第26話 夏と海は離れられない
夏休みは時間が過ぎるのが大変早いものだ。普段の学校生活とは違い、時間の使い方が自由に選べる。
好きに過ごすことが出来るため、時間が早く過ぎるように感じてしまう。しかし、無駄に過ごしたわけではないので、それもいいものだと思う。
さて、初めに『時間の使い方が自由に選べる』と言ったが、それが許されない状況下というのが存在している。
例えば、強引な先輩に遊びに誘われた時とかだ。
て事で、僕は今車の助手席に座っている。
走る車の窓から変わっていく景色を眺めながら、ぼんやりとしていた。
こう知らない景色だと、なかなか楽しめる。
街の感じとか、自然な感じとか、面白いと思ってしまう。
景色を楽しむなんてことはあまりない僕なので、貴重な体験をしているみたいだ。
「いやー、海!!楽しみだね!!ねぇ、糸!!あ、お菓子食べる?」
「お菓子はいいやー、飴舐めてるし。楽しみなのは同意だねー」
後ろの席からは騒がしい声が聞こえてくるが、いつも通りと言ったところだろう。
はい、今、僕らは海に向かっています。
夏といえば海というように定番な遊び場だろう。まぁ、僕は夏に海なんて言った事はないのだが。
美琴さんが予定を組んだ時に、海に行こう!と言っていた為、僕は海に駆り出されている。
美琴さんのお父さんに車を出してもらって、僕と美琴さんと糸さんで向かっている。
「はいはい、到着だよー!」
美琴さんのお父さんが元気よくそう言った。
「お、着いた?着いた!!うーん、よし、行こう!!!」
「ちょっと美琴!お菓子、お菓子片付けてからにしなさい!」
勢いよく飛び出した美琴さん、まるで母親のように怒る糸さん。
「よし、空くん。僕らも行こうか?」
「はい、あ、運転ありがとうございます」
「君はいい子だねー!どう致しましてかな!」
僕は運転のお礼を言って、車を降りた。荷物を持ち、美琴さんのお父さんの後に続く。
「さてさて、おーす!」
「いらっしゃい、
入っていったのは、今日は定休日である定食屋だ。中にはガタイのかなりいい、というか筋肉ムキムキの男性が立っていた。
美琴さんのお父さん、もとい
海から近く、毎年この時期になると駐車場と更衣室がわりとして、家を貸してくれているらしい。
夏であり海のシーズンであるために、周辺は人でいっぱいだ。だからこそ、知り合いにこうして家を貸してもらっているわけだ。
「お、君が例の後輩くんだね?よろしくね、僕は
例の?てか、美琴さんのお父さんの友人まで僕の事が知れ渡っているのか?
これが美琴さんの影響力というやつだろうか?何だか少し怖くなってくる。
「えっと、華咲空です。今日はありがとうございます」
「いやいやなんの。毎年の事だし、僕も友人と久しぶりに話したかったしね」
にこやかに自己紹介を済ませ、少し話していると奥の方から勢いよく足音が聞こえてきた。
「よし、着替えた!!!海だよ、海に行こう!!!空くん!!!」
いつもよりもテンションが高い美琴さんが、白い水着姿でそこに立っていた。
白く綺麗な肌に、すらっと長い手足、彼女のスタイルの良さが全面に出ている。
そして、水着という露出の高い格好、そしてその美しさにとてもドキドキして、見惚れてしまう。
「ふふん、どうよ?尊敬する美琴先輩の水着姿は?」
美琴さんがドヤっと胸を張る。少し恥ずかしくなり、僕は目を逸らしてしまう。
「あれ、空くん?耳が赤い・・・!!もしかして、空くんが照れている!!あははー、へー、ふーん、そっかー!!!!」
ニコニコと満面の笑みを浮かべる美琴さん。美琴さんに照れているのがバレてしまった。
ああ、ちくしょう、なんか悔しいぞこれ。美琴さんが美しいのは事実なのだ。しかし、美琴さんに照れるのは負けた気がしてならない。
「ちょっと美琴ー!まだ上着着ときなよー」
そんな声と同時に糸さんもやってきた。
その手には上着があり、彼女自身もパーカーを着ている姿だった。
「あははー、ごめんごめん。楽しみでつい、ね!!」
美琴さんは、糸さんからの上着を受け取り羽織る。
このタイミングで糸さんが来てくれて、とても助かった。
「よし、空くんも着替えてきなよ!ほら、早く!!」
美琴さんに促され、僕も着替えに行った。
◇◆◇◆
ジリジリと太陽が照りつけ、僕らを襲う。普段よりもだいぶ薄い格好だが、夏の暑さはその程度ではどうしようもならない。
そして、目の前に見えるのは大きな青い海・・・・・・というか、多くの人たちの方が目に映る。
流石にシーズンというべきか、多くの人が海を訪れていた。
「いやー、凄い人だねー」
「よし!行こう!!」
のんびりと辺りを見渡す糸さんと、さっきからおんなじ様なセリフしか言わない美琴さん。
どんだけ行きたいんだこの人は、もっと落ち着きを・・・・・・と思ったが、この人にそれを求めるのは無理だろな。
「わっはー!!!」
そして、彼女は上着を脱ぎ捨て、全力で飛び出していった。楽しそうな声を上げながら、とてつもない速さで走っていった。
え、はやっ!もう海に入ってる。
