第十五章 自白

 それから、ルイス警部は、リカルド・デラの住んでいるシェアアパートメントに電話をし、彼に英国特別捜査機関のスペイン支部のある住所を教えて、来る様に言った。時は六月二十日の木曜日の午後三時だ。リカルド・デラは、少しばかり不安げな様子で、ルイス警部に言われた通りの住所まで、公共機関を乗り継いで、英国特別捜査機関のスペイン支部のゲートを通り抜けた。そして小さな取調室へと通されたのだ。その部屋はとても殺風景な灰色の部屋で、中位のテーブルと中位の椅子が、一方には一つともう一方には二つ、置いてある切りだった。数分してその部屋へとルイス警部とオルコット捜査官が駆けつけた。ルイス警部はいくつかのファイルを携えて、オルコット捜査官は手ぶらのままで、扉を開けて入って来て、リカルド・デラに一つだけ用意されている方の椅子に座る様に言って、自分とオルコット捜査官はリカルド・デラと向かい合う様に用意されている二つの椅子に座った。座ると直ぐに、オルコット捜査官は、デラに「飲み物でもいかがですか?コーヒーか水でも」といった。デラは、きょとんとした、全く警戒心の無い様子で、オルコット捜査官に「いや、結構です。あっ、待って下さい、紅茶がありますか?もし紅茶があるとありがたいのですが」といった。オルコット捜査官は、手際よくその場から立ち上がると、デラに「分かりました、紅茶ですね、直ぐに持ってきますよ」といって、扉から外へと出た。すると、ルイス警部は、淡々とした様子で、デラに「実の所、事件の捜査に進展がありましてね、デラさん。それでお話しを伺いたいと思いまして、ここにお呼びしました」といった。デラは、少し表情が硬くなりながら、ルイス警部に「そうですか、捜査に進展があったんですか、それで私に聴きたい事とは、いったいどんな事ですか?」といった。ルイス警部は、少し低い声で、デラに「実はリカルド・デラさん、あなたが事件現場にいたという物証が出て来たんです。」といった。デラは、少しばかりか嫌悪感のある様子で、ルイス警部に「その物証とは、一体何ですか?」といった。すると、紅茶を片手にオルコット捜査官が、部屋に舞い戻って来た。部屋に入ると、オルコット捜査官が、デラに「紅茶を持ってきましたよ、どうぞ」といって、カップを彼の前に置いた。デラは、苦虫を噛み潰した顔で、オルコット捜査官とルイス警部に「ああ、ありがとうございます。それで私が現場にいたという、物証とは何ですか?」といった。ルイス警部は、デラにセビリア大聖堂で発見した土の成分や、事件現場にあった衣服から採取されたDNAや、事件現場にあった、衣服から採取された化学物質のクロチアゼパムという、ベンゾジアゼピン作動性の薬などが、デラの靴底に付着していた土や、デラが提供した髪の毛からのDNAや、髪の毛に蓄積されている成分にある、化学物質などと一致したという事、またデラがセビリア大聖堂の天井をくり抜く事の出来る技術を、習得している事を順を追って丁寧に説明した。デラは、少し考えた後に、ルイス警部とオルコット捜査官に「でも、事件現場で、その上事件時に、私を見たという人は、一人もいないんでしょう?」といった。ルイス警部は、鋭い眼をしながら、デラに「確かにそうですが、今僕が説明した様に、デラさん、あなたに繋がる物証が、これだけ集まっている理由を、お教えください」といった。オルコット捜査官が、手を組みながら、前に乗り出して、デラに「もし協力的に自供をして下されば、その事を条件に初犯ですし、減刑もあるかも知れませんよ」といった。ルイス警部は、なだめる様に、デラに「このセビリア大聖堂での事件は、君が一人でやった訳でも無いんだろ。実は他に主犯となる協力者がいるんだろ、その主犯となる人物の事を、話してくれないか。もし話しをしてくれたら、また減刑の材料に、なると思うんだよ、どうだい?」