!」
手を広げる、ただそれだけの行為にもかかわらず周囲のマンホールや消火栓から水が噴き出す。
「もっと強い技を!」
指揮者のように指を振るうとそれに合わせて噴き出した水が躍るように形を変える。
「使うのが!」
徐々に水は粘土で作り上げた人のように集まり始める。
「礼儀で!」
始めは少女と同じくらいの大きさだったが、絶えず水を取り込むことで巨大化していく。
「しょうがー!」
ついには近くのビルを超えるほどの大巨人になったそれは、呆然とそれを見上げていた四天王と自称大魔王に向かって拳を振り上げたたのだった……。
「どうせなら全裸に引ん剝くくらいの技ぶっ放しなさいよ! 焦げ目で済ませるな! 燃やせ燃やせ! あられもない格好にしてみせろ! それこそが悪役と魔法少女系ヒーローのあるべき姿でしょ!」
この世界で活躍する魔法少女の名誉の為に、合わせてその魔法少女と敵対している者達の為にも言っておく。
彼女ら彼らの戦いは真面目な物で服を脱がすだのなんだのという事故はあれど、故意にそれを狙うものは……あまりいない。
「おしおきのー! 【バリツ18式:大巨人(ギガンテス)】」
少女として淑女として、そして人としてあるまじき発言の後に、水の大巨人が大魔王一行を地面と拳でサンドイッチのように挟んで潰した。
それはもう、プチッと言う音を幻聴させるほどの勢いで。
あとに残されたのは大量の水でできた拳に押しつぶされた自称大魔王と四天王、巻き添えを食らった異形の雑兵たち、防衛魔法で被害こそ免れたが惨状に唖然とする軍人と警官、そして一人満足げな少女だった。
「……ふぅ、すっきり!」
その背景は一部倒壊しかけているビルや、大巨人の拳が直撃したせいでクレーターとなっている道路、そしてほぼ全壊と言って差し支えない転移門と呼ばれる施設……。
つまるところ、惨状は大惨事に進化したのだった。
その大惨事の中でただ一人、大魔王を自称する男が立ち上がる。
「ぐっ……おのれ神め……だがこの大魔王マドリーゴ! この程度ではやられはせんぞ! 我が命を懸けた最終奥義! 暴虐なる深淵をとくと見よ!」
纏わりつくような漆黒の魔力が自称大魔王の体を包み込む。
兵士や警察官達は警戒心を露にし武器を構えるが、少女はそれを今か今かと待ち望んむかのように仁王立ちしている。
不意に、バキンと音を立てて自称大魔王の鎧にひびが入る。
それは徐々に広がっていき、最後にはすべてがはじけ飛んで散弾のように周囲一帯に弾痕を残した。
金色の髪をたなびかせて、筋肉質な上半身とボロボロになったズボンという変質者寸前の姿で高らかに咆哮した自称大魔王。
「くははは、これぞ我が最終形態。この姿を見せた者は未だおら……ぬ?」
「巨大化じゃないんかい!」
「ぬ、ぬああああああああああ!」
しかし悲しいかな、理不尽な暴力と言う名のツッコミによって本日二度目のプチっとなったのだった。
大巨人の拳は自称大魔王を再び拳で潰したのだった……。
「まったく、最後は巨大化するのがお約束なのに鎧脱いだだけじゃない! そんなんで悪役を名乗るなんて千年早い!」
憤りを見せる少女は鼻息荒く、水の巨人はそのまま自称大魔王を潰したあたりで拳をぐりぐりとひねっていた。
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