「あはははは!!いい!海!最高!!空くーーーーん!!糸ーーー!!早くおいでー!!」
とても楽しそうな笑い声が聞こえてくる。
これだけ人がいて、話し声や騒いでいる声が聞こえているのに、彼女の大きな声はよく通った。
「あははー、よし、私たちも行こうかー?」
「はい、そうですね」
「うんうん、行っておいで。荷物とかは僕らでやっておくから、子どもは遊んで来なさい」
「おじさん、ありがとうー!」
「ありがとうございます」
頼りになる大人に任せて、僕と糸さんは美琴さんの元へと駆けて行く。まぁ、僕も海を前に抑えられない様だ。
普段ではあまり起こり得ない心の躍動に身を任せ、海の中へと入る。
足が、少し沈む。波が流れ、動いてくる。
「おお」
なんか感動だ。テレビとか、物語の世界では知っていた海というもの。身近にある様で、触れ合ったのは初めてだったりする。
うーん、これが海かー・・・・・・
「・・・・・・うわっぷ」
僕が噛み締めていると、顔に水がかかる。チラリと飛んで来た方を見ると、そこにはとんでもない笑顔の美琴さんがいた。
「いやー、空くん!!!楽しいね!!」
僕は今来たばかりで、今海に入ったばかりなのだ。ああ、だけど、今ならこのテンションの高い美琴さんの気持ちがわかる気がするのだ。
「はい!そうですね!」
だからそう答える。
「おお、空くんが楽しそうだ。ねぇ、糸、見た?今の顔!」
「見たよー、いい顔してたねぇー、後輩くん」
え、何?僕はそんな変な顔をしていたのだろうか?ペタペタと顔を触り、目を逸らす。
「ふーむ、よしよし。ここはお姉さんたちがもっと楽しませるべきだねぇー、美琴さんや」
「うんうん、そうだね、糸さんや!!この美人な先輩たちが空くんと楽しく遊んであげようじゃないか!」
あー、なんか先輩方が相談をしている。まぁ、いいか逆らえる様な感じでは無さそうだし。それをするつもりもないし。
「よし、じゃあ遊ぶぞー!!」
「おー!」
「おー」
だから、僕もちゃんとのり、手をあげる。
「と、その前に・・・・・・空くんはどうして上着を着たままなのかなー?」
「あー、これはこのまま入っても大丈夫なやつなんで・・・・・・」
「いやいや、海に来てその格好はダメだよー後輩くん!」
僕はガシッと肩を掴まれた。
え、なに?どういうこと?あ、ちょっと待って
「美琴さん、何をして!」
「いやいや、女の子だけ水着見せて、君が脱がないのはねぇー!!」
美琴さんにゆっくりとジッパーを下されて行く。ああ、逃げたいし抵抗したいけど、糸さんが邪魔をしてくる!
「よし、美琴!やっちゃえ!空くんの肉体を見るのだ!」
「ふふふ、了解!!ごめんねー空くん!大丈夫、どんな身体でも笑わないよ!!」
2人ともとてもノリノリだ。もう、ノリに乗っている。
海に来る前の車の中とか、さっきの海に入った時よりも、楽しそう見えるのは僕の気のせいでしょうか?
僕は抵抗も出来ぬままに、上着が剥ぎ取られた。
「・・・・・・おおー」
「これは・・・・・・なかなかですなー」
追い剥ぎ2人は、感嘆の声をあげる。とても恥ずかしいからやめて欲しい。
彼女たちはそんな僕にはお構いなく、ツンツンとつついてくる。
「空くん、運動嫌いとか言ってたけど、鍛えてるんだねー!」
「いや、ほんとに。後輩くんは細マッチョってやつだー!いやー、いい筋肉してますなー」
ニヨニヨと満足そうな顔をしている2人。なんかもうドット疲れた僕。
ああ、もう、勘弁して欲しい。
「あははー!空くん、ごめんごめん!!」
「いやー、弄りすぎましたなー!お詫びに美琴のお腹でも触っていいからね、後輩くん」
「え、糸何言ってんの・・・うー・・・・・・お腹はちょっと恥ずかしいけど、うん、空くんが望むならしょうがない!!私たちのお腹なら触っていいよ!!」
「え、私のも?えー、仕方ないなぁー」
ずいっと2人が前に来た。僕は思わず2人を見る。
白い水着を纏う美琴さん。紺色のフリフリした水着を着ている糸さん。2人とも恐ろしいくらいに水着が似合っていた。
てか、何を了承しているのだろうか?お腹を差し出さないで欲しい。
健全な男子高校生になんたる仕打ちか!ふざけている!
僕は若干の怒りとか悶々とする感情とか、なんかもう色々のせて、2人に思いっきり海水をぶっかけた!
「ああ、もう!やめて下さい2人とも!もういいですから、遊びますよ!」
もう、やけくそだ。
美人な先輩の綺麗なお腹を触るとか、僕にはハードルが高すぎる。出来るわけがない。
ならばどうするか?もう、関係なく遊ぶしかない!
「「ぷっ、アハハハハハ!!」」
2人は大きな声を出して笑った。
「うん、そうだね。遊ぼう!!私たちは海に来たんだ!!」
「フフ、そうだそうだー!楽しもっかー!」
パシャパシャと水をかけ合う。
海の遊び方がこれで合っているかは、分からない。まぁ、そんな事はなんでもいいと思う。
楽しいと思えればそれでいい。ただそれだけで十分なのだ。
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