といった。オルコット捜査官は、ルイス警部の横で、尋問相手の様子をじっと、観察している。デラは、暫し考え込んだ様子で、息をゆっくりと吸い込むと、ルイス警部とオルコット捜査官に「うーむ、良いでしょう、主犯となった男の話しをしますよ。彼の名はジョルジュ・ミレー、金の強奪の計画を、指示したのは彼です。」といった。ルイス警部は、静かに問いただす様な口調で、デラに「そのジョルジュ・ミレーという男はいったい何者なんだい?教えてくれ」といった。デラは、ルイス警部とオルコット捜査官に「彼はフランス語訛りの、英語を話していましたので、恐らくフランス語圏の生まれだと思います。」といった。その後もリカルド・デラは、ジョルジュ・ミレーの事について話し続けた。デラの話しの区切りの良い所で、ルイス警部は彼に話し掛けた。ルイス警部は、デラに「それで主犯のジョルジュ・ミレーは、何か大きな犯罪組織に属している、という事はないのかな?それとも彼単独の犯行なのかな?」といった。デラは、目線を上に向けて、何かを思い出している様な顔付きで、ルイス警部とオルコット捜査官に「今回の犯行で、彼以外の人物に会ってもいないですし、話しもしていないので、単独での彼一人での犯罪計画だと思います」といった。ルイス警部は、有無を言わない口調で、デラに「ではあなたは、今回のセビリア大聖堂での金の強奪事件の犯行を認めますね、リカルド・デラさん」といった。デラは、静かな声で、ルイス警部とオルコット捜査官に「はい、私がやりました」といった。オルコット捜査官は、はっきりとした声で、デラに「後一つだけ、デラさん。あなたは何故今回の様な犯罪を行ったのか、いまだに分かりません。教えて下さい」といった。デラは、多少小馬鹿にした口調で、ルイス警部とオルコット捜査官に「犯罪?これは芸術ですよ。最初はちょっとした興味本位だったんですがね、少し考えると、これは自分の才能を試せる、良い機会だと思ったんですよ。それで私はこの犯罪計画に加担したんですよ。次に私がどの様に犯行に及んだのか、知りたくありませんか?折角ですからお教えしましょう。まず初めに私が、完全犯罪を目論む人物たちが集まる“デビルズアイ”というサイトがありましてね、私はそこに登録していたんですよ、そこに訪れる人たちと同様に、私は自分の犯罪計画を発表したんですよ。すると、私の所にあるメッセージが届いたんですよ。私の完全犯罪の計画に感銘を受けたとの事でした。計画だけでなく実際に完全犯罪を行ってみないかとの事でした。その後も何度かメッセージのやり取りをしたんです、そして実際にメッセージを送っている人物に、会う事にしたんですよ。その人物というのがジョルジュ・ミレーです、彼は私の才能を披露する場を、設ける様に手配したいと言って来たんですよ。そして私はその申し出を受けました、こんな良い話し、断る理由なんてありませんよ。私は楽しみで胸が高鳴りました。その後も私とミレーは、私の犯罪計画と用意できる道具などの事を話しました。そしていよいよ、ミレーは犯罪を決行する日取りを決めました。それからミレーと私は、二人で考えた犯罪計画を実行に移したんです。まず初めにスペインが、世界に誇る画家であるバルトロメ・エステバン・ムリーリョの作品を盗み出すという、予告状を六月四日の火曜日に送りつけました。なぜならバルトロメ・エステバン・ムリーリョの作品に、警備が集中して、その他のあらゆる警備を、手薄にする為でした。まんまとセビリア大聖堂の警備担当の人たちは、引っかかってくれました。それはそれは面白い位でしたよ。そしてこの警備体制を維持して貰い、その隙にお目当ての金を頂こうという事でした。あまり用心して、予告状を送り付けた日よりも、かなり時間が経つと、警備が他に向くといけませんからね。そして私とミレーで考えた絶好の機会としての、六月十二日の水曜日が訪れました。