05.死神とノスタルジーと

「いえ、スオウさんは悪くないです、えっと……」


 僕は基本的に元土蔵警備員かんきんされしものであり、死神やっかいなニートなので基本的に他者との関わりはほとんどなかった。


 ただ、その中で、たったふたりだけ僕に好意的に接してくれた人たちが居た。そのひとりが田吾作さんだった。


 田吾作さんが居たから、僕は少し人間になれたのだと思う。田吾作さんがいなければ僕はただ、何もない人形のような存在だったはずだから……。


 ちなみに僕の部屋にパソコンを設置してくれたのも田吾作さんだった。なお、名前からお察しの通り、田吾作さんは僕にはじめてあった時はすでに75歳のおじいさんで末期がん患者だった。


 けれど、田吾作さんは子供のような心と好奇心を持つ自由で型破りな人だった。だから、僕のような死神やっかいなニートにもとても色々教えてくれた。


 生涯結婚はしなかったけど、本人曰く沢山の女性と浮名を流したという田吾作さん、僕は結構田吾作さんが嘘つきなのも知っていたけど、誰かを傷つける嘘はつかない人でそれがとてもとても好きだった。


 その田吾作さんはよく僕の頭を撫でてくれた。初めてのことに怯えて、その手を振り払ったとき、田吾作さんは笑いながら、


「坊ちゃん、人っていうのはなんやかんや誰かのぬくもりが欲しい生き物なんだ。でもな、あまりに慣れないとそれが怖いこともあるし、不快な気がすることもある。それでも自分を責めちゃあいけねぇ。傷を負った人は触られるのがとても怖いし不快なもんだからな。だから、坊ちゃんも気にしちゃあいけねぇよ」


 と言ってくれて、はじめて許された気がした。だれからも死神やっかいなニートと扱われてきた僕にとってそれはとてもあたたかなものだった。


 その感触を田吾作さんが亡くなってしまってからずっと忘れていたけれど、それをスオウさんが撫でてくれた時に思い出して泣いてしまった。


 それは、多分傷口に触れたからかもしれない、けれど今はそれを不快と思うことはなかった。


「そうか、うん。じゃあもう少し撫でても良いか??」


 ニカリと笑ったスオウさんにただ、コクリと頷く。するとしばらく僕の頭を撫でてくれた。けれどそれを見ていたシオン王子がちょっとムスっとしていた。


「スオウばかりずるい。私だって、クイル様に触れたいのに……」


 なんだろう、スオウさんからは小さな弟を慈しむタイプのあたたかさを感じるだけど、シオン王子からは今まで僕が向けられたことのない感情を向けられている気がしてちょっと怖かった。


「あ、えっと、シオン王子は……ちょっと」


「どうして、私が怖いのかい??」


 少し寂しそうにされて、なんだか申し訳ない気持ちになったので、困惑した仕草でシオン王子を見つめたら、結果的に身長差で上目遣いになってしまう。


「隙あり!!」


 そんな僕をいきなり抱き寄せたシオン王子からはなんか嗅いだことない良い匂いがした。あ、ヤバイ、多分僕は臭い。死神やっかいなニート変な臭いしにがみすめるがしてしまう、申し訳なさで死にたい。


「あああばばばば、ぼ、僕はくさい、くさいのでやめてください!!」


「クイル様が臭い??まさかとても良い匂いだよ、まるで若竹のような……」


「はぁあああああああああああああああああ無理!!!!!」


 その後、僕は叫びながら気絶したらしい。らしいというのは後ほどスオウさんが教えてくれたからであって、実際は知らない。ただ、マンボウさんのように繊細な死神やっかいなニートはこのことでシオン王子を苦手認定したことは言うまでもない。

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