見え方なんて

蒼朔とーち

第1話 14:50

駅前の工事現場。

その前をのびる一本の坂道。

左手には線路を隔てるフェンスがあり、その前には置き場が整えられ一列に自転車が並んでいる。

フェンスの向かいには、工事現場の背の高い仕切りが立っている。

仕切りのきわの上空にはクレーンのアームが鉄色の建材を吊り下げていた。

歩いて行く途中、視界の端に映るそれがやけに揺れたように見えた。

直後。


ギシッと音がした。


ガシャンと何かが地面を叩きつけた。


カランカランと乾いた音が転がる。


周囲の音が消え。


直後、悲鳴が響いた。


おばあさんが、落下物の下敷きになった。

近くに買い物袋と思しきビニール袋がとり残されている。

程なくして救急車が来た。

大混乱の駅前。

人混みのなかから飛び出すように救急車が発車した。


その夜、そのおばあさんは死亡した。




目を開ける。

時刻は14:45。

急ぎ、駅前の坂道を駆け上がる。

あと5分で坂道に来るなら、この近くにいるはずだ。

周囲を見回す。

────いた。

そちらへ向かう。


「おばあさん。すみません、道を聞きたいのですが」

目の前にはビニール袋を手にしたおばあさんがいる。

足を止めるために道を聞くことにした。

手早く済まされそうになっても、よくわからないと聞き返し続ければ時間が稼げるだろう。


ところがおばあさんは無言で僕の脇をすり抜けていった。

話しかけられたのが自分だと思わなかったのだろうか。


今度は後ろから肩を叩いて尋ねる。

「すみません」

「他を当たってくれ」


こちらを見向きもせず突っぱねるように言った。

まずい。

このままでは事故現場へまっしぐらだ。何も変わらない。


「待ってください!」


考えるよりも先に言葉が出た。

自分でもびっくりして硬直する。

よほど声が大きかったのか、おばあさんも固まっている。

心なしか周囲の視線も集まっているようだ。


しかし、それも束の間、すぐにおばあさんは足早に歩き出してしまった。


こうなったら仕方ない。

周囲の目をよそに、おばあさんが駅前のロータリーから坂道への曲がり角に差し掛かるタイミングで、僕はビニール袋を掴みおばあさんの手から勢いよく引いた。


驚いたおばあさんが振り返る。

おばあさんが皺を寄せ、何事か言おうと口を開いたちょうどその時。

上から銀色の金属の束が降ってきた。


ガッッシャン。

カラカラカラン。


思わず顔を伏した。

爆音がやみ、顔をあげると、おばあさんが腰を抜かして地面に座り込んでいた。

口元があわあわと小刻みに震えている。

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