その日の午後九時半になると、私はミレーに用意して貰った、道具をリュックに詰め込み、建築する時に着る作業着に、ゴーグルを身に付けて、セビリア大聖堂に隣接する、建物の屋上に向かい、その場からセビリア大聖堂の屋根伝いに、ワイヤーロープを備えたネジ状の釘を撃ち込み、そのワイヤーロープに自分の作業着のベルトを繋げて、そのワイヤーロープを使って、下のセビリア大聖堂の屋根に滑り降りました。セビリア大聖堂の屋根に着いたのは、午後十時で、私はミレーが用意した、小型無人機の六つに、ワイヤーロープを取り付けて、そのワイヤーロープを先程使った、ワイヤーロープと同じくネジ状の釘を取り付けて、木製祭壇衝立のある部屋の屋根に撃ち込みました。私はそれからまた、ミレーが用意した、建築に使う高性能のレーザーで、屋根を円形状にくり抜き、六つの小型無人機の電源を入れて、それらの小型無人機を空へと舞い上がらせて、くり抜いた天井を引き抜きました。この天井をくり抜く時に、私は建築で使う、爆薬を用いたくり抜き方と、同じ物理の法則を使いました。恐らく爆薬を用いた時に、くり抜き方がとても似ている筈ですよ。また建築用の高性能のレーザーだったので、作業時の音はしませんでした。建築用はなるべく作業時の騒音を出さない様に、加工されているのですよ。そしてこの引き抜いた天井は、そのまま小型無人機に任せて近くの海の中へと、静かに沈めました。それからくり抜かれた天井から、自分にワイヤーロープを繋げて、ゆっくりとセビリア大聖堂内の地上へと、降り立ちました。その後木製祭壇衝立に、私は近づいて行き、天井をくり抜いた時に使った、高性能レーザーでやはり木製祭壇衝立の金を、計画通りに削り取りました。そして直ぐに、セビリア大聖堂の屋根伝いに、設置した装置で、ワイヤーロープをどんどん引き上げて行きました。音をなるべく出さない様にしていましたが、くり抜いたので、どうしてもその残骸が落ちて来て、小さな音を立ててしまい、私は内心焦りながら、ワイヤーロープを引き上げました。すると途中で作業着がくり抜かれた所で、引っかかってしまい、その引っかかった作業着の部分を、引きちぎって上へと昇りました。屋根伝いに到着すると、使用したワイヤーロープの一部が壊れていました。時計を見ると、午後十時十六分でした。これ以上ここにいると、警備員に見つかると思い、またワイヤーロープの一部が、セビリア大聖堂内にあるのではないかと考えました。私は少し心配になり、セビリア大聖堂の隣接する建物に急いで戻り、セビリア大聖堂の屋根伝いと、セビリア大聖堂に隣接している建物に、自分がいたという証拠が残らない様に、使用した物を全て持ち帰りました。もちろん壊れたワイヤーロープの一部を除いてです。それから私は、セビリア大聖堂から少し離れた、待ち合わせ場所の曲がり角に行き、ミレーに金を渡しました。」といって、ほくそ笑み、高笑いをした。ルイス警部は、少し気を緩めて、デラに「そうですか、ではこれに、今言った事を書いて下さい。デラさん」といって、用紙とペンを押しやった。少しして、リカルド・デラが書いた書類を手にして、ルイス警部とオルコット捜査官は取調室を後にした。ルイス警部は、通路をゆっくりと歩きながら、オルコット捜査官に「これでセビリア大聖堂の金を強奪した犯人は分かったが、後は金を持ち去ったジョルジュ・ミレーという男の事を、特定し逮捕しなければいけないね。オルコットさん」といって、振り返った。オルコット捜査官は、ルイス警部に「そうですね、どうしますか?これから。まずはリカルド・デラの逮捕で、一息つきますか?これから一杯やりに行きましょう、ジョナサン警部?」といった